君と食べる、本格唐揚げRPG
──君と食べる、本格唐揚げRPG──
そんな一文に一本釣りされたクロが買ってきたゲーム、その名も『唐揚げ戦争』。僕個人としてはタイトルだけで買いそうな気配がしなくもない。
「さーて、引きの弱いクロがどんな問題作を引き当ててくれたのか楽しみだね!」
「問題作って言うな。まだプレイ前だろ?」
「だってタイトルが既に問題作臭しかしないんだもん」
だからこそやる前からこんなにも楽しいんだけどね。わっくわくだよ。ワクワクし過ぎて、縛り内容考えるの忘れちゃった。レベリング禁止でとりあえずはいいかな?
オープニングをうっかりスキップしてゲームスタート。そして始まるモノローグ。
『今晩の夕食をどうしようか。そう悩んでいた僕たちの前に現れたのは、唐揚げにピッタリな鳥モモ肉だった』
「……主婦かな?」
夕飯の買い物から始まるのこの話? そっからどう戦争に発展して、RPGになるのか皆目検討もつかないんだけど……。
「え? 前置きこれだけ?」
「……みたいだな。唐揚げ用の肉買ったことしかわかんねぇぞ……」
「あ、しかもキャラ選べるんだね。ストーリーもそれぞれあるのかぁ……」
即終わってしまった前置きの次に表示されたのはキャラクターの選択画面。九人の中から好きなのを選んで始めることかできるみたい。情報は各キャラのグラフィックと名前だけで、それがどんな子なのかもよくわからない。ステータスもわからないってちょっと怖いね。それぞれのストーリーがあるってことは、統一ステータスじゃないと思うんだけど……。
「しょうがないから好みで決めよっか。クロは誰がいい?」
「あー? あー……この水色の髪やつかな……」
「うんうん、いいおっぱいしてるよね。じゃあこの子は選ばないーっと」
「なんで聞いたんだよお前」
クロの好みでプレイしてあげるわけがないじゃないか。確かにこのおっぱいは理想ではあるけどね。
水色の長い髪をハーフアップにしたその子は腕を組んで不機嫌そうな表情をしている。名前は『雨宮雪乃』って書いてあるね。緑のちっちゃい子──『雨宮気流子』──とは姉妹なのかな? カラーリングも全然違うけど、名字が一緒だし。
おっぱいで言えば、この緑の子の隣の金髪の人、『猫神綾』も気になるよね。大分巨乳だよこれ。実際にいたら揉みたいし埋まりたいし挟まりたいサイズ。いいなぁ……。
っと、そうじゃないね。こんなところで時間をかけすぎるのもなんだし、さくっと選ばなきゃ。
「んー、この子かな!」
ちょっと悩んで決めたのは赤いチャイナ服を身に纏った『黒岩暁』って子。なんかパッと見ですごく好みだったんだよね。
その他の眼帯のショタっぽい子とか、顔立ちはキレイなんだけど足がやけに筋肉質な子とか、みんな気になるから最終的には全員やるんだけどね。
さて、キャラが決まったことだし早速始めよう。ポチッとなっと。
『っしゃあ! 今日は! 唐揚げ! ッですだァァァァァァァァ!!』
「待って!? 第一声からキャラちがくない!?」
「ものっそい雄叫びあげてるな……」
大人しそうな表情はなんだったの!? 確かにチャイナ服着てるキャラは語尾が特徴的って王道だけど、でもテンションが桁違いじゃない?
『唐揚げなんて滅多に食えねぇですだからな……ここは食えるだけ食うに限るですだ!』
まあ、確かに家庭料理で唐揚げって出しづらいよね。揚げ物って面倒くさいし。コンビニに走る方が早いし、思いの外食べないのかも。
なんて思っていたら画面が切り替わって、戦闘する感じのコマンドが出てきた。どういうことなの!?
「と、とりあえず『たたかう』でいいのかな……?」
「試しに『どうぐ』でも使ってみたらどうだ? 何持ってるか知らねぇけど……」
「んー……あ、お箸持ってるみたい」
「夕飯だもんな……」
とりあえずクロのアドバイスに従ってみて、どうぐ欄にあったお箸を使ってみた。
『先手必勝! 唐揚げは儂のもの! ですだ!』
あ、めっちゃいい笑顔が出た。スチルが出て来て、そのなかで暁ちゃんは物凄くいい笑顔で両手にそれぞれお箸をもって唐揚げに突撃している。わー、すごい疾走感。
そこにすかさずカットイン! まだキャラを把握してないから全く誰かわかんなかったけど、茶髪っぽい子だったのは確かだね。
『堂々とつまみ食いとはいい度胸じゃねーか!』
降り注ぐ拳骨。『critical』の文字。
……えっ、まだ夕飯前なのこれ!? 台所に箸二本構えて叫びながら突撃して拳骨食らってるの?
