最強伝説! 転生トラック!!
多数のパk……オマージュがあります。
ヲォォォォォォォォォォォンンンッッッッ!!!!
魂が唸りを上げる。我輩はその叫びのままに加速する。軽トラに該る我輩は現在空荷であるが故に脚も軽快だった。
行方を握るはついにボケが始まった中村田吾作(87歳)。
今もブレーキとアクセルを踏み間違えて幹線道路を颯爽と走り抜けていた。
そう颯爽と。
ソーイチローの旦那に憧れた田吾作は車に関するあらゆる技術を修めている。老いたりといえ、その腕は未だ健在。
運転技術とて、今なおそこらの走り屋を置き去りに――否、異世界送りにするほど。
我輩の前バンパーはその歴戦の傷跡にもはやボドボドだ(オンドゥル語)。
そんな状態であるからして、ほとんどの人間が避けていく。
だが悲しいかな、ごく一部の人間は愚かにも注意を払わなかった。
ドッ!
だから、今また新たな傷が生まれた(トリビアの種)。
思いっきり跳ね上げられ放物線を描いて吹っ飛んでいくのは、黒髪猫背のオタク臭い男子高生だ。執念なのか手にはスマホがしっかりと握られている。モンストだかパズドラだか知らないが、命と引き換えにするほどだったのだろうか。異界でもそれが使えると良いな。
そう思う間に男子高生はフロントグラスの向こうから消えた。我輩の疾さ故か、彼の異界への旅立ち故か。
時速80キロを超すこの身にはうかがい知れない。
(また、つまらぬ者を轢いてしまった……)
だが我輩に感傷は許されない。
ファンファンファンファンファンファン……。
なぜなら我輩はともかく田吾作は国家権力を無視できないからだ。
『止まりなさい! そこの軽トラ、止まりなさい!!』
勧告がパトカーのスピーカーから大音量で流れる。
無駄なことを。
ボケた田吾作に言葉など届かない。
田吾作を止めたければ――ただ疾さにおいてしかありえない!
ヲォォォォォォォォォォォンンンッッッッ!!!!
魂が唸りを上げる。我輩はその叫びのままに加速する。
だが悲しいかな我輩は軽トラ。何もかもがパトカーに劣る。故に追いつかれることは必然。
ミラーにパトカーが映る。
『止まりなさいッ!!』
ほとんど“真後ろ”から制止の音声が拡大されて届く。
もしも我輩に顔があればニィと口角を上げたことだろう。
ヲォォォォォォォォォッングガァァァァ!!!
田吾作が強引にシフトチェンジ。無理やりパトカーの前に出る。
『危な――』ガッ!
スピーカーから溢れる音声が唐突に途切れる。否、スピーカーごと、否否、パトカーごと転生したのだ!
……敢えて聞こう。
――いつから後ろバンパーでは転生できないと思っていた?
――いつからパトカーは転生しないと思っていた?
所詮コネで就職した公僕どもが(※偏見です)車や銃付きとはいえ、異世界で生き残れるとはとても思えんがこれも運命の導きよ。
就職難の時代に安定した職業に就いてしまえた宿業を異界で嘆くがいい!(※偏見です)
ヲォォォォォォォォォォォンンンッッッッ!!!!
魂が唸りを上げる。我輩はその叫びのままに加速する。
公僕どもを異界送りにした我輩は揚々と行き先を田吾作に任せ、幹線道路をひた走る。
実に天気がいい。転生日和というやつだ。
もうひとりふたり轢いておきたいところだが、そうは問屋が卸さない。
“歩道が空いているではないか”からの“超エキサイティンッ!”とは行かないのだ。
幹線道路だから植え込みがわりとマジで邪魔なのだ。
――不意に脚から違和感が走った。
すわ故障かと一瞬狼狽えたが、違う。
くわっと視線を上げて目を見開いた。
対向車線、その彼方に同車種が走っている。
しかしそれは4トントラック。否、コンボイ司令がごとき威容を誇るトレーラーだ。
さらに悪いことにそいつの前バンパーはボドボドだ(オンドゥル語)。
――転生トラック。
そんな事、ありえるのか?
疑問が胸を突いた。
しかし直感がそうだと警鐘を鳴らしている。
さらに奴は中央分離帯を乗り越えようとしている。
同じく我輩の異様に気づいたようだ。
軽トラと違ってトレーラーの運転手はプロだというのに実にイカれている。SAN値は足りているか?
と思ったのも束の間、奴はその馬力そのままに分離帯を超えてくる。田吾作もようやく事態に気づいたようだが、ハンドル捌きに乱れは見られない。ボケてなお意気軒昂というところか。
よろしい。
その巨体、転生の餌食にしてくれる! 本日三人目の転生者は貴様に決定だッ!!
ヲォォォォォォォォォォォンンンッッッッ!!!!
魂が唸りを上げる。我輩はその叫びのままに加速する。
田吾作がステアリングを捌き、ほとんど幹線道路を横断するように突っ込んできた奴をわずかに残された道幅から歩道に乗り上げるようにほぼ片輪走行で切り抜ける。通り際、運転手が驚愕したのが見えた。やることはイカれていても感性は通常のようだ。
だが仮に感性がイカれていたところで、もはや奴に打つ手などない。
いかな馬力がすごかろうと鈍重極まるコンテナを牽いていては反転さえままならない。
田吾作は2秒でサイドブレーキをひいて前輪をロック、華麗にドリフトで切り返した。
かつて閃光と呼ばれ、切り返すごとに敵を置き去りにしてきた田吾作の18番だ!
ハイ、ご苦労様Death。
そんな言葉を我輩は幻聴した。直後――
ガンッ!
時速80キロ近い速度で必殺技をぶち込む!
果たして重量差を考えればただでは済まないのは我々のほうだ。
しかし歴戦の古兵が因果を逆転する。
あっという間に奴は消え去り、すでに時速100キロまでつり上げた速度で幹線道路を逆走するボケ老人と我輩だけが残る。
幹線道路は阿鼻叫喚に包まれた。
超エキサイティン!!
各人ごめんなさい(特に主催者様)。