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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天下無敵の傍若無人

作者: たらば

ここはとある国の冒険者ギルド、国の名前なんざ知らん。

いつもと変わらぬ平々凡々な日常、ではなく、蜂の巣を突いたような状態でてんやわんやしている。

騒ぎまわってる奴等の怒号を聞いていると、どうやら魔物の暴走(スタンピード)が起こってこの町へと向かっているらしい。

町に駐屯している軍が出るが規模はそこまで大きく無いから鎮圧出来るか微妙な所。


是非とも魔物にはこのままこの町を壊滅させる程に暴れまわって欲しい。何故かって?

俺がこの町の冒険者ギルドの『奴隷』だからだ、もう一度言うぞ?


 奴隷:人間でありながら所有の客体即ち所有物とされる者を言う。人間としての名誉、権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われる人。

    所有者の全的支配に服し、労働を強制され、譲渡・売買の対象(wikipedia参照)


つまり町の冒険者ギルドが潰れれば晴れて無罪放免、自由の身ヒャッハー!

まー、ここに来るまで散々な目に会った。そもそも最初の切欠は俺がこの世界に『転移』した所から始まる。


行き成りの森スタートでおっかなびっくりしながら進んでたら狩人っぽいおっさんに会ったんだ。そんで話を少ししたら森の外まで案内してやるってんだ、ホイホイと着いて行ったよ。

まずこの判断が間違いだった。今思えば森の中で他人とニアミス&迷子って何だよ、俺がおっさんなら絶対信じないわ。

そしておっさんも信じなかったらしい。


森から抜けて、おっさんに礼の一つでも言わねばと頭を下げたら気を失った。

目を覚ませば檻の中、おっさんは盗賊だった。その後は奴隷商に売られ、何人かの持ち主を転々としてた。

SEX狂いのババアや、サディスティックのデブ、奴隷を人と見ない奴等、今思い返しても良く死ななかったものだ。

兎に角、紆余曲折を経て俺はこの町のギルドに買われた。

今までよりは幾分増しだがブラック企業も真っ青の待遇っぷりだ。


休み無し、給料無し、家も無し。

延々とギルドの受付で事務処理&冒険者が持ってきた獲物の解体作業補佐。

そして職員のサンドバック代わり。


この世界に来て覚えたスキルは殆どが俺の壮絶な奴隷時代に覚えたものばかり、唯一ここに送られた時に覚えたスキルは未だに『lv1』から成長してない。

戦闘用スキルの類だとは聞いていたが、戦闘を一切させて貰えないのだ。伸びるはずが無い。というか使ったことすら無い。

更に言えば俺の首に付けられた忌々しい首輪、こいつが俺の自由を完全に奪ってる。

こいつの所為でスキル使用には申告しなきゃならねぇし、所定位置から逸脱すると首が絞まるって寸法だ。


(マジで滅んでくれねーかなこの町)


周りがいくら騒ごうが俺の知った事じゃねぇ、精々頑張ってくれってなもんだ。

とか思ってたらよ、俺にもお鉢が回って来た。


「今回のスタンピードの鎮圧に加わって来い」


ぽかんとしたね。嫌々、俺に死ねと? 戦闘経験もまったくないんだぞ、死ぬに決まってるだろうが。

何とか行かずに済まないかと説得を試みたが梨の礫。

どうしたもんかと必死に頭を捻るがまったく巧妙が見えない。

唯一の救いは今回の鎮圧に参加して、且つ暴走が終わるまで生き残っていたら奴隷からの開放を書面にて取り付けた事だろうか。

武器も無し、防具も無しの俺に出来る事なんて何も無いが、最後の命令には否が応にも従っちまう。


(これならババア相手に腰振ってる方がまだマシだったぜ)


