政治家転生〜シンプルに考えよう〜 改
誤字脱字があると思います。温かい目で見てください。
体は動かない。
頭は動く。
白いモヤがかかっていて、前が見えない。
脳裏に映像が流れる。
「君はよく政治家になれたね。」
私は、両手両足を拘束され、気怠い身体に鞭打って、目の前の男に鋭い眼光を向ける。
「君は素直だった。いや、純粋すぎたんだ。その純真な姿勢が、国民には光に見えたのだろうけど、その光は、君の言う売国奴には、とても目障りだった。」
「何を言ってる。お前が売国奴そのものだろう。こんなに国をめちゃくちゃにして。」
私は男に、吐き捨てるように、怒りの入り混じった声をあげる。
「めちゃくちゃか。今の日本は、失われた30年を乗り越え、大発展を遂げている。今の日本に敵う国はないよ。」
「何が発展だ。かつての同盟国と、周りの2大大国の、実質的な共同支配によって、発展しているように見せてるだけだ。大多数の国民は、今も大きな格差で、1日を生きることで精一杯だ。」
「それで、格差を埋めることが必要だと……。君は、本当に変わらないな。あの時も言ったけど、半端な実力で、理想を追い求めれば、必ず破滅が待っていると。君の家族が亡くなった日に言っただろう。」
「お前が殺したんだろう。」
私は、喉元に迫り上がってきた血と声を吐きながら、薄れかけていた怒気を強める。
「君の家族は、私は殺してないよ。それにこの罪を重ね始めたのは、2030年。今年に入ってからだよ。君も、風の噂で聞いたんじゃないかな。多くの元政治家たちが、不審死を遂げていると。」
「……まあ、君は知っていたようだけどね。直感は鋭いのに、その直感の根拠を説明できない。君の数ある欠点の1つだ。もし、次があるなら、直感を言葉で説明する術を探せ。」
「何を。」
気怠さが増して、声が出せない。声を出そうにも、口から息が漏れる。
「さて、そろそろ毒が回りきる頃だ。最後にもう1つ、アドバイスしよう。君が小さな改革を絶えず続ける1人であったなら、どれだけ実力が半端でも、君を引っ張り上げていただろう。私なりにね。」
「誰が、お前なんかと。」
朦朧とした意識の中、何とか声を出す。
「何か、言い残したことはあるかい?」
「お前、だけは、絶対に。」
「フフ、本当に君はわかりやすいね。……絶望から逃げることができて、心底、羨ましいよ。」
薄れていく意識の中、男の声は少し、寂しげに聞こえた。
この映像は……。
最後の時の。
なぜだ。なぜ意識がある。
白いモヤは、いくらか晴れていた。はっきりとしない意識と視界の中、身体を動かせることに気づき、前へと歩き出す。
進む足の感覚がないまま、どれくらい歩いただろうか。急に辺りのモヤが薄くなり、目の前に2つの鏡が現れた。
鏡は合わせ鏡になっていて、間は3人分空いている。覗いてみると、目の前には自分。後ろの鏡には、線の細い女性のような体型の、自分が映っていた。
「やっときたか。待ちくたびれぞ。」
目の前の鏡の自分が、独りでに話し出す。
「意識の薄い中、よく来ましたね。私たちは、あなたに会えるのを心待ちにしていました。」
後ろの鏡から、優しい声が聞こえる。
「私は心待ちにしてなどいないぞ。ただ、1人ではつまらなかったがな。」
1人?私たち?待っていた?
