7話 爆ぜる
仕事がヤバいのです…
ゴールデンウィーク?美味しいのそれ?
お待たせしました7話です
楽しんで頂けたら幸いです!
どうやら、うまく行ったようだ…
いや、行ってしまったが正しいのか?
ショウの背中を見送りった後、モーラは掃除を早々に放棄して背もたれの無いベンチに腰掛け、用意してあったハーブティーを楽しんでいた。
だが、一人ではない。
「草むしりに興じるのでは、なかったんですか?」
小柄なモーラの隣に腰に帯剣した男が座っていた。
男は背が高く、甘いマスクに乗っている笑顔が魅力的で細く長い銀髪を背中で一本にまとめた美丈夫である。
そして、何より長い耳が特徴的であった。
「ふん、魔法で焼き払っとくれよ」
「エルフは便利屋ではありませんよ
…彼が?」
「わからん…わからんのじゃよ」
モーラはティーカップを手で弄びながらポツリと呟いた。
「確かに、剛の者でも聖の者でも無いですな…
何と言うか、聖と言うより…」
「静じゃろ?
ま、物静かな奴じゃしな…」
男は首を振り否定した。
「闇の者です…それも相当な闇を抱えています
…外見の話をした覚えはありませんよ、グランマ?」
「その呼び方は嫌いだと言ったはずだよ」
モーラは新しいお茶を自分のティーカップに注ぎながら男を睨んだ。
「…失礼しました
しかし、だとしたら彼は部屋に入ることすら叶わない」
今度はモーラが首を振り否定した。
「いや、叶ってしまったよ…」
「…は?なにをおっしゃって…」
「今、月の部屋じゃ」
「って、いや、…え!?」
男は開いた口が塞がらない…モーラと魔法の扉を交互に何度も見て言った。
「闇の者の入室なんぞ、異例の事じゃよ…
だからの?
…わからんかのじゃよ」
モーラはショウをしばらく見続けていく内に闇の魔力を内包した人間であることを見抜いていた。
しかし、神の鎧が選定者の糸によって選んだ以上、信じて見守ることにしたのだった。
「で、でしたら何故!
こうしている場合ではないでしょう!?」
『やれやれ、先程までの涼しい顔はどこへやら…』
男は狼狽え、ベンチから勢いよく腰を浮かし今にも月の部屋に走り出さんとしていた。
「パフィリカが…守護の妖精王が選んだんじゃよ」
モーラのその一言に男は口を開けて固まった。
暫くすると男は俯き肩を震わせて言った。
「ら、乱心したのか…
永い眠りで頭の中に蛆でも沸いたのか…」
男はゆっくりと歩き出した。
「シュバルツ?
もぅ、帰るのか?」
「ご冗談を…」
シュバルツと呼ばれた男は振り返り、笑顔のまま言った。
「芽は若い内に摘まねばならないでしょ?」
言うとシュバルツは剣を叩いた。
・・・・・・・・・・・・・
「何これ?」
ショウは宝箱の中身を見て言う。
「石?石か?石だよな?」
そこにあった物は四角くキューブ形に加工された手に収まる大きさの、まさしく石だった。
「鉄鉱石?いや、でも…」
取り敢えずショウは右の手で取ってみるが、重くはない。
「見た目に比してこの軽さ…ん?」
ジィっと手のひらの石を見つめていると、徐々に熱を持ち始めた。
「温かい?っあ!」
ドクンと石がいきなり脈打ったのだ。
「気持ちわるっ!」
ビックリしたショウは驚いて箱に戻そうとする…が。
「は、張り付いた?ウソウソ!?」
石は引っ張っても引っ掻いても、手のひらから離れる事はなかった。
「パ、パフ…どうしよう」
どうしようもないのでここまで何故か静観していたパフに相談してみる。
「引いて駄目なら押してみれば?」
「真面目に聞いてよ…う?」
文句を垂れながらも押してしまうショウでしたが、特に何も起こりはしなかった。
「どうしよー!」
嘆いても現状は進展しないもの、とは言えどうすることも出来ず恨めしく手のひらに張り付いた石を睨む。
「押しがたりないんじゃない?」
「そんな馬鹿な事があるは…」
「とりゃー!」
パフのダイビングキックが石に炸裂!!
「なー!!」
手のひらに石は沈んで行きました。
はい、それはもうズップリと…見えなくなるまで。
「な、な、な、なーーー!?」
ショウは混乱した!
「なんじゃこりゃ?みたいな??」
「そう、それ!…じゃなくてっ!!」
訳もわからず突っ込んだ!