やっぱりここからどう発展していくのか皆目検討もつかないんだけど、僕はもう既にこの子に感情移入出来てしまいそうだよ。つまみ食いしたくなるレベルの唐揚げって最高じゃない? あー、唐揚げ食べたくなってきた。
怒りの拳骨は中々のダメージだったらしく、画面は暗転する。うんうん、クリティカルって中々侮れないもんだよね。
次に暁ちゃんが目を覚ましたのは暁ちゃんの部屋と思わしき場所。ここから本格的に始まるんだね。
『くっ、残念ながらつまみ食いに失敗したですだ。だが、儂はその代わり有力な情報を手に入れちまったですだ! タダで殴られてる訳じゃねーですだよ!』
場面が場面なだけに全く格好よくないね。そもそもつまみ食いをしようとした暁ちゃんが犯人な訳だし。
『唐揚げ用の肉が足りない……これは大事件、そしてチャンスですだ! 大量に肉を買ってきてやれば食える唐揚げの量が増えて、尚且つ! ご褒美として儂の分の唐揚げが増える!
これは! いくしか! ねぇですだよーッ!!』
こうして叫びながら家を飛び出し、物凄い速度でマップを駆け抜けていく暁ちゃん。なんだろう、この子、すごくバカなんじゃなかろうか。
目的地であるスーパーには物凄い速度で辿り着いて、この子が本当に本気で肉を求めていることが窺い知れる。そしてスーパーのなかにはいると、やっとここで暁ちゃんを操作できるようになった。
「さーて、やっと始まったわけだけど、こっからどうしたらいいんだと思う?」
「とりあえずお肉コーナーで肉をゲットすればいいんじゃねぇか?」
「だよねー。うーん、戦う要素が全く見つからないね……」
なんて会話をした矢先に画面が切り替わる。え、何とエンカウントしたの!?
現れた敵のグラフィックはキレイなピンク色のぬめっとしてそうな塊。名前には【唐揚げ肉】と書かれていた。
「大人しく買おうよッ!?」
思わず叫んでしまった。
いやぁ……うん、まさか敵が唐揚げ用の肉だとは思わないじゃんね……。え? ちゃんと買うよね? 勝利したら買えるみたいなシステムなんだよね……?
『喰らえ、【ギガントファイアー】ッ!!』
とりあえず技を選択して攻撃。一番MP消費が少ない技にしてみたんだけど、一瞬で敵が溶けた。え、これ弱攻撃じゃないの。しかもこれ、完全に肉焼けたよね……。
『暁は【焼けた肉】を手にいれた!』
っほらー! 焼けちゃってるじゃん!
もう肉がドロップ品ってことにはこの際目をつぶるよ。それよりも、選択した技によってドロップが変わっちゃうのは問題だね。次からは考えて技を選ばないと。
という訳で二回目のエンカウントいってみよー!
「んー……ねえクロ、一つ聞いてくれる?」
「……見事に炎系の技ばっかだな」
「そうなんだよ! 属性が炎なんだよ!」
なんで肉を全力で焼きにいくスタイルなんだよ! 生肉を手にいれる努力をしようよ!
なんて喚いていても仕方無いからとりあえず殴ってみるかな……。さすがに拳にまで炎をまとわないと信じたいところだね。
『おっらァ! ぶちのめせですだ!』
物騒なボイスと共に生肉を殴る暁ちゃん。またしても肉のHPが一瞬で溶けて勝利する。暁ちゃん強すぎ。
『暁は【唐揚げ用の肉】を手にいれた!』
やったね!
とりあえずこれからは生肉が集まるまでこの辺をぐるぐるして、ただひたすら肉を殴ればいいかな。うーん、早くも作業ゲーの予感。敵が弱すぎるっていうのは考えものだよね。
「ねぇねぇクロ、お願いがあるんだけど」
仕方がないからクロにはパシりになってもらうかな。殴るだけじゃあクロの知恵を借りる必要も無さそうだし。それに作業ゲーになるなら出来るだけ無駄なことはしたくないしね。
「ちょっとコンビニまで走って唐揚げ買ってきてくれない?」
「……しかたねぇな」
クロは一つ返事で請けてくれた。うんうん、やっぱそうだよね。無償に唐揚げ食べたくなるよね。
このゲームがこれからどんな展開を見せるのかはまだまだ皆目検討もつかないけど、一つだけわかったことがある。
「お腹が空いてるときは絶対にやっちゃいけないよね」