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イケメンと男嫌いの彼女

作者: シャドウ
掲載日:2026/06/20




「好きだ、俺と付き合ってくれ」

「ごめんなさい、お断りします」


出会って30秒。男はフラれる。


今までフラれた事が無かった為、男の思考回路が数秒止まる。自分の見てくれには絶対の自身を持っていた為に余計にフラれたという事実が男には受け止められない衝撃的なものだった。



「なあ、俺のどこがいけなかったんだ?」

「あのさ、いきなり告白して付き合えると思ってんの?」

「思うだろ。俺ってイケメンじゃん?」

「…そういうところだぞ正樹」


俺の名前は井上正樹いのうえまさき

ルックスもスタイルも家柄も完璧な高校生。今まで告白された回数は3桁を超えるし、それなりに女の子との経験も豊富である。

俺と話しているのは影山透かげやまとおる

小学生からの付き合いで、俺から見てもイケメンの部類に入る。俺よりではないけど。


俺達は常にモテていた。自意識過剰とかではなく本当に。


「あ、正樹君と透君!おはよう」

「…おはよう」


教室に入ると数名の女子が挨拶してくる。俺達から挨拶を貰えて嬉しいのか頬を赤くさせている。

ほらな?やはり俺はイケメンなんだよ。


「なあ、俺と付き合ってって言ったら付き合う?」

「…え!」

「そうなるよな?」

「ああごめん藤宮さん。これ冗談だから気にしないで」

「…」



「同じ高校に居るんだし、また告白しようかな」

「やめとけって。彼女、男嫌いで有名だよ」

「男嫌い?なんで?」

「さあ。それは知らないけど、そういう噂を聞いた事がある」

「ふーん」



その後、俺をフッた女について色々調べてみる。

彼女の名前は一ノ瀬雪いちのせゆき

教室では静かに読書をして過ごしたりしていて、眼鏡を掛けた地味な黒髪の女。学年トップの成績をしていて、彼女が笑った姿を見た事がないというクラスメイトの証言。いつも1人で行動しているようだ。


「正樹君あんな女の子が好みなの?」

「そうだけど?」

「えー。あんな地味な子より私なんかどう?」

「え、無理。タイプじゃない」

「ひどーい」


一ノ瀬がこの女より地味?俺にはそうは見えない。彼女からは光が溢れてて、そこに居るだけで俺の中では魅力的で、一度視界に入ると目から離れない。

可愛いとか可愛くないとか、そんなの重要じゃない。初めてなんだ、こんな気持ち。溢れて来る好きという感情が抑えられない。彼女の笑った顔がみたい、彼女を自分だけのものにしたい。そう言った気持ちがどんどん溢れて来る。


