3. 恋愛マスター
公開告白を終えた小町一同はいつものファストフード店にいた。
ズズッとジュース啜る音が聞こえて早10分。
「小町、いつまで無視してるの」
10分間ジュースを睨んでいた小町が顔を上げると美しい御尊顔が目に入った。
「いつまでって…いつまでもこれからも…それに私は告白に対してお付き合いできないと言いました!」
そして再びジュースを睨む。
「小町さんはつれないなぁ〜」
大体どうしてこいつはこんなにも私に執着するんだ。
12人も彼女がいるくらいだし、この顔であれば引く手数多だろうに。
「よく知りもしないだろうに兄貴のどこがいいの?」
田口(兄)との出会いは1年前の駅だった。
入学式を控えていた私は、ガッツリ遅刻をしていた。
「なんで入学式に遅刻なんてするんだよ〜!!アラームたくさんかけておけばよかった〜!!」
と言いながら駅の構内を猛ダッシュしていたら…盛大にコケたのである。
生足命のギャルの膝は防御力などなく、流血大サービス。
あちこち痛いし、周りの視線が痛いのに誰も助けてくれない…
そんな時に声をかけてきたのが田口(兄)だった。
「なにしてんだよ、立てるか?」
そういってハンカチを差し出すと「ハンカチはそのまま使って」と言い残し、歩けることを確認するとお礼を言う間も無く颯爽と去っていた。
実にベタな出会いのシーンだったが、どうしようもなく恋に落ちてしまった。
つまり一目惚れである。
「というわけでして…そのうち同じ電車で見かけて、どうにか近づいてカバンに引っかかっていたパスケースを見て名前を知るなどしました」
「ストーカーじゃねえか」
ぐうの音も出ない。
ちなみにハンカチも勇気が出ずに返さずじまいでずっと大切にカバンにいれて持ち歩いていた。
「そんな名前しか知らないおじさんに告白するのやばいな」
ぐうの音も出ない。
「でも、兄貴に一目惚れってことは俺にもまだチャンスはあるってことだよね?この顔じゃだめ?」
「だめとかだめじゃないとかじゃない。私は年上にしかときめかないんだよ!!」
「俺だってそのうち歳とればばあんなんになるよ」
そう言う問題ではないだろ、そもそも好きでもないやつとは付き合いたくない。
「なんでそこまでして私に執着するの?」
「んー…内緒」
そんな理由もないやつとは余計にお付き合いなんてできない。
ジュースも底を尽きたので、そろそろ出ようかと立ち上がると
「あーー、待ってごめん。じゃあさ、付き合うのは一旦置いておくとして、俺が恋愛アドバイザーになってあげるよ」
「は?」
「兄貴についての情報なんもないんだろ、落とすなら身内にアドバイスもらうのもいいんじゃない?」
なんならデートまでセッティングしてあげるよなどと言ってくる。
でーと…いいひびきではある
「よし、そうと決まれば今後連絡も必要になるからスマホかせ」
そういうと机に置いていたスマホをひったくって勝手に連絡先を交換してきた。
なんて身勝手なやつだ。
「俺は12人彼女がいた恋愛マスターだからな。大船に乗った気持ちで枻里様に任せなさい」
こうしてお付き合いは免れたものの、枻里は小町の恋愛アドバイザーに就任した。