内心毒づきながらも体は軍の駐屯所へ歩いていく。

周りには俺と同じような奴隷や、依頼失敗暦多数の奴等がギルド出張員として歩いている。軍の駐屯所へ着くと直ぐに部隊へ振り分けられて移動開始。

装備も食料も最低限、討伐体というより人身御供ってのが正しい呼び名と思っちまう。これから2日かけて、えっちらおっちら魔物の暴走族に向けて正にデスマーチとしゃれ込む訳だ。

どうか無事に生き残れます様に、別に誰かに祈る気は無いがやっぱり死にたくは無い。周りの奴等がどれだけ死のうが俺だけは絶対生き残る、そんな思いを胸にデスマーチを続ける。




歩き続けて丸二日、どうやら目的地に着いたらしく、陣の設営をするらしい。

成る程、戦闘要員としちゃ微妙な奴隷が先発隊に多数いるのは設営の為の様で、軍の下っ端に顎で扱き使われている。

それから3日、漸く軍の本体が合流。塹壕堀が終わり今度は雑用員にランクダウン(?)した。


夜になり、部隊長から呼び出しを受けて掘っ立て小屋へ行くと、何故か女を宛がわれた。

疑問には思ったが取りあえず女を抱く、こちとら溜まるもん溜まってるんだ。ありがたく食わせて貰おう。

そして翌日、特攻隊の隊長に任命された。


ぶち切れそうな頭を抑え、部下に任命された奴隷5人と陣の隅へ移動する。

多数在る切り込み部隊、その内魔物の勢いを殺す為だけの生贄部隊。

奴隷の殆どが特攻部隊に配属されたらしいと、部下の1人が語る。だがそんな事はどうでもいい。

ぶっちゃけこいつらが死のうが知った事では無いのだ、俺は俺が生きる為だけに頭を使おう。




ついに魔物の集団が近づいてきている。

まだ姿が見えないのに地響きだけは確かに聞こえる。

対策はしたとは言えないが、僅かな光明は見えた。だが地獄に垂れる蜘蛛の糸の様に不安で、賭けとも取れるそんな対策。

大丈夫、俺ならやれる。やってみせる。

そう自分に言い聞かせていると、ついにその時が来た。

丘の向こうから続々と出てくる魔物の集団、そして後ろからは軍の正規軍から槍を向けられる。

前門の虎、後門の狼。進めば魔物、下がれば殺される。

恐怖に駆られ、一隊が飛び出す。残りも釣られ走り出す。

集団に紛れる様に、俺の部隊も走り出した。

蟲に獣、鳥に植物。

ありとあらゆる魔物が混在する集団に向けて奴隷部隊は特攻をかける。


現実は非常だ、最低限の装備で魔物に向かえば誰だって死ぬ。

僅かに生き残っているのはある程度戦闘経験の豊富な奴だろう。

そんな中、俺はしっかり生きていた。

俺がどうやって生きて居るかって?




自分の作った落とし穴に落ちたのさ。




穴の底には杭があるが、そこでスキルの出番だ。


 黒化:体を黒に染める、染まった体は何者にも犯されない。


転移して覚えたスキル、今まで使ったことは無かったが使ってしまえば無敵になれた。

効果はシンプル、体が黒くなる。黒くなるとあらゆる事が無効化されるというものだった。

但しMPの消費が激しい。正直10分も維持したらガス欠になる。

だから落とし穴に落ちた、落ちた先で横穴を掘る。

掘れたら体を潜り込ませて盾を構えて縮こまる。


時折魔物が落ちてくる、死にそうな所に剣を刺す。

これを只管繰り返す。




どれ位時間が経ったのか、軍が勝ったか、魔物が勝ったか。

今はそれより隠れ続ける。

兎に角待つ、出るのは夜になってからだ。




夜になった。

辺りは静寂に包まれている。

風に揺れる草木の音と、虫の鳴き声を聞きながら穴から這い出し体を解す。

辺りには濃密な血の匂いと死体の山。

どうやら軍は負けたらしい。

だが一つだけ確かなことがある。







俺は賭けに勝った!!!!!!!!

勝った!!!!!!














































「自由だあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」




この日、俺の新しい人生が始まった。

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