鏡に映っている自分が話してるし。どういうことだ。
「いくつか、疑問にお答えしましょう。あなたからは、私たちは2人に見えているのでしょうが、実際は1人です。同一存在だと、言ったほうがいいでしょうか。」
「我はお主を待っていた。だが、待っていたのは、生きたお主だ。死んだお主ではない。」
「そして、鏡を通して、あなたに語りかけているのは、あなたにやどる予定だった、神です。」
「神?同一存在?それに生きた私を待っていたとは?それにやどるとは?」
あらゆる疑問が浮かび、気づけば私は、言葉を発していた。
「それらの問いに答えるつもりなどない。我はお主にたった1回の、再起の可能性を与えるために、お主とまみえたのだ。」
「そうですね。そこから話しましょう。私たちは、シミュレーションカウント10と、一度きりの転生。サポート生物と、100人分の政治家の記憶と知識を与えましょう。」
「シミュレーションカウント10は、お主が政治家だからこそ、発生するカウントだ。」
「もし、選挙であなたが落選したとしましょう。それを1回として、カウント10から1を引き、9回となります。」
「他に汚職の嫌疑をかけられて、失職しても、カウントは1減る。なに、心配ない。シミュレーションだからな。生前のお主は、これで一発アウトだったが、汚職の疑いが、かけられる前に戻ることができる。」
「選挙で負けた時も、同様に戻ることはできますが、もう1つ。目的が達成される前に、2030年の1月1日0時を迎えた瞬間。あなたのカウントは1減り、2020年の最初のポイントに戻ります。」
「目的。それは日本が、失われた30年から復活することだ。」
「ただし、この目的は、シミュレーションカウント10の中で、達成できるかどうか。」
「だからこそ、政治家100人の知識と、記憶をお主に流し込む。拒否権はない。」
「安心してください。あなたの脳なら、1週間を記憶と知識の定着に費やせば、可能です。」
「それでも、記憶と知識の定着には、我とて、不安がある。そこでサポート生物だ。」
「サポート生物。犬、猫、鳥の中から1つを選び、あなたのペットとして生活をします。記憶と知識の定着のサポートの他、情報収集もできます。」
「お主と一緒に、政治家100人の知識と記憶をその生物にも流し込む。お主とだけだが、会話も可能になる。」
「そこまでして、ようやく可能となるでしょう。全く、どうしてここまで落ちぶれたのか。」
「そうだな。ただ、それを嘆いても仕方あるまい。そして最後に、1度きりの転生だ。」
「この転生は、シミュレーションで得た知識や記憶はそのままに、2020年の最初のポイントに転生します。」
「ただし、転生はシミュレーションではない。つまり、1度の失敗も許されないということだ。」
「ちなみに転生は、あなたの元いた世界への転生で、2020年のあなた自身に転生します。」
「それは、転生ではないのではと、言いたそうな顔だな。シミュレーションカウント10で得た経験と、100人の政治家の知識と記憶を得た、お主はもはや別人だ。だからこそ、転生なのだ。」
「では、サポート生物を選んでください。シミュレーションなどの拒否は一切、受け付けません。」
「さあ、選べ。」
強引すぎるだろう!
確かに私は、もう1度チャンスがあるならと思ったことはあった。
条件だけを聞くなら、破格の条件だ。
罪人になったり、落選したりしなければ、100人の知識や記憶を持ったまま、10回もシミュレーションが可能だ。
そして、あの時に戻ることができる。
でも、なんで。
「なんで、私なんですか……。2020年の私は若くて、勢いがあるだけの、ただの無法者だ。100人の政治家の知識や記憶があったって、何もできない。私には何も……。」
「お主は忘れているようだな。」
「あなたが政治家を志した、きっかけの言葉があったでしょう。」
「お主は、シンプルに考えるのがうまいのだ。」
『シンプルに考えられるのすごいね。龍真くん、政治家になれるよ。』
光結。そうだった。何で、今まで忘れていたんだ。
「そうです。あなたは黒永龍真。最も大切な考え方を持っていました。」
