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差別

 軋みをあげるゲオルグの違和感不信感、そして疑惑。愛してるとまでは言えないが大切なパートナーのように内心思っていたプリシラが突如として剥きだした凶悪な狂信者の顔。それは騎馬に乗り移動を続け、目的地の村に到着しても消える事はなかった。

 馬を村の広場に留めようとしたが、騎士団長の方から声がかかり、村の出口付近に監視をつけて止めた。宿屋も騎士団詰所もない村なので、管理は自己責任でするのだと説明され、そういうものかとゲオルグは思った。ふたりの馬は騎士団が一緒に面倒みてくれるらしい。

「きしさまー」

「お?」

 ふと見ると、ちっちゃな女の子がゲオルグの前に立っている。ボロボロの布地をまとっていて、それはよくよく見ると合わせ布のようだった。つまり前後二枚の布を頭のところだけ残して上で貼り合わせ、横は紐でしばった簡素な服をまとっている。

 ゲオルグは知らないが、それは身二幅(みふたの)と呼ばれる構造に近い。原始的な貫頭衣(かんとうい)よりも少し手のこんだ作りであり、反物(たんもの)つまり織物が使われて、なおかつ裁縫も行われている事を意味する。幼児の服なんてダメになる事前提なのだから、その幼児服がそれというのはそれなりに意味がある。

 とはいえ衣服の事なんてわからないゲオルグは、薄汚れているが元気そうな女の子に思わず微笑んだ。ちゃんと女の子の目線までしゃがみこむと、頭をなでてやった。

「えへへー」

 嬉しそうに笑うと、どこか恥ずかしがるようにペタペタ走りさっていった。

 思わず苦笑しかけたゲオルグだったが、

「ゲオルグ様、今の子が魔法を使ったの気づかれましたか?」

「え?」

 想定外の言葉が聞こえて、思わず立ち上がりその方を見た。

「プリシラ。どういうことだ?」

「どういうも何も。ゲオルグ様に頭をなでられた瞬間に魔力を放っていました。種別はわかりませんが状況からいって探査(サーチ)読心(リーディング)の可能性が高いと思います。接触する事で相手の情報を読み取る魔法なら、素質さえあれば子供でも使えますから」

「そうか?オレには単に興奮しただけに見えたが」

 魔力を制御できてない幼児の場合、興奮すると魔力が活性化する事がある。敏感な親はこれを頼りに遠方でも我が子が泣いているのに気づいたりもするらしい。

 だがプリシラは首を横にふる。

「それは王都での話です。ここは危険地帯なのですよ?」

「プリシラ」

「なんでしょう?」

「ひとつ聞くが、今おまえが言った魔法種別は推測か?それとも、それっぽい魔法の発動を感知したから言っているのか?」

「推測です。弱いのか隠蔽がうまいのか観測だけでは魔法の発動自体判別できませんでしたし」

「いや、あのな」

 ゲオルグはためいきをついた。

「確かにオレも微量な魔力を感じたが、何も発動した様子はなかったぞ。あれは単に興奮して魔力が漏れただけだろ。いくらなんでも考えすぎだと」

「ゲオルグ様」

 プリシラはゲオルグに顔をよせてきた。そして小さな声でささやいた。

「なんだよ」

「さっきのお話の事は今は忘れてください、私も今は何も申しません。そしてお願いですからもっと警戒してください。ここは敵地もしくはそれに準ずる場所ですよ?文句なら後で受け付けますからとりあえず今は従ってください。よろしいですか?」

「……」

「ゲオルグ様、お返事はどうされたのですか?」

「わかったよ」

 少しだけ逡巡(しゅんじゅん)し、そう答えた。

 ゲオルグが感じているのは、不快でなく悲しみ。

 プリシラは何も間違っていない。そしてたぶん何も変わっていない。ゲオルグを心配してくれている事もおそらく変わらない。

 ただ彼女と自分は世界観を共有できない。それだけの話。

 寂しさを胸に隠しつつ、ゲオルグはなるべくいつものように微笑んだ。

 

 村長の話によると、やはり破壊された隣村から逃げ込んだ者たちがいるらしい。あらかじめ様子を見に行かせていた別働隊が戻り村の壊滅が知らされると、ただちに騎士団は村の横に天幕を設営して仮詰所とし、被害調査と称して生き残った村人たちに話を聞き始めた。

