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ムサシとアキラ

作者: 田島 大腮

一つ前に猫の作品を投稿しました。


猫ときたら次は・・・?

     ムサシとアキラ

                             田島 大腮


ふわり、ざわり、ふわり、ざわり。


途切れていく映像が瞼の裏に浮かんでは消える。壊れた機械のように頼りないけれど、僕は苛立ったりしない。それは僕自身の部品が駄目になったから仕方がないことなんだ。僕の意識の欠片は飛び飛びの映像を映すだけで精一杯だ。


日にちの感覚はしっかりしている。それは十日前、僕は突然、十六年の長い夢から覚めたんだ。信号が赤から青に変わるくらいばっさりと、世界の色が変わったんだ。


 生まれたときからずっと一緒に育てられてきたムサシの死はそれくらい大きな衝撃だった。

遊ぶのもご飯を食べるのも寝るのも一緒だったし、恐い夢を見た日や雷が鳴る嵐の夜は、僕の震えが伝わったかのようにムサシも震えた。外を走り回ったり一緒に秘密基地を作ったりはできなかったけれど、家に帰ればいつもその話を聞かせてあげた。ムサシは何も言わないけれど、僕が毎日持ってくる土産話を楽しみにしていてくれたことを知っている。


ムサシと僕はとても寂しがり屋で臆病。


僕は生き物が苦手だった。

お父さんやお母さんには「男の子なんだから」と何かある度に言われてきた。でもおじいちゃんとおばあちゃんは「いいんだよそのままで。アキラは少し大人しいだけで、根はとても優しい子なんだから」と言って励ましてくれた。

おばあちゃんはしわしわの手でムサシを撫でるのが好きみたいだった。ムサシも温かいその手に目を細めるようにして身を委ねていた。

おじいちゃんは僕に釣りと将棋を教えてくれた。僕はほとんどの生き物が苦手だったけれど魚は別物だと思えるくらいなんともなかった。

魚は、持つところさえしっかりと押さえれば噛み付くことも引っかくことも吠えることない。

どんなに強力な毒を持っていても、海から出た時点で魚は全ての才能を奪われてしまうんだ。

餌になる虫をおじちゃんにつけてもらい、僕は釣りを楽しんだ。

小学校の低学年まではムサシも一緒に連れて行った。でも僕が六年生になる頃には、ムサシはひどく弱っていた。

外に連れ出すことはすっかりなくなった。


ムサシの調子は日に日に悪くなっているようだった。

ムサシがすっかり変わっていく。いつも隣に居たのにムサシは入退院を繰り返して、家にいないことが当たり前になり始めた。


お父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんもムサシが気になって僕に構ってくれなくなる。


誰もいない、何の音もしない玄関を開けるのはとても寂しかった。


学校の話も、将来の夢物語も今まではムサシが全部聞いてくれたのに、今ではもう叶わない。

だからといって四人の大人達の誰かが聞いてくれるわけでもない。もう高校生だし仕方のないのかな・・・・


僕はムサシよりも先に死んじゃうんじゃないかと思うほど、寂しかった。

 


だから殺したんだ。僕ととてもよく似た顔、とてもよく似た性格の、弟を殺したんだ。


両親の嘆きを聞いた。

「どうしてこんなことを」


おじいちゃんが苦しんでいるのを知ったし、おばあちゃんの皺は一層濃くなった。

「アキラは優しい子なのに、どうして先の長くない弟を・・・・」


ねえ—————。


僕は臆病なんだよ。

寂しくて仕方なかったんだよ。


だって—————。


同じ顔・同じ性格だなんて、僕がいる意味なんてあるのかな。


怖かったんだ—————。


怖くて怖くて我慢できなかったんだ。


知ってるんだよ—————。


僕を見る目はムサシを見る目と一緒だよね?

僕は僕なのに・・・・・。

僕は健康で優しくて臆病な男の子だよ。

ムサシとは違う。

哀しい目で僕を見ないでよ。

 


双子は性格が違ったりするというけれど、僕らは違う。似すぎたんだ。


同じ恐怖をムサシも持っていたんだよ。


最後の最後まで同じだった。


ムサシの入院回数が両手の指じゃ数え切れなくなったあの日。

面会時間を過ぎていたけれど僕は家族だからと大目に見てもらって病室に入った。

「今回が最後かもしれないから」と言って用意した個室はもう既に二回無駄になる。


初めて夜に訪れたその部屋は塩素系の白さを思わせる壁が厚く、無機質な部屋をいやに温かく見せる木のテーブルがあった。

おばあちゃんが代えてくれた真新しいコスモスの花。

おじいちゃんが食べ切れなかった葡萄が一房。

お父さんが買ってあげたゲーム機。

棚の中にはお母さんがきちんと洗濯して畳まれた着替えとタオルがあるんだろう。


見なくてもそんなこと分かる。


ここでムサシを囲んで楽しく団欒していたんだ。


僕が一人でレトルトのカレーを食べているときに、お父さんとお母さんは携帯電話の電源を切ったままこの部屋にいたんだ。


涙がポツリと流れて僕は思わず鼻を啜った。


「アキラ、とうとう来たんだね」

僕を迎えた彼の右手には刃物がぎらりと光っていた。



やっと一人になれたのに上手く眠れない。

僕は、一昨日逮捕されてムサシの最期の日記を読まされた。


『全部同じなのに、どうして僕だけ死ぬんだろう』


今、やっと後悔しているよ。

やっと気づいたよ。


ムサシが怖かったのは僕じゃなくて、自分だったんだね。

死ぬことが、ムサシは怖かったんだね。



十日が経った。

僕は死が怖いとは思わないけれど、ムサシのいないあの家に帰ることは恐ろしいと感じる。

一人になって初めて気づいたんだ。例えどんなに似ている人間でも、いなくなって構わない人なんていない。いるはずがないんだ。


そうだろう?ムサシ。

僕らは二人で一人でも、独りきりでもなかったんだ。


そうだよ。


君は、ムサシ、僕は、アキラ。

それ以上も以下もない。


乱文を読んでくださいまして、ありがとうございます。


横文字で書くのが非常に苦手です。


何かアドバイスなどありましたら教えてください。

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