「不屈の精神と清らかな心。他にもあるが、我がお主を選んだのは、その考え方ができるからだ。」
そうだ。そうだ。
私は光結に日毬に虎太郎に会いたい。会ってあの時の償いをしたい。
「覚悟が決まったようですね。では、サポート生物を選んでください。」
「虎太郎。猫の虎太郎がいい。」
「わかった。お主たちの拾い子だな。いいだろう。」
私はあんな日本にしないために。政治家として、なんだってやってやる。
『君とは話すまでもないよ。』
『お前には失望した。』
『お願いです!どうか、どうか!』
「うっ……」
無数の声や記憶が流れ込んでくる。
「さて、黒永龍真。準備を始めなさい。」
「お主には、既に100人の政治家の記憶を流し始めた。」
「3日寝て記憶の定着を。3日で知識の整理を。1日で復帰の準備を始めなさい。」
「最後に、お主には絶望が足りない。お主が見放した民の絶望を知れ。」
「待ってくれ。まだ、聞きたいことが。」
私は頭痛が激しくなる中、何とか声をあげる。
「この記憶は最も絶望を感じた、日本国民の記憶です。絶望を知りなさい。」
「そして奮起しろ。2度とこんな世界にしないために。」
白い視界に景色が見え始める。
それは、ほとんど草が生えていない。野ざらしの土。電柱が倒れ、ブロック塀も崩れている。
そこにぽつんと簡素な平屋が建てられている。
周りに数人の人がいて。
混濁した視界には、先ほどまであった鏡はなく、薄れていく意識の中、声だけが聞こえた。
「精進してください。分け御霊よ。」
「立派になれ。分け御霊よ。生きたお主とまみえるまで、待っているぞ。」
「それでは、お行きなさい。」
//////////
「俺はヒーローになれる。お前と入れば、俺達はまだ負けない。なぁ相棒!」
「刺された時はヒヤヒヤしたけど、元気そうだね――。」
「また、名前呼びかよ。お前も相棒って言っていいんだぜ。」
俺達は、6人の子供たちと散歩中、襲ってきた子供目当ての誘拐犯から、子供たちを守りきった。
俺が攫われそうになった子供を守り、相棒が助けを呼んだ。俺はその時に、腹に傷を負ったが、名誉の負傷だ。気にすることはない。
「誘拐犯には、逃げられたね。」
「ああ、あいつら逃げ足は速いからな。次も警戒しないと。」
あの時から、日本は変わってしまった。シーファン。イースト。セ―ヴェル。海を隔てた隣国のあいつらが、日本を自由に行き来するようになった。今回はシーファンに魂を売った日本人が6人。運転手と実行犯の計6人だった。
あいつらに、特にシーファンの連中に攫われた子供たちの扱いはよく聞く。奴隷のように扱い、死ぬことも許されない。そんな奴らに俺達の希望を取られるものか。
「フォッフォッフォ。――もアルコールはどうかね?景気づけに飲めばいい。それに傷の治りも早いだろうからな。」
「うぇ、ジジイ。また酒飲んでんのかよ。そんなんじゃ、いざって時に走れねえぞ。」
「……その時は、お前が守ってくれるんじゃろう。ヒーロー。」
「はっ。おう、もちろんだ。」
俺達が拠点にしている平屋には、これまで助けてきた大人たちがよく訪れる。じいさんもその1人だ。じいさん以外にも、子供を入れて十数人が、この平屋の近くに住んでいる。
この人数が入れば、子供たちを守りながら生きていける。俺はそんな甘い希望を抱いていた。
俺は両手で、子供2人と手を繋ぎ、トボトボと歩いていた。
拠点が襲われた。
多くの住人がシーファンに捕まった。相棒もその中の1人だ。
いつも騒がしい子供は、しくしくと泣きながら、繋いだ左手を震わせている。
いつも相棒に怯えていた子供は、うつむき黙りこくったまま、繋いだ右手を力強く握っている。
俺はその両手を決して離すまいと、気持ちを奮い立たせて両手を握った。
子供たちの笑顔は、俺が守るんだ。
今後はどうするか。
現状に目を向けるのを放棄して、それだけに思考を巡らせる。
そのまましばらく歩くと、シーファンのクラクションの音が聞こえた。
両腕で子供を抱え、走り出すがすぐに囲まれる。
「「お兄ちゃん!」」
俺達は袋小路に追い詰められた。俺は子供の前に立ち、両腕を広げた。
一人がナイフを取り出し、そちらに注意がそれた瞬間、バットで頭を殴られた。