「透、胸が苦しい」

「…ガチ惚れじゃん」

「これが恋ってやつか」

「…まあ、いきなり過ぎたんだよ。最初からガツガツいったら相手も警戒するから軽くジャブを入れてみな?」

「そうだよな。いきなり過ぎたよな」


そう、なんてったって俺は超絶イケメン。急がば回れということわざの通り、慎重に行動すればきっと大丈夫。


それから。俺は一ノ瀬雪に猛アタックしていた。

休み時間になると毎回彼女の教室に行って話しかける。


「好きな食べ物は?」

「…」

「何の本読んでるの?」

「…」

「どういうタイプの男が好き?」

「私、貴方の事フリましたよね?なんで私に近づくんですか?」

「え、何でって…好きだからに決まってるだろ?」

「こんな私なんかのどこがいいんですか?」

「今のところは見た目でしか判断出来ない」

「地味だし、私より可愛い子は周りにいくらでも居るでしょ?」

「お前以外は無理。もうお前しか見えてない」

「…」

「次、また来る」

「もう来ないでください」


そう言われたが、俺は次の休み時間も彼女の所に行った。嫌がられているというのは感じていたが、それより話したい、彼女の声を聞きたいという気持ちの方が大きい。


「またあの子のところに行くのか?」

「ああ」

「…あんましやるともっと嫌われるぞ?」

「だけど話さない事にはお互いに理解し合えないだろ?」

「まあ、そうだが…」

「今は嫌われててもいい。そのうち俺という男の事を意識し出せばその内それが好きに変わるよ」

「ポジティブだな。…まあ親友の初恋だ。応援するよ」

「サンキュー」



昼休み。彼女とご飯を食べたくて彼女の教室に向かう。だけどそこには彼女の姿が無かった。


「なあ、一ノ瀬しらね?」

「し、知らない」

「…」


明らかに何か知っている様子。他のヤツも同様な反応をしている。


「…どこ?」

「…」

「聞いてんの?」

「高山君と橘さんが一ノ瀬さんを呼び出してました!」「私達、口止めされてて…!」

「そっか。ありがとな」


高山。何かと俺にいつも突っかかってくる男。ガラの悪いヤツらと付き合いがあるとか。

橘。前に俺に一ノ瀬より自分と付き合いか聞いて来た化粧がケバい女。

…何か、嫌な予感がする。



「てめぇ、調子乗ってんじゃねえよ!」

バンッ

机を蹴り上げられ、ビクッと反応する。

…どうしてこうなったんだろ。私は平穏で穏やかに学園生活を過ごすはずだったのに。それに、誰からも敵視されない様にしていたのに。


「正樹から告白されて調子乗ってんじゃないの?あれは罰ゲームなんだから間に受けんなよブス!」

「わ、私はお断りしました…」

「はぁ?アンタみたいなブスが正樹を振るとかありえないんですけどー」

「…私にどうすれと?」

「そのスカした態度が気に入らないんだよ!…はあ。もういいや、高山君、やっちゃってよ」

「いいのか?」

「いいよ。どうせもう学校には来れなくなるんだから」


旧校舎の3階。普段使われてない所。ここまで連れて来られた意味が分からなかったけど、私に乱暴する気なのだろうか、橘さんが合図すると高山君と他の男の人が私に近付いて来る。


「いや!近づかないで!」

「おお、その怯えた声。たまんねーな!」

「高山君、この女見た目は地味だけど胸でけーよ!」

「お、ほんとだ。それに、なんか可愛く見えてきた」

「…いや、来ないで」


高山君達が私の腕を抑える。大声を出そうとすると、口を手で塞がれる。

「おっと、暴れんなよ…綺麗な顔が傷つくぜ?」

「アンタら、顔に傷は入れないでね」

「分かってるって」


高山君達の手が、私の身体を弄り始めた。シャツのボタンを1つずつ外され、スカートを捲られる。抵抗しようにも力が強くて振り解けない。

「いや…」

「はあはあ、たまんねーぜその表情」


…その時だった。勢い良くドアが開いた。



「旧校舎?」

「…はい、そこに行くのを見ました」

「ありがとな」


一ノ瀬を探す。学校中を走り回る。嫌な予感がする。高山、アイツには黒い噂があった。

似たような事が前にもあって、その女は次の日から学校に来なくなったとか。警察の介入とかもあったそうだが、高山の家は金持ちでその事を揉み消したとか何とか。


ひたすらに走った。もし、一ノ瀬が酷い目に遭っていたら…それはきっと、俺がアイツに関わってしまったからだ。


「くそっ」



旧校舎。使われなくなった建物で、近い内に取り壊しが決まっている。先生も見回りとかしないから誰も来ないだろう場所。一部屋ずつ回ってみるが全然見つからない。どこだよ…。どこに居るんだ一ノ瀬



3階の角の部屋。何やら物音がしている。あそこだろうか。開けてみると、そこには数人の男と高山、橘、そして、男に抑えられている一ノ瀬の姿があった。


「何してんの?」

「あ、ま、正樹…これは」

「何してんの?」

「ああ?見て分かんねーのかよ井上。今からこの女と遊ぶんだよ」

「その汚ねぇ手を退けろ」

「お、おい高山」「き、聞いてないぞアイツが来るとか」「ビビる事ねーよ。数はこっちが多いんだ」

「聞こえねーのかお前ら。今すぐその手を退けろ」

「あ?なんだよキレてんのか?焦るなよ、俺らが終わったらお前にも回してやっからよ。この女が好きなんだろ?お?胸でけー」


高山の手が一ノ瀬の胸を掴む。一ノ瀬の泣きそうな顔を見た俺は、血管が千切れそうになる。

そして、、。


「…失せろ。俺がお前らをボコボコにしないうちに」

「お前こそ、立場を考えろよ。こっちの方がーー」


俺はゆっくり高山に近づく。取り巻きの男が俺に飛びかかってくる。男の拳を手で弾き、鳩尾に拳を叩き込む。その一撃が効いたのか、そのまま地面に蹲っていた。その他の取り巻き達も俺にかかってくるが、返り討ちにした。


「さて、高山。立場がなんだって?」

「…嘘だろ。ここまで強かったのか」「だから言ったろ!中学時代、ソイツは…」

「ソイツ?ああ、木下、お前は俺の怖さがまだ伝わって無かったんだな」

「あ、ああ…違うんだよ井上」

「井上?様を付けろ殺すぞ」

「ーーまさか」

「もう後悔しても遅えよ」


木下を再起不能にして、残るは高山1人になる。高山が掴んでいた手を掴み、胸ぐらを掴んで地面に叩きつける。そのまま馬乗りになり、拳を高山の顔目掛けて振り下ろす。やめてくれとか言っていたけど関係ない。意識が飛ぶまで殴る。