「すると、そのシロという女が悪魔の力を借りて魔物の群れを呼び寄せたと?」

 もちろんこれは全くの濡れ衣。原因が魔獣たちの暴走にある事は騎士団の全員が知っているのだから。

 だがここは否定しない。好き放題喋らせてみた方が情報が落ちるだろうからだ。

「そうとしか思えねえ。だってよ、シロの奴は数日前まで文字も読めなかったんだぜ?それがいきなり脱そ……どっかに行っちまったかと心配してたら変な服で現れやがってよぅ、自分は異界からきたとかワケわかんねえこと言い出しやがって」

「言い換えず『脱走』と言ったほうがいいですよ?教団騎士と神官相手に嘘はつけないとお思いなさい」

「な……いやだってシロは俺の」

「それは君の願望だろう?村長氏を除く他の村人全員の証言では、その娘も自分たちも何年も奴隷として働かされていて、村長氏と君はその娘を自分たちの性奴隷にしようとしていたそうだが?それを嫌がって彼女は逃げ出した。違うのかい?」

「……」

「君の言葉が事実ならいい。だが騎士団と神官の前での偽りは神に唾吐く行為だ。問答無用で首をはねるか火あぶりになるが、かまわないかね?」

「な……なんでシロごときのために俺が!」

「なるほどそれが本音か。さて、他には何があったのだ?」

 避難民は多くなかったが、嘘や言い直しが多いために時間がかかり、また避難民でないこの村の者の一部にも尋問が必要で時間がかかっていた。

 同じ時間、仮詰所と離れた場所でプリシラたちはリアルタイムで得られつつある情報を整理していた。中には不快感を隠さない騎士もいて、話し合いは少し殺伐としていた。

「病気や事故で親が死んだ子供たちを私物化して奴隷にしていた、という事のようですね。ただこれが全てではないようで、未確認なんですが赤子連れの旅行者に毒を盛り、残された赤子を育てさせてから奴隷にしたという話も聞けました。その子供は生き残っていないので確定ではありませんが」

「団長!本当にこんなとこの被害報告なんてするんですか?自分はむしろ村ごと査問にかけるべきかと」

「この村の村長たちも、彼らを糾弾するどころか『もと奴隷』の避難民を小さい納屋に押し込みメシ代と称して仕事をさせているようです。村長の方はこちらの村長宅に招かれているとか。完全に共犯と思われますが」

「ひでえ事しやがる。やっぱりヒトの形をしていようと魔族は魔族なんだな」

「……」

 最後の言葉は騎士団の皆がそれぞれに感じている事だった。

「それで、その逃げたシロという娘についての情報は他にありませんの?」

 仕切り直しもかねてプリシラが話題を投げた。

「最後に村に現れた時の話ですと、みたこともない不思議な装いだったとか。唐突に村の入り口に現れて自分は『異界渡り』だと言い、何やら奇妙な名前を自称したとか。ナルメだかヌトゥメだか」

「私たちや彼らの知らない言語での名前という事ですね。ならばおそらく間違いない、その娘は本当に界渡りで、その奇妙な名前というのが元の世界での本名なのでしょう。あと、これは私の私見ですけれど、そのシロというのもおそらく正式の名前ではないように思えますね」

「は?と申しますと?」

 騎士たちの言葉にプリシラは首をすくめた。

「このあたりでは子供と女には名前を与えないのでしょう?加えて、性奴隷のようなものを囲い込む場合はあらかじめ名を与えず、手に入れてから自分たちに従属する名前を与えて呪術的に縛るという習慣がありますよね?生き残ってらっしゃるのは男性が多いようですし、悪印象を避けて言葉を濁しているようですが」

「……」

 皆絶句していた。

「ひとつ質問よろしいですか?神官どの」

「なんでしょう?」

「界渡りの娘という事ですけど、その娘の種族はどうなるのでしょう?身体はこの世界のものですから、やはり魔族という事に?」

「魔族ね。ですけど、これは元々魔族だったというわけではないでしょう」

「どういう事です?」

 騎士たちの言葉にプリシラは頷いた。

「界渡りについてはよくわかっていない事が多いのですけれど、一様に高い魔力と異界の知識が与えられている点からいっても、神様の贈り物とでも言うべき存在ですわ。その女の子も当然、呪われた魔族でなく人間の生まれだったのでしょう。……悪魔と契約するまではね」