今は、必死に抵抗する子供を日本人の大人が、冷たい眼差しで車に押し込もうとしている。
痛い。痛い。痛い。
倒れかかった背中に、勢いをつけたバットが当たる。必死に伸ばした手を踏みつけられ、腕を蹴られる。
全然こんなの痛くない。
痛いのは、いつも騒がしかったやつの、必死に俺を呼ぶ声が痛い。
いつも大人しかったやつの、泣き叫ぶ声が痛い。
そして、そんな声を聞いてるのに、動けない俺が心底憎い。
俺はヒーローじゃなかったのかよ。くそっ、あいつが、相棒さえいれば。
「なぁ、お前ら、そろそろ――を離してやってくれないか。」
この声は相棒!相棒だ。逃げきれたんだ。相棒なら、この現状を何とかできるかもしれない。
「相……ぼう?」
相棒が助手席から降りてきた。
子供たちを押し込もうとしている車から。
相棒は、誘拐犯たちに殴られる事なく、ゆっくり俺の下に歩いてきた。
「なぁ、――。まだ気づかねえのか。ホント馬鹿だな。お前。」
「はっ?嘘だよな。だって、相棒は、俺といっしょに皆を救ったヒーローで。それで。」
「ヒーローか。その相棒のポジションが1番、紛れ込みやすかったから、やっただけだ。疑問に思わなかったのか?何で、毎回、毎回。お前を都合よく助けられたのか。何で、分かりやすかった拠点が、ついさっきまで襲われなかったのか。」
そこで言葉を切り、後ろを向いて、さっきまで泣き叫んでいた子供に近寄る。
その子供は、鋭い怒りの双眸を相棒に向けていた。
「こいつの方が、よっぽど、頭がきれるよ。」
「うるさい。裏切り者!」
「はは、こいつの疑いが、伝播しないようにするの、大変だったんだぜ。まぁ、大抵は子供より、大人の言葉を信じるからな。御しやすくて、助かったぜ。」
相棒だった奴は、下卑た笑いを浮かべながら、俺に近づく。
「なぁ、わかっただろ。相棒。」
「この野郎!」
「やれ。」
いつの間にか近くに立っていた、誘拐犯の振りかぶったバットが、俺の背中を殴る。
そこからはあまり、覚えていない。
バットや蹴りが、俺を痛めつけていたんだろうが、その感覚は薄かった。
怒りが、怒りだけが、俺の頭の中をぐつぐつと煮えたぎらせていた。
子どもたちが車に詰め込まれる。
殴る蹴るの連続の中で、チラリと見えた子どもたちの目はうつろで、俺達といた頃の、きらびやかな眼差しは、もう見れないのだと感じた。
チクリと注射された時の、痛みを感じた。
意識が朦朧としだした。
「安心しろ。お前は殺すよりも有用な使い方がある。」
あいつの声に、怒りで目の前が、真っ赤に染まる。
絶対に、絶対にこいつを許さない。
俺が絶対に、殺してやる。
その後は本当に覚えていない。
怒りで絶えず、真っ赤に染まる視界の中、俺はあいつの首に手をかける。
何かを話す口をふさぎ、目を見つめる。
その目から1筋の涙がこぼれていた。
その目は少し、あの子たちに似ていた。
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―っ。
「お父さん、大丈夫?」
「ひどい顔ね。私が支えるから部屋に行きましょう。」
「ありがとう。日毬。光結。」
ひどい頭痛の中、無数の記憶が脳裏に流れては、記憶されていく。
その度、目の前が眩むほどに頭が痛むが、今は2人の顔を目に焼き付けたい。たとえ、これがシミュレーションの世界だとしても。
「部屋に着いた。大丈夫?風邪が良くなったからって、家族で夕食にしたのが悪かったわね。」
「いや、大丈夫だよ。2人の笑顔が見れたから。」
「そのためにひどいのを隠していたら、私たちの笑顔も曇るわよ。ほら、ベットに寝て。お休みなさい。」
「あぁ、ありがとう。お休み。」
お休みなさい。
その言葉に涙が流れそうになる。
暗い部屋になれた目を凝らしてみると、私の部屋だった。
足元には、ぎっしり本の詰まった中位の本棚と、右の壁の隅に勉強用の机と椅子がある。中央には丸いグレーの絨毯に、木のローテーブルとクッションが置いてある。そのクッションには、薄茶色と白の縞々の毛毬が丸まっている。
その毛毬はニャゴニャゴとうめき声をあげていた。
