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異世界三毛猫珍道中  作者: 冴月(元:九尾の白狐)
辺境の村「ラークウッド」編
5/6

三毛猫、騎士と会う

 あちらこちらに引っ張りだこだった一日は最早昼の事であり、今は夜中だ。みんな寝静まっていて、不気味な雰囲気が漂う反面、三日月が美しく輝いていて、とても良い夜を、俺、三毛猫事サクラは闊歩していた。。


「(まぁ、猫は夜に大暴走って言うしな~)」


 誰が言ったそんな事。


 一人でツッコミを入れながら歩く。



「(んー……屋根に登ってみるか)」


 家の横に積まれていた木場を足場に、屋根に登る。猫の身体になって改めて分かったが、思ってる以上に身体のバネが効く。そして柔らかい。たまにアクロバティックな動きを、猫はすると思うが、そりゃしたくなるわ。


「(……うん。人一人いない)」


昼間は賑やかだった村も、今は静寂に包まれている。明かりがついているとすれば、村の端にある酒場くらいのものだった。


「(こんなに目が利くのも猫だからだろうな~)」


昼間と大差ない程に、村が見て取れる。なんだか新鮮だ。




 しばらくあたりを見渡していると、遠くに誰か居るのが見えた。



 あれは……昼間居た騎士か! 同じ鉄製の鎧着てるし、間違いないな。


「(暇だし……行ってみるか)」


 俺は、騎士の所に向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「(……9998、9999、10000……)」


 日課である1万回素振りを終えた騎士は、疲れからその場に座り込んだ。


 この騎士は、警備する者が自身一人の状況で、この村を幾度も魔物から守りきっている。強い、優しい、知識も十分で村の皆からの支持も高い。


 しかし、一つだけ。騎士がめっぽう弱い物があった。


「……ッ!?」


 休憩で、座り込んでた体を急いで起こす騎士。


「……匂いする」


 何かをつぶやく。そして、身を屈めたかと思えば。


「三毛猫ぉぉぉぉぉ!!」


 様子をみにきた俺をとっつかまえた。そう。猫。騎士の弱点はにゃーんちゃんなのである。


「フギャッ!?」


 変な悲鳴をあげる俺。


 そんな俺を抱いたまま、騎士は被っていた兜を脱ぎ捨て、俺に擦りつく。


「(こ、こいつ女だったのか)」


 兜被っていたから分かんなかった。


「(ていうか、こいつ……めっちゃ美人じゃん!)」


 ブロンドの髪を頭の後ろで束ねており、顔のパーツ一つ一つが整っており、如何にも気高い華麗な女騎士……なんだが、


「はぁ……はぁ……」


 頬を赤らめ、恍惚の笑みを浮かべているため、全てが台無しだ。


「(……とりあえず、逃げるか)」


 そろそろウザくなってきたしな。


 俺は、女騎士の腕からヒョイと逃げ出す。



「ああっ! もふらせろ!」


 手を伸ばし、俺を求めてくる。……俺を求めてくるっていったらなんか卑猥だが、今はそんなんじゃないからな?


「(にゃはは! さらだばぁぁ!)」


 俺はダッシュで逃げ出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 次の日。屋根の上で昼寝していたらまた捕まった。


 何とか逃げ出すも、女騎士はポニテの髪を揺らしながら、「魔法」っぽい紫色のなにか出追いかけて来る。が、


「くそ、この猫なかなかやる……!」


ふはははは! だろうそうだろう! なぜだか分からないが、攻撃が来る方向がわかるのだから! その方向に行かなければいい話よ!


そういった感じで、全て避け続けているのだ。最初こそ、騎士がその身体能力で俺を捕まえようと迫ってきたが、小馬鹿にするように避ける俺に我慢が切れたのだろうか。その内に紫色の輪っかを放つ魔法(のようなもの)を放ってきた。


騎士が放つ魔法を右往左往して避け続ける。


「こうなったら……」


騎士の動きが止まる。そして何かをブツブツと唱え始めた。


普通に考えれば、何かしらしてくると予想がつくのだが、この時の俺はハイってやつになっていた。図に乗ってその場で飛び跳ねまくっていたのだ。


「……~~~!」


騎士が手を振り下ろした。その瞬間。







俺の周囲に、炎の輪っかが出現した。


「にゃあ!?(はぁ!?)」


炎は瞬く間に燃え上がった。そして、俺だと飛び越えることが出来ないほどの壁になる。


逃げなければ……そう思ったがこの炎、見た目どおり暑い。無理やり通り抜ければ、大怪我は間違いないだろう。


そんな炎の中を、騎士はつき進んできた。なんだあいつ! 人間じゃないのか!?


そして、真ん中でビクビクしている俺を抱き上げ……顔を擦り付けた。



「スーハースーハー……」


……なんかこいつめっちゃ深呼吸してくる!?やべぇ!


しかも深呼吸だけじゃなくて、表情がやばい。頬を赤らめ、恍惚の表情ってやつだこれ。変態だ。


逃げ出そうと身体をうねらせるも、騎士の馬鹿力でガッチリとホールドされ、動けない。


「にゃーっ!! にゃーっ!!」


せめてもの抵抗で、俺はめっちゃ鳴くことにした。誰か!誰か居ないのか!


「……騎士さん……なにしてるんですか?」


ビクッと身体を強ばらせる騎士。恐る恐る振り向くと、目を丸くしたエルのお姉ちゃんが居た。へ、ヘルプミー! 助けて!


「騎士さん……家の猫に何してるんですか?」


「え、いやっ、それは……」


 みるみるうちに青くなる女騎士。変態が露呈したのだ、無理もない。


 ……それをみて、お姉ちゃんは俯く。


「私……憧れだったのに……」


 憧れだった女騎士が、こんな猫を追いかけ回す変態だったとは、そりゃあ幻滅したよなお姉ちゃん。



 お姉ちゃんが顔をあげる。


「私……私っ!」


 うんうん。つらかろうつらかろう。だから騎士にトドメを指して俺を助けてくれ。


「……私っ! カイさんのお団子の髪型がすきだったのにぃーっ!」


「そこかよっ!?」


 女騎士がこける。


お姉ちゃんは、走り去っていった。


「……」

 

その場に、静寂が訪れる。


 何が何だか分からないという風に、騎士は俺を見てきた。ごめんな、俺には助けることは出来ない。


兎にも角にも、状況が良くわからないが、騎士のホールドが弱くなっている。今がチャンスだろう。



「……(逃げるが勝ち!!」)」


 何が勝ちかわからないが、俺は騎士から逃げ出した。




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