「石がなくなった!!」
「よかったね?」
パフは花が咲いたような笑顔だがそうじゃねぇのです。
「やばくないか?大丈夫なのか俺の体?
いやいや…それよりあれ、モーラさんのだから!!!」
「んー黙ってたらわかんないよ?」
「ですよね~!
…じゃないよ!一個しか入ってない物をどう誤魔化すの!
てか、さらっと言うな!」
バカやってる場合ではないよ!ヤバいです、非売品だったはずですよ、たしか?
「人の体に溶ける石とか意味不明だわ…
どうしよう…貴重な物だったのかな?
と言うかあれ何なんだ??」
「ショウ」
頭を抱えて悩むショウの目の前に可憐な妖精さんが舞い降りた。
「予測のつかない事は常に起こるもの
それが起こる度にイチイチ気にしていては大変です
事は既に起きてしまい、もやはどうしようもありません…
では、どうすればいいのでしょう?」
もはやどうしようもないのなら、どうすればもクソもありませんがショウは絶賛テンパリ中なのです。
「ど、どうすれば?」
迷える子羊に妖精さんは可愛いいお口で仰りました。
「無かったことに…」
「んな訳いくかぁ!」
「えへペロ!」
かわいい!!
「ちげぇよ!
いやいや、落ち着け…
素直に謝らないと…」
「取り敢えず外に出ようよ?」
やれやれ、とパフは肩を竦め外に向かう。
「ああ、そうだね。モーラさん許してくれるか…っつ!」
観念して出口に向かい足を踏み出した瞬間だった。
「あ、あづぁぁぁ!」
右手が焼けるように痛みだしたのだ。
痛みはどんどん増していき、ついにショウは右手を抱えて膝をつく。
痛みは右手、右肩と徐々に広がり、背骨に到達した瞬間一気に全身へ稲妻のように駆けて行った。
「っい、いづぁぁあぁぁあ!!」
「ショウ!」
ショウは体を抱いて倒れると、体を丸めて痛みに耐える。
「ショウ…大丈夫、大丈夫だよ…
ごめんね、もう少し耐えてね」
ショウの頬を撫でるパフ。
「パ、パフ…パフ……い、いったいな、何があぁぁああ!!」
これまで以上の痛みが右手に走った。
震える手を目の前に持っていく。
皮膚が泡立ち膨張していた。
比喩ではなく、水泡が右手の…いや全身いたる所で出来、どんどん膨らんでいるではないか!
膨張は止まらない…破裂する!
「あ、あああぁぁぁぁあぁあ!
は、はえ…はえづ、ぶうっ!
えぁあああぁぁぁぁあぁああぁぁああ!!」
ついに全身の膨張が限界を向かえ、皮膚は着衣ごと爆発四散し、飛び散った皮膚は水音を立てて壁や床にぶちまけられた。
死ぬなこりゃ…いや、死んだ
そう思った。
あれだけの痛みは嘘のように消え去り、力がだんだんと抜けていく。
呆気ない…
新しい世界で人生やり直せるかも…なんて夢を見た瞬間にこれだ。
モーラさんには申し訳ない事をしてしまった。
恩を仇で返してしまった…。
ごめんなさい
パフ…久々に出来た友達。
彼女はどうしているだろうか?
視界はブラックアウトしているので何にも見えないが……
うおっ、頭が痛い!
キーンと頭痛がして、次第に頭の中にノイズがはしっていった。
「…ウ!…ショウってば!」
パフの声だ!
「…」
声が出ない…体も動かない。
「ショウ…ショウ!
聞こえてたらよく聞いてね
新しい体にまだ魂が馴染んでないの。
でも、すぐに五感は戻ってくるから焦らないで…
戻る時にちょっとビックリするかもしれないけど大丈夫、すぐだから!」
あ、新しい体?魂??
え?死んでないの俺?
マジスカ…ぎゃっ!?
すると感電?いや、電気が走ったようなな衝撃があり、視覚聴覚触覚味覚嗅覚全てが一気に復旧した。
「声…出てる…
い、生き返った?
な、何がいったい…?」
体をお越して頭を振り、破裂して悲惨にな事になったであろう全身を見てみた。
「なんだこれ?」
壁伝いに立ち上がって、首から下を見てみる。
眩い銀の輝きを放っていた。
何が?って体が!
何かしらの金属で出来た装甲?が全身を包み、間接部は黒のゴム質な何かに変化していた。
「…マジスカ」
俺、変身したくさい…
やっと変身しましたね!
やっぱり変身ものの最初の敵はアレすかね?