机と本棚の間のカレンダーを見ると、2020年の数字が目に入る。
「本当に2020年なんだ。痛っ」
「よく、この頭痛で話せるナァ。」
「えっ?虎太郎が喋ってる?」
「落ち着け、主人。この声は主人にしか聞こえない。2人でしか話せないのニャ。」
「そうだった。それで虎太郎も……」
「主人と同じにゃ。主人を含めた100人の政治家の記憶を知識として、流し込まれたニャ。」
「えっ。大丈夫?僕も相当痛いんだけど。」
「大丈夫に見えるのかニャ。野良時代にひどい食べ物を食べた時の腹痛より痛いのニャ。」
「はは、それってこれくらい痛いんだ。」
「笑い事じゃないのニャ。」
「「うう…」」
ひどい頭痛だ。それに虎太郎も。
ただ、それよりも、鮮明に見えたあの記憶を思い出す。
あの記憶の主が最後にしたのは、たぶんだけど。
それにすごい怒りだった。その怒りが私にも、伝播するように、さっきまで白く明滅していた視界は赤く染まりかけていた。
「主人は……」
「うん?どうしたの虎太郎?」
「主人は、あのヒーローは、最後に何をしたと思うのニャ?」
「もしかして、考えてたことが。」
「声に出さなくてもわかるのにゃ。主人が何を考えているかはお見通しニャ。」
「そっか。…ねぇ虎太郎。たぶんだけど、あのヒーローはあの子どもを。いや、この想像は話したくないな。」
「たぶんだけど、最後までできてないのニャ。」
「えっ、どういうこと?」
「言ってたのニャ。シーファンの連中は、苦しむ子供を死なせてくれナイ。痛めつけたのニャ。」
「でも、どうして。彼はヒーローで。」
「ヒーローだったからなのにニャ。朦朧とした意識の中、ヒーローに子供を痛めつけさせて。子供はその姿に絶望して、ヒーローは心が傷んで。」
「なんて、ひどいことを。」
「たぶんだけど、そうなのニャ。」
たぶんだが、虎太郎の想像は当たってる。シーファンの連中は、身体を傷つけるだけじゃなくて、心すら傷つけるって。
そして、どちらにも無関心になった人をあいつらは。
「主人は、怒りに身を任せたら、だめなのニャ。」
「――っ。」
そうだ。このまま、怒りに身を任せたら、シミュレーションが水の泡になってしまう。
「主人は、シンプルに考えればいいのニャ。あんな世界にしなければ、苦しむ人は出てこないのニャ。」
「そうだね。シンプルに考えれば、あんな世界にしなければいい。そして、あんな世界にしないためには、あいつと一緒に変えないと。」
「あいつって。主人を殺したやつなのかニャ?」
「うん。あいつと組むのは、嫌だけど。私よりも年下なのに立ち回りが上手くて、優秀なんだ。」
「でも、主人を殺したやつなのニャ。」
「それはあの時にね。今は何も起きていない。」
「屁理屈なのニャ。」
「それにあいつがいたから、日本は三国の共同支配と言う、最悪の一歩手前で止まっていた。」
「どうして、それがわかるのニャ?」
「100人の政治家の記憶をみているとね。あいつのそばにいた人の記憶もあって、なんとなくわかったんだ。」
『絶望から逃げることができて、心底、羨ましいよ。』
「それにあいつは寂しそうだった。あいつは1人で絶望に立ち向かっていたんだ。だったら私も。」
「主人は優しすぎるのニャ。」
「ねぇ、虎太郎。僕が政治家になったのは、光結の期待に応えたかったからだけど、それだけじゃ足りなかった。」
「そんニャことは…」
「だから、まずはシンプルに考えようと思う。」
「ニャ!それでこそ主人なのニャ。」
ただ…
「「頭が痛い。」のニャ。」
「お休み。虎太郎。」
「お休み。主人ニャ。」
―翌日―
「うーん。わかってはいたけど、この国の問題点が大きすぎて、全体像が把握しきれないな。」
治まってきた頭痛はほっといて。目の前のことに集中する。
「確かに。みんな、色々なことで困ってたニャ。」
「でも、わかりやすい、1番大きな問題は……」
「「失われた30年。」」
「この30年は、1990年から2000年の間から今日までと言われているね。」
「30年は長すぎる。人間はその間、何をしていたのニャ?」
「うん、まずはそれを調べて。僕の知識と貰った知識とを照らし合わせて、理想とのギャップを見つけていこう。」