 あ、という声がどこかから聞こえた気がした。

「たぶん逃げ出す以前は契約などしていなかったのでしょうね。これ以上は村にいられず、たぶん死を覚悟したうえで逃げ出したのでしょうね。そこに悪魔はつけこんだ。おそらくですけど、そんなとこなのでしょう」

「それって、つまりあの村長たちがその娘を追い込み、悪魔と契約させ堕落させたと?」

「はい、そう思います」

 ひでぇ、なんてこったと(うめ)くような声が騎士たちの間から漏れた。

 教団所属といっても騎士は騎士だ。誰か、とりわけ弱者を護り戦うのが彼らの本分である。だからこそ、ひとりの女の子を同じ村の人間が人間として扱わない、そんな生々しい話は彼らの嘆きと怒りを買った。眉を釣り上げない者などただのひとりも居なかった。

「では、事実が確定すればこの村は」

「査問にかけるまでもないわね」

 潰してしまいましょうという言葉をプリシラは飲み込んだ。

 それはこの場にいるゲオルグの心情を考えて過激な表現を避けたのだが、そもそも言う必要もなかった。界渡りは決して超人でもなんでもないが、その魔力の大きさは折り紙つきなのだ。使いようによってはたったひとりでも戦いの勝敗を逆転させたり、勢力図を塗り替えかねない。

 その界渡りをよりによって性奴隷にしようとした、それだけでも重罪は免れないが、今回はさらに逃げられた挙句悪魔と契約させてしまった。これはもう生半可な事ではすまない。悪魔側にとられたその界渡りがもたらす被害の大きさを鑑みれば、彼らの行為は一族郎党皆殺しどころか、住んでいる村ごと滅ぼしても余裕で言い訳がたつだろう。

 通常、界渡りはどう隠そうとしても目立つ。

 たとえば幼少期。学んだはずのない事を知っていたり歳に似合わない異様な才を発揮する。あるいは現実のギャップに鬱になる。どんなケースであれその言動と行動は目立たずにいられないものだ。例外は貴族や王族の家などでひっそりと隠されて生きているケースくらいで、平民以下で外で労働している身なら、魔力がなかろうがなんだろうが大抵間違いなく気づかれる。実際、今回のケースでも「あの子はすごく賢いし、習ってもないような事を知っていたり、どこか遠くを見るような不思議な目をする事があった」と。それは界渡りかどうかはともかく『記憶持ち』の典型的な症状だ。記憶持ちは問題を抱える事も多いから教会に相談する事が保護者やその周囲に義務付けられているわけだが、村長たちはそれを握りつぶしている。奴隷として仕事をさせるつもりだったのか『記憶持ち』ならそれを利用するつもりだったのかはわからないが、どちらにせよ教会の指示を無視している事には変わりない。

 そこで「知りませんでした」は通じない。

「……」

 皆の怒りと憤りの中、ゲオルグだけは全く違った気持ちを持っていた。

 確かに酷い村人たちだ。だけどゲオルグの感覚と判断力は「だから奴らは魔族で悪魔」だなんて考える事はなかった。『前世』の記憶が言うのだ、むしろこれは人間のやる事だと。くだらない利益や欲望のために同じ人間を喰い物にする、なんてのはどこの世界でも悪魔や悪霊でなく人間の専売特許なのだから。確かに不快だし許せざる事だが、人間の罪を見知らぬ誰かに押し付け免罪符にするほどゲオルグはおめでたくもバカでもなかった。犯罪者は罰すればいいわけで、それと界渡りの娘をどうするかは全く別の問題だろう、そうゲオルグは内心呆れていた。

 ただ楽観はできない。そも、ゲオルグ自身が教団所属である限り娘が敵となる可能性が高い。ゲオルグがかりに対話を試みようとしても、プリシラたちが娘を殺そうとするだろうから。