高山も撃沈し、残るは橘1人になっていた。


「ま、正樹、私は何も…」

「…流石に女に手を出す訳にはいかねーからな。さて、どうなりたい?」

「ごめんなさい、もうしないので許してください」

「許してください?お前が逆の立場だったら許せんのか?ああ?一生のトラウマを背負うところだったんだぞ一ノ瀬は」

「ごめん、ごめんなさい一ノ瀬さん…許してください」

「…」

「もういい。失せろ。…いいな?次こんな事したら死ぬより辛い目に合わせるからな」


「大丈夫か?一ノ瀬」

「…」

「…悪い。俺がお前に付き纏ったからこんな怖い思いさせてしまって」

「怖かった」


震える彼女。衣類は乱れ、手を強く握られていたのか跡が残っている。俺は、俺という人間が1番許せない。近くにあった机に思いきり自分の頭をぶつける。何度も。


「や、やめて!」

何度もぶつけて打ちどころが悪かったのか、頭から血が流れる。一ノ瀬はそんな俺の腕を抑える。

「…離してくれ一ノ瀬。俺は俺が許せない。お前にこんな怖い思いをさせた俺が」

「助かったんだからもういいでしょ…それ以上やったら貴方が死んじゃう」

「いいんだよ。その為にやってるんだから」

「やめて!」


一ノ瀬の声が大きくなる。その叫びが、俺を止める。


「もうやめて…お願い」

「…」


「正樹!!!大丈夫か!?」

ガラガラと扉が開く。しかし、血を流しすぎたのか意識が朦朧としていく。ああ…一ノ瀬が無事で良かったーーー。




あれから。影山君と先生達がやって来て事態を収集してくれた。気を失っている高山君達を先生達が連れて行き、別室にて私と橘さんは事情聴取をされる事になった。高山君達と橘さんは退学する事になり、その後警察の取り調べを受けるとか。

私はそのまま帰って良いと言われたが、今は井上君の元に行きたかった。


…幼い頃。お父さんが会社をリストラされ、お母さんに暴力を振るう様になった。ギャンブルをして借金をして、ガラの悪い男の人と付き合う様になった。それを毎日見ていた私は、お母さんに暴力を振るうお父さんの事が大嫌いだった。

そして、ある日。学校から帰宅すると知らない男の人が家から出て来るところを見かけた。

家の中に入ると、お母さんが裸で倒れていた。その横で、お父さんはお酒を飲んでいた。

私は、警察に通報をした。お父さんは捕まり、お母さんは入院する事になった。

私は、お母さんのお爺ちゃんお婆ちゃんの元で生活する事になった。

「お母さん…」

病院のベッドで目覚めたお母さん。その目は虚で私を見ても何の反応もしない。身体中には乱暴された跡があり、私はその時思った。男なんて大嫌いだ。



夢を見た。一ノ瀬と俺が一緒の家に住み、子供達と楽しくする夢。隣の家には透が居て、毎日が楽しい日々。そこに現れる高山達。全てを壊していき、俺は…。


「一ノ瀬!!!」


勢い良く起きる。ズキッと頭に激痛が起きる。


「頭いてぇ…そういえば、ここはどこだ?」


どうやら保健室の様だ。頭を左手で触ってみると包帯が巻かれているようだった。右手でも触ってみようかと思ったが、出来なかった。


「なっ…!」


椅子に座って、俺の右手を掴んで小さな寝息を立てながら寝ている一ノ瀬がそこに居た。


「あら、目が覚めたのね?」

「あ、先生」

「痛みは大丈夫かしら?」

「動くと痛いですけど、まあ大丈夫です」

「そう。とりあえず大事にはなってないけど、後で病院に行くのよ?」

「はい」

「ふふ、彼女、貴方がここで眠っている時かなり取り乱していたわ。素敵な彼女ね」

「いえ、彼女じゃ…」

「あら、そうなの?てっきりお付き合いしてると思っていたわ。それじゃ、自分で帰れるならもう少しゆっくりして帰るのよ」

「はい」


そう言って去っていく先生。残された俺と一ノ瀬。

一ノ瀬はまだ起きないようだ。

…それにしても、なんつー無防備な。あんな事があったのに、俺なんかを心配してくれるなんて。

彼女の寝顔を見ながら思う。もう、彼女につきまとうのはやめよう。またこんな怖い思いをさせるのは俺が耐えられない。好きという気持ちは、よりいっそう強くなったが、それより彼女が傷つくのは自分が自分じゃなってしまうと思うくらいに怖い。

