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5話 うまし!

目覚めはあまり快適ではなかった。


身動ぎする事もできない倦怠感に、頭痛。

何故か目覚めてからも涙が流れ出て行く…

多分、嫌な夢を見ていた気がする。

ここはどこだっけ?

見覚えのない天上…あれ、違うぞ?

確か、モーラさんの店だ。

いや、そうじゃない。

いつの間に寝てしまったんだ?

まてまて、夢じゃなかったのか?

色々な疑問が頭の中を跳ね回り、思考はぐちゃぐちゃだ。

ヤバい、吐きそうだ…。


余りの辛どさに再び目蓋が閉じようとした…その時、小さな鈴の音のような声が聞こえた。


頭を動かさず、声がした方へゆっくりと視線を上に上げると、妖精…パフが「これからは私が守るからね!」「ごめんねー。つらかったねー」と言いながら小さな手で優しく額をさすってくれている。


すると、どうした事か?

あんなに辛どかった倦怠感や偏頭痛が波が引くように治まっていく。

暖かく、心地よい小さなナデナデにしばらく身を委ねていたが、ふとした疑問がついつい口に出てしまった。


「…夢、じゃないのかな、やっぱり」


俺の声に即反応し、パフはナデナデをやめて飛び上がってしまう。

あれ?俺、何で残念がってるの??


「あ!ショウ!起きた起きた??モーラー!」


ゆっくりと体を起こし、大欠伸をする。

寝起きは最悪だったが、久々に熟睡していたらしい。

ナデナデの効果なのか、意外と意識はしっかりしている。

周囲を確認すると、やはりガラクタの山があった。

えっと。

何でこんなところで…てか、いつの間に寝てしまったのか?


「おぉ、起きたかい?」


奥の扉が開く。…オサワリお婆さんが、やれやれといった感じで寝台に歩み寄って来た。


クンクン…


あ…何だろう。扉が開いたとたんに、激しく香しい匂いが周囲に漂いだした…。

はしたないが、腹の虫が盛大に鳴ってしまった。


「すみません…俺、何か寝ちゃったみたっ…」


「モーラ!温かい物できた?」


俺の謝罪を遮り、モーラさんに質問するパフ。


「あぁ、食事の用意をしといてやるから、その間に裏の泉で顔を洗っといで!」


そう言うとモーラさんは奥に引っ込み、カチャカチャと音をたてて食器の準備をしだした。


…呆けているとパフが服を引っ張ってきた。


「ショウ!こっちだよ~」


「ま、まって、パフ!し、食事?いや、なんで?」


「うるさいね!お前さんは黙ってワシのもてなしを受けてりゃいいんだよ!」


何故か怒鳴られてしまった。


俺の方を振り向きもせず…


「わかったらさっさと顔を洗っといで!」


「は、はい!」


俺は急いで回れ右をし、パフについていく。

とりあえず言うことを聞いて外に出よう。

俺は玄関の戸を開け、外に出た。

外に出て硬くなった体を解し、大きく背伸びをする。深緑の香りがする清涼な夜風が、寝起きで火照った頬を撫でてくれる。


「夜風…気持ちいいな」


「んふふ~。こっち!こっちだよ!」


パフが服を引っ張り道案内してくれる。

とぼとぼ眠気眼で歩いていたら、ふと気が付いた。幾千、幾万もの星が綺麗に瞬いているのだ!

そしてこれまた、月の大きいこと…。

夜道にも関わらず意外と明るいなと思っていたんだが…これはすごい。

そして泉に到着すると、また驚かされた。

泉は月や星々を写し出し、輝く湖面はユラユラとたゆたう…そこにパフが飛び回り、更に幻想的な光景を演出していた。


「やっぱ日本じゃないな。旅行したことないけど…」


「ショウ!こっちだよ~!あ、足元に気を付けてね」


俺は透き通った綺麗な泉の水で顔を洗ってみた。泉の水は冷たく、さっぱりする。


しばらく湖面を眺めていると、俺は肩にとまったパフに話し掛けていた。


「パフ…ここはどこ?やっぱり夢…?」


「アハハッ!残念ながら、夢ではないね~。…ここはガイア大陸の東の果てにあるスタッド山ってとこ」


「…ガイア大陸?」


とりあえず、どういう訳かここは日本ではないらしい…。まぁ、テレビでもこんなにデカイ月なんてみたことないし…そもそもガイア大陸なんて聞いたことがない。

妖精もいるし(てか、話してるし?)、ここは俺の知っている世界ではない…多分地球ですらないのでは?

……マジでドッキリじゃないよな?

いやいや馬鹿か。

俺なんかドッキリさせて誰得だよ!


「俺、どうしてこんなところに…」


「詳しいことは追々話すよ…。あ!ショウ!早く戻ろう!モーラの料理が冷めちゃう!!」


「え、あ…うん」


パフに急かされ、俺はモーラさんの店に戻った。




どんな手品を使ったんだろうか…

てっきり二階か奥に片付いた部屋があると思っていたんだが…。

モーラさんの店に戻るとガラクタの山は綺麗に無くなっていた。

ガラクタかあった場所には綺麗に飾られた机があり、湯気たつホワイトシチュー?の入った鍋と芳ばしい香りのするパンがあった。


「ほれ!早く座りな」


席につくと、モーラさんがシチューの入った皿を渡してくれた。


「パンをシチューに浸して食べると美味しーよ」


「口に合うかはわからんが、しっかり食いな!」


「あ、…い、頂きます」


とは言ったものの、何だか遠慮してしまう。

そっとパフを見ると、彼女は千切られたパンを蜂蜜に付け、美味しそうに頬張っている。

知らず喉が鳴る。


「ほれ、遠慮はいらんぞ?」


モーラさんが俺の手を取り、パンを握らせる。


「じ、じゃあ…」


俺は手渡された大振りなパンを千切ってシチューに浸す。

トロトロのシチューが絡んだ、濃厚な香りのするそれを口に入れる。


ヤバイ…マジうまい


久々の温かい飯が胃を震わせ、伸びる手が加速していく。


一口食べてしまうと、後はとまらなかった。

ガツガツと平らげていく…


ゆっくりと、慌てず、恥ずかしくない食べ方をしないと…


美味しいですって、伝えないと…


ごめんなさいって、ありがとうございますって、伝えないと…


あぁ、もぅ!うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい!!


「ありゃりゃショウったら、落ち着いて食べて。…誰も取らないから」


「ハッハッハ!うまいか坊主?そら、まだあるぞい」


そう言うと、モーラさんは空になりかけた皿にお代わりを入れてくれた。


「う、うま…あむ、うぐ、はぐ、うま!っはぐ!」


伝えなきゃ、この手を止めれば伝えられるのに!

なんて意地汚いんだ!


「ふふっ。大丈夫、わかるよ。よかったね…」


パフが優しい瞳で俺を見上げている。


「なんじゃ?泣くほどうまいか?」


泣くほど…泣く?


気付くと涙が頬を流れていた。


「く、くふっ!う…うぐっ!!」


「あ!ショウこれ!水!」


パフが指差すコップを急いで口に運ぶ。


「っか!ぷっはぁ!!」


「危ないねえ。ま、作りがいはあるよな」


「モーラよかったね」


「あ、あの…」


詰まった物を嚥下し、顔を真っ赤にしてショウは口を開いた。


「なんじゃ?」


「う、あ…お、美味しいです!すごく美味しいです!!」


とりあえず言えた。

伝わったかどうか不安だけど。


それを聞いた二人は、顔を見合せると声を出して笑いだした。。

今晩はシチューを作ろう!

そうしよう!

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