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4話 後味悪し

モーラは後悔していた。


どうやって《教会》の祭司が施した術からパフィリカを解き放つ事が出来たのか

そもそも、どうやってこの厳重に結界を張った館に入ったのか?

目の前の少年は…どういった人間なのか?



迷い人か?襲撃者か?善か?悪か?


それが知りたかっただけ…護身と久しく忘れていた、好奇心を満たすためだけだったのだが…。

「どう言ったもん、かのぉ…」


「…うん」


モーラとパフの後ろには寝台に寝かされ、頭に夢を汲み取る術式を書いた呪符を貼り付けられたショウがいた。

そして目の前には水を張った銀の皿が机の上に置いてある。

二人はその皿を…ただただ、じっと見つめていた。

「親を目の前で…なんと酷い……」


「…ショウ」


皿に張った水はショウの夢(記憶)をショウの視点で映し出していた。

モーラの私物であるマジックアイテムだ。

これは夢を汲み取る呪符が抽出した映像を、皿に張った水に写し出すことができるのだ。


色々苦労していそうな面構えであり、食うに困ってどうやってかは知らないが、忍び込んだ輩だろうと決め込んでいたが、事はモーラの予想の遥か斜め上を行っていた。

毎日絶え間なく暴力を振るわれ、大した食事や睡眠も摂れず…愛を奪われた可哀想な子。


「…で、アレかぃ」


天から垂れていた蜘蛛の糸…


「どこかで聞いたことがあるが…はて?」


どこかの伝承だったか…書物で読んだような…


「天神の衣、施しの糸…」


パフがポツリと言う。


「…ぁあ。天の解れ糸…選定者の糸!…じゃあこやつは!」


「神の愛し子…鎧の継承候補者」


眼を見開き驚愕するモーラと、優しい瞳で見つめ、小さな手でショウの頬を撫でるパフ。


「ははぁ…成る程のぉ。それであの術を解除できたわけじゃ…それでこの館に…いや、アレ等が眠るここに呼ばれたわけか…」


地下室に眠る家宝の鎧。それにまつわる、おとぎ話に出てくる天から垂れる選定者の糸…守護者に代々語り継がれてきたはず…。


「はっ!すっかり忘れておったわ!…年はとりたくないのぉ」


「鎧が必要な時代が来るのかな?」


「太陽の鎧と月の鎧…魔界の門が開くのか、血で血を洗う乱世が来るのか…はぁ~ワシの代でのぉ…」


太陽の鎧と月の鎧。

神の愛し子に与えられる奇跡を生む伝説の鎧。


「神の愛し子に与えられる、神の鎧…やっぱりまだ守ってたんだ」


「なんだかんだ言ったがの、やはり家宝じゃから…さて」


モーラはショウの頭に貼り付けた呪符を外し、商品の埃避け用に使っていた布を体に掛けてやる。


「パフ、早速で悪いが手伝っておくれ」


「何?何するの~?」


ふむ、とモーラは少し考え言った。


「客人に温かい物でも用意しようかね」


モーラは店の奥にあるキッチンに向かう。


「いいね。蜂蜜パンとかホットミルクなんてイイんじゃないかな?」


パフは名案と手を打った。



「…蜂蜜パンは温かい物に入らん」


パフがっかり…。


「…ケチんぼ」


モーラは棚の中から金色の液体が入った瓶とふかふかのパンを取り出し、意地の悪い眼でパフを見る。


「しかし滋養には…良いかもの」


「やた!モーラ大好き!」


「結局、お前さんが食べたいだけじゃないか…ふん!腹が減っておるんじゃろ?」


「えへー」


パフは頬を染めて、ニッコリ笑うとモーラの肩にとまる。


「ああ、そうじゃった」


モーラはパンを小さく千切り、蜂蜜を付けてパフに渡してやった。

美味しそうに頬張るパフから視線を外すと、恥ずかしそうに頬を掻きながら言った。


「会いたかったよ、パフ…おかえり」


「うん。ただいま!」


蜂蜜パンは甘く、優しい味がした。

パフは甘いパンを頬張りながら思った。


「ショウが目覚めたら、取り敢えず謝まって仲直りしなくっちゃね」

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