だから、最後に…。


「…」

「…」

「あ、い、一ノ瀬。おはよう」

「…おはようございます。顔を近づけてどうしたんですか?」

「あ、いや!その、ゴミがついてたから取ろうとして…!」

「ふふ。そうだったんですね」


…初めて、彼女が笑ったところを見た。

とても綺麗で、惹き込まれる笑顔。めちゃくちゃ可愛い。


「あの…恥ずかしいんですが」

「ッ!わ、わりい」

「その、頭は大丈夫ですか?」

「ああ。こんなん寝てれば治るよ」

「ダメです!ちゃんと病院に行って検査してもらってください!」

「お、おう。分かったよ…それより、右手…」

「右手?…ッ!」


俺の右手を掴んでいた一ノ瀬は勢い良く俺の手を離す。


「…ごめんな一ノ瀬。怖かったよな。でも助けられて本当に良かった」

「はい。怖かったです。でも、井上君が助けてくれたからもう平気です」

「本当にすまなかった。もう、一ノ瀬に近付くのはやめるよ」

「え?どうして?」

「どうしてって…またこんな怖い思いをさせるのが堪らなく嫌なんだ。お前には平穏で笑っていてほしいから」

「…貴方が居なければその思いは叶いませんね」

「…一ノ瀬?」

「井上君が隣に居ないと、もう私は…って、何度も言わせないでください!恥ずかしい…」

「え?え?ちょ、ちょっと待ってくれ!少し時間をくれ!」

「ふふ。慌てて可愛いです」

なんだこの可愛い生き物は。猫か?

「これからも傍に居ていいのか?」

「…はい。私をこんな風にしたんだから責任、取ってくださいね?」

「一ノ瀬!!」


「おーい正樹。見舞いにきた…ぞ。おっと、お邪魔だったようだ」

「お邪魔だ。早く立ち去れ」

「お構いなく」

「お構いなくじゃねぇんだよ!今大事な所なんだから!」

「ほれ、さっさとキスしろ。キース!キース!」

「うぜぇ…一ノ瀬もなんか言って…ってなんで顔赤いの?」

「…うるさいです」

「ほら見ろ!透のせいで一ノ瀬に嫌われた!!」

「それは嫌われてるんじゃなくて…」

「影山君、余計なことは言わないでください」

「あ、そうだね」

「なんだよ2人して…」

「影山君、井上君は大丈夫だった?」

「透、その子は?」

「言ってなかったっけ。俺と藤宮さん付き合い出したんだ」

「いつの間に…というかお前、初めての彼女?」

「まあそうなるのかな?」

「てっきり俺の事が好きで女に興味ないと思ってたわ」

「…なんでだよ。僕はノーマルだよ」

「藤宮茜です。以前、井上君に付き合ってと言われた事があります」

「…え?」

「いや、違うんだよ一ノ瀬!!ちょ、いきなりなに言い出すんだよ藤宮」

「私、井上君の事好きだったのにな〜」

「私、帰ります」

「待ってって。一ノ瀬、コレは冗談で…」

「これであの時の仕返しが出来ました。スッキリしました」

「茜ちゃん、あんまり正樹をいじめないであげてね」

「透君が井上君にそうやって甘やかすから井上君が調子乗るんだよ!」

「…はい。これからは鬼の様に対応します」

「なんでだよ!俺にずっと優しくしてろよ!」

「それに、もう正樹は大丈夫だよ。一ノ瀬さんが居るからね」

「…私、帰ります」

「だから待ってって!」

「きゃっ」

「おお、そのままキスしちゃえ!」

「透君、私達お邪魔みたいだから行きましょう」

「そうだね、では後はお二人でごゆっくり」

「…一ノ瀬」

「雪って呼んでくれないんですか?」

「あんまり可愛い事言うなよ。耐えれなくなるだろ?」

「?耐えれなくなるとは?」

「無自覚なの怖い…。つまり、こういうことだよ」

「あっ…」

「あ!そうだ正樹。キスだけにしとけよ。一応ここ学校だから」

「ッ!透!怪我が治ったら覚えておけよ!」

「親友の熱いキスシーン。ご馳走様でした」

「…私、帰ります」

「だから待てって雪!!」

「何ですか?」

「その…なんだ…。好きだ、俺と付き合ってくれ」

「ごめんなさい、お断りします」

「なんでだよ!!」



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