 と、そこまで考えた時だった。

「?」

 ゲオルグの心に何かがピリッと触れた気がした。

 たまにゲオルグはそんな経験をする。何かと思ったら厨房で炎が吹き上がったり、近所で火事があったりとたわいないものなのだが。大抵は良くない事の前兆。

「ゲオルグ様?」

「プリシラ、ちょっと出てくる」

「あ、はい」

 プリシラはゲオルグに注意しようとしたが、そうしなかった。彼女も何か感じたのか眉を寄せていた。

「何かありましたか?」

「わからん、だが嫌な予感がする。ぐるっと見まわってみる」

「わかりました、お気をつけて」

「ああ」

 そう言い残してゲオルグは天幕の外に出た。

 

 外は既に夜だった。田舎の村では夜が早いのだが、今日はゲオルグたちがいる。篝火が盛大に炊かれていて、暗いは暗いが村の建物などはおぼろげに見る事ができた。

 古くてぼろぼろの……だが、王都では見ない建物。

 近づいてよく見てみると、それはレンガや石壁のような中世的な素材でないのがゲオルグの目にもありありとわかる。最低でもコンクリート、あるいはそれ以上の素材によるものだ。おそらくは破壊を免れた古い国の時代の建築物なのだろう。土台の安定感も素人目にもありありとわかるもので、現在の王国よりもかなり優れた文明を持っていたろう事が伺える。

 文明が進んでいようと国力があろうと、それは戦争に勝てる事とイコールではない。まして相手は『聖戦』を掲げる宗教国家となれば、さぞかし分が悪かったろう。

「ゲオルグ様」

「プリシラ、結論はどうなった?」

 建物の間を歩いていた時、プリシラの気配が動いたのも感じていた。

「先ほどの通りです。しかし夜も更けたので明日にと」

「そうか」

 仮にも魔と定義しているものを夜中に襲う愚は犯さない、という事か。内心ゲオルグは苦笑した。

「ひとつ尋ねていいか」

「なんでしょう?」

「悪魔と契約した娘だが……本当に倒すしかないのか?今回の作戦でどうするかに異を唱えるつもりはさらさらないんだが、後学にきいておきたいと思う。どうだ?」

「後学に、ですか」

 ふむ、とプリシラは少し悩むと、おもむろに口を開いた。

「殺さない方法もあるにはあります。しかし殺すよりずっと残酷ですよ?私もちょっとアレは」

「そんな酷いやりかたなのか。もしかして洗脳でもして無理やり言うことをきかせるのか?」

「すみません、いくらゲオルグ様でも説明は勘弁させてください。私もいちおう女ですので」

「……」

「まぁ、あえて申し上げますと……たとえ味方に投降しようとどうしようと、一度悪魔と契約した者は人間でなく魔族と見なされるって事です。ですからそれ相応の扱いを受け、それ相応に使い潰されて終わります」

「……一度汚染されたら人間とは見なさない、か」

 ゲオルグはためいきをつき、そして夜空を見上げた。

「なぁプリシラ」

「なんでしょう?」

「今は敵地だから議論してる場合じゃないっていうおまえの意見には俺も賛成だ。だからここで是非は言わないし、聞かない事にしよう」

「はい」

「だけど、ひとことだけ言わせてくれ。単なる感想で他意も何もないが」

「はぁ。神様を侮辱なさるのだけはやめてくださいね。絶対ですよ?」

 ゲオルグはプリシラの言葉を聞いてか聞かずか大きく息を吸い、そして言った。

「おまえたちの、この村の人たちとか精霊魔法使いに対する態度だけどな。オレはぴったりの言葉を知ってるよ。前世でよく聞いた言葉だが」

「なんでしょう?」

「『人種差別』だな」

 きっぱりとゲオルグは言った。

「オレの世界の聖典もそうなんだが、この世界の聖典でも、どこまでが人間でどこからが人間じゃないって明確に書いてるわけじゃないんだよな。だからこの場合、悪いのはもちろん神様じゃない。聖典でもない。聖典をどう解釈するかって話なんだから不味いのはその時代の人間って事だな」

