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1話 蜘蛛から始まる異世界物語

高校2年の放課後と言えば皆は何をしているだろうか?

部活やサークルなんかで友人と交友を深めたり、一人の時間を楽しんだりしてるのではないだろうか。

俺か?俺、御影 尚<ミカゲ ショウ>も学友達(笑)と一緒に体育館裏にいる。

ジメジメした日が陰るそこに呼び出された俺は、ニヤ付いた数人の男子生徒に囲まれていた。

これも、一種のどこでもある日常風景だろう。

今回はどんな無理難題が来るのかと、俺は天を仰いでいた。


ボーっとしていたら、いきなり腹に拳が突き刺さった。


腹を押さえて悶絶していると今度は蹴りが背中に来た。

今日はサンドバックか…こんな痩せ細って、骨の浮いた奴殴って何が楽しいのやら…。

何度も何度も彼らの拳や足裏が、体のあちこちに突き刺さる…長いこと放置してボサボサになった髪を掴まれ引っ張られると、お決まりの台詞が降ってきた。


「おい、骨野郎!まだお迎えは来ねぇのか、あぁ?」


その内な…。


「おぃおぃ。そんないつ洗ったかわからん髪、よく触れんなぁ」


ガス、水道が先週から止まってるからね…学校で水は被っているんだけど…悪いね。


「あ、いっけね!保健室に行かなきゃな!ギャハ」


成る程…この後保健室には行けないわけか…行かないけどな。


散々殴る蹴るを楽しんだ奴らは、やっと飽きてくれたのか最後に唾を吐きかけ鼻歌を歌いながら去って行った。


入学してから、毎日のように繰り返される暴力…。

毎日だ…毎日毎日、理由は知らないが…彼らは俺にこれでもかと暴力を振るい、辱しめる…。

中学からの友人だと思っていたら奴等は、誰も助けてはくれず最近では彼らに加わって…。

救いであるはずの家に帰ると、今度は酒浸りの叔父さんに浴びせられる罵声と暴力。負けちゃうよホーリーナイト…もぅ限界。

だがそれも今日までだ…俺は痛む体にムチ打って立ち上がる。

この日の為に教頭の机からくすねたマスターキーを使い、放課後の誰も居なくなった校舎に入りゆっくり階段を上った。

こんな事になる前にいろんな教師方に相談(一番の理解者である両親は既に他界しており、叔父は論外)

はしてみたが…


「君に、君に原因や理由があるはずです…誰かに頼る前に落ち着いて、よく考えてみなさい…」


とまぁ、大抵はこんな感じで相手にしてくれない。

屋上に上がった俺は用意したニッパーでフェンスに人が通れる穴を作った。

綺麗な夕日の暖かい光に包まれ、呼吸を整えていく。

後はこの身を投げ出すだけ…思えば両親がいなくなってから3年…終わることのない、いじめと虐待で心身共に疲れちゃったよ。


「父さん…母さん…そっちに逝ったら、叱られちゃうかな…し、叱って…迎えてくれるかな?」


不意に涙が溢れて天を仰いだときだった。


雲が割れて一筋、日の光りと細い蜘蛛の糸のような糸が垂れているではないか…。


「な、なんだ?」


目を擦って再度見るもソレは目の前にあった。

うっすら輝く蜘蛛の糸みたいな糸は風に揺れることなく真っ直ぐに天から降りていた。


「…漫画とかにあった妖怪茶袋?いや茶袋付いてない」


殴られ過ぎて幻覚を見ているのだろうか?

俺はそっと糸に触れてみようと手を出そうとしたときだった。


いきなり突風が吹いたのだ。


俺は体勢を崩してしまい手をばたつかせ、とっさに蜘蛛の糸を掴んでしまった。


糸は切れることはなかったが、今度は手から離れない…。

しばらくもがいているとギュンと上に引張られた。

上昇をしながらも俺は、夕日が照らす町並みを観てああ綺麗だなと思った。

やがて雲の中に入り、目を瞑っていつか来る落下の時を待っていた。




あれからどれだけ目を瞑っていたのだろう…。目を開けると、目に映った物は空でも夕日に照らされた町並みでもなく、埃っぽい部屋だった。




「な?あ、あれ?ここどこ??」


辺りを見回しても覚えのない場所だった。ログハウスと言うやつだろうか?

そもそも俺は学校の屋上にいたはず…いや空だったか?


「マジでここは学校の中か?…いやでもログハウスなんて…」


窓の外も見たこともない森が広がっていた。


「森…何でこんな所に?」


木製の小屋に木製の机や棚や本棚があり、見たこともない物がたくさん置いてあった。

見たことの無い昆虫の標本や、金属製の器具等々、様々な物があったが一際目立つ物が机の上にあった。


「瓶が…光ってる?」


淡く輝く液体が入った大きなガラス玉が、フワフワでスベスベした厚手な布の上に置いてあった。液体以外にも何か入っているようだったので顔を近付けると…。


「よ、妖精?」


中には小さな羽の生えた女性型の妖精みたいなのが目を閉じて液体の中に浮かんでいた。


「作り物?にしてはリアルだ…」


小顔でかわいらしい顔立ちをしており、桃色の綺麗な長い髪と透き通るような白い肌をしている。

身に着けている白いワンピースも細部まで凝っているように見える。

あと、何気に乳がデカイ…作った奴とは気が合いそうだ。

俺は、そっと瓶に触れてみた。


「触った感じは、まんまガラス球か…蓋も繋ぎ目も無いがどうやって入れたんだ?」


人差し指でガラス玉をコツコツ小突いたり、ユラユラ揺すってみる。

中の液体は揺れているが、妖精は液体の中で微動だにしない。


「何なんだ、ここは?…ん?」


何か視線を感じたが辺りに人影はない…。

窓の外は暗くとても静かで、不気味だ。


「てか、マジで誰もいないのか?」


室内を再度見渡すが何も見えない…いや。


「…う?ぇ??」


ガラス玉の中の妖精が目を開けてこちらを見つめていた。

しかも瓶を内側から叩いている!


「う、動いて…あわわわわ!!」


ビックリして机に当たってしまい、衝撃で玉を落としてしまった。

ガラスの砕ける音と液体の跳ねる音が辺りに響く…。


「あぁ!やってしまった!」


恐る恐る、床を見ると…。


「あれ?いないぞ??」


中身(妖精)がいないのだ。散々床を見回すが姿が見えない。


「ど、どこに転がっていったんだ?」


そばにあった椅子にドッカリと座る。


「…ぇ?」


机の上にある何かの金属片に、妖精が小首を傾げて愛らしく座っていた。

しばらく無言の見つめ合ったが、最初に行動に出たのは妖精の方だった。


「やあ、はじめましてだよ人間さん」


妖精が、濡れた髪を掻き上げながら挨拶しとる…。


「…か、かあ…かあさん……」


母さん、16にもなって妖精が見えています…。


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