「な」

 プリシラの眉がつりあがった。

「言っておくが神様を侮辱なんてしてやしないぞ、わかるよな?聖典をバカにもしていない。単にそれの解釈の問題だからな」

「……」

 だが神や聖典でなくそれを運用する人間を批判、という流れはプリシラには効果的だったようだ。プリシラは少し考えこんだ。

「興味深いです。続けていただけますか?」

 うむ、とゲオルグは続けた。

「厄介なのはこの『どこまでを人間と認めるか』なんだ。この論点は為政者によってうんざりするほど悪用されててな。かくいうオレの国も南北に分かれて大戦争をやったもんだ。いわく『黒ン坊どもが人間だなんて聖書には書いちゃいない』ってな。有色人種を奴隷にする制度を白い肌の人種が決めた時もそうだ。その案を提唱したのは、有名な『人権派』の牧師さん……唯一神教会で言うところの神官だったんたぜ?凄いだろ?」

「なるほど。こいつは人間じゃないって権威ある方が定義してしまって、それが悲劇の元になったわけですね……!」

 話しているうちにプリシラの目が丸くなった。

「わかってくれたかな?オレの言いたい事」

「ええ。つまりゲオルグ様はこうおっしゃりたいのですね?私たちが悪魔や魔族と呼んでいる者たちの一部……たとえば旧王国に属した種族はその実単なる異民族で同じ人間にすぎず、彼らに伝わる精霊魔法も悪魔的なものでなく、単なる魔法のいち形態にすぎない……そういう事ですか?」

「うん、まさにそれだ」

 明快に断言したゲオルグに、プリシラはふらふらと小さく頭をふった。

「大丈夫か?おい」

「だ、大丈夫です」

 ふうっと小さくつぶやくとプリシラはゲオルグの顔をみあげた。

「非常に気になる話題ですね。先の建国の戦いの頃の事は記録を見ても妙に美化されていて、何か隠してるなと思って見た事が確かにあるのです。戦時中ですからたぶん、あまりおおっぴらに言えないような事件でもあったのだろうと思っていたのですが……旧王国を悪魔とその眷属扱いしてまで徹底的な弾圧ですか。確かにありえない事ではありませんね」

「うん、オレもそうおもう。ま、内容が内容だけに言いふらす事はできないが」

「あたりまえです!異端審問にかけられて殺されちゃいますよ!」

 プリシラはためいきをついた。

「ですけど、そういう事なら……先の娘を助ける手段があるかもしれませんね」

「どういう事だい?」

「悪魔うんぬんの部分も嘘かもしれないって事です。単なる旧時代の魔法ってだけの話なら同じ人間同士です。話をあわせておけば悪魔扱いされずにうまく収められるかもしれませんね」

「おお」

 なるほど!とゲオルグは大きく頷いた。

「は?界渡りの娘を助けようと思って考えた事ではないのですか?」

「いや?人間がどうののあたりは純粋にオレの疑問だぞ?確かに娘を助けられればそれに越した事はないが、そこまで考えちゃいなかったな」

「……」

「プリシラ?」

「……」

 プリシラは唐突にクスクスと笑い出した。

 その笑いは次第に、爆笑を必死に押し殺すようなものに変わっていった。その異様さにゲオルグは眉をしかめていたのだが、

「!」

 やがて唐突にプリシラはゲオルグの両手を開き、無理やりその胸に飛び込んだ。

「お、おい」

 きゅっとゲオルグに抱きつき、その胸に頬をすりよせた。

 少し湿っぽい女のぬくもりに子供のような早鐘をうつ心臓。その激しさにつられてゲオルグの心臓も少しはねあがった。反射的にプリシラを抱きしめようとして一瞬押しとどまり、しかし結局はプリシラを腕の中に優しく抱く。

 包み込まれたプリシラはふたたび、ゲオルグの腕の中でクスクスと笑った。

「お、おい」

「うふふ、もしかしたら、私にとっての悪魔はゲオルグ様なのかもしれませんね。微笑みながら私の未来を狂わせていく……うふふ」

「……あー、それはその」

「いいんです、私も気になる事なんですから」

「そうか」

 昼間の激突はとりあえず解決したようだった。ゲオルグが少し顔を下に向けて片手でプリシラのあごをもちあげた。プリシラもそれに逆らわずに顔あげ、

 だがその瞬間、

「え?」

 ぐら、と短い揺れ。その瞬間にゲオルグの顔色が変わった。

「伏せろプリシラ!」

「え?え?」

 ゲオルグがプリシラを捕まえたまま地面に伏せた瞬間、ゴオオッと大きな揺れが世界を襲った。


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