―その翌日―
「わかった。日本の最大の問題点。」
「お金なのかニャ?」
「いや、お金よりも大きな問題だよ。それは技術だ。」
「技術?何で技術なのニャ。」
「うん。さっき、虎太郎が言ってたお金は、表の問題に過ぎないんだ。払った、払ってない、上手く使えた、上手く使えなかった。そんなふうに分けられるけど、問題なのは、国が上手くお金を使えなかった結果、日本の技術が停滞して、この先、発展しなくなるかもしれないんだ。」
「ニャにー。と言いたいけど、うまく想像できないのニャ。」
「そうだね。まずは、1990年から2000年の間に何が起こったのかを探したんだ。そこで、1つ気になることがあった。それは、今の財務省の前の組織が、国土交通省に行ったことなんだ。」
「それは何なのニャ?」
「うん、簡単に言うと。メディアを操作して、国土交通省への国民の目を厳しくさせて、補助金(開発費)を国費から出させないようにしたんだ。」
「それで何が起こったのニャ。」
「それまで、開発費として扱ってたものが出せなくなった結果、活発的だった、土地のインフラ整備が、極端に少なくなってしまったんだ。」
「土地は、何となくわかるのニャ。散歩道はボロボロなところじゃなく、きれいなところにしているのニャ。でも、それの何が、技術の停滞に繋がるのニャ?」
「もし、土地・情報のインフラ整備をすることで、【今後、十数年の成長産業の見極め】と【成長産業の成長させる道筋】が同時にわかったとしたら?」
「それはすごいことニャ。でも、それは今からすればいいことじゃないのかニャ?」
「うん、それはそうなんだけど、これから話すことをよく聴いてね。」
「わかったニャ。」
「土地のインフラ整備は、開発の方は、半年以上はかかる工事だ。そこで何でも任せられる人になるためには、少なく見積もっても10年は必要だ。大学を卒業して、そのまま働いて10年経ったとしよう。その人は何歳?」
「33歳ニャ。」
「そう。その33歳に30年を足すと?」
「63歳ニャ!」
「もう、引退間近だ。」
「でも、失われた30年で新人も入ってきてる。焦ることじゃないのニャ。」
「それはさっき言った、インフラ整備が少なくなった30年だ。活発だった時代との差は歴然だよ。」
「でも、海外で工事をしているのにゃ。ちゃんと経験は積んでるのニャ!」
「海外の工事で最新技術は使えた?最新技術はまだ世に出て日も浅く、情報が少ないものだ。それを安全面を考慮して使えた?」
「それでも工事の経験は……」
「最新技術を扱うノウハウの経験は?」
「……そういうことなのかニャ。」
「うん。僕の想像どおりなら、すぐにこの国の技術は止まるだろうね。」
「AIは、AIはどうなのかニャ?」
「AIを僕も触ってみたけど、既知・既存の技術の、新しく見える見せ方がができるだけだろうね。あくまで僕の考えだけど、最新技術を生み出すのは人間だ。AIにはできないよ。」
「そうか。そうなのかニャ。じゃあ、このことをみんなに知らせニャいと。」
「待って。まずはシンプルに小さな改革から始めよう。」
「小さな改革にゃ?」
「うん、まずは僕が、この考えに至った経緯を誰かの考えとして広めるんだ。」
「ニャ?なんで、そんな面倒なことをするのニャ?!主人のブログですればいいのニャ。」
「うん、僕はあくまで、誰かの考えを参考にして、動いている1人の政治家とするんだ。もし、この考えが僕自身のものだとするなら、僕を消せば、それで済むからね。」
「そういうことかニャ。主人のゴールは考えを広めるだけではないのニャ。」
「そうだね。僕のゴールは、この国を変えることだ。よし、計画と準備を始めよう。誰に書いてもらうかだけど……佐竹あたりが知ってそうかな。」
「佐竹って。主人と同じ党の、坊っちゃん政治家ニャ?」
「坊っちゃんって。はは。あの年で、まだそんな呼ばれ方をしているのか。まぁ、佐竹なら色々知っているだろう。」
「それと、あと3日で要点と、最後の1日で、政治家復帰の準備をしよう。」
「わかったのニャ。」
ー3日後ー
なぜ社会は中小企業であふれているのか?=資本主義経済と企業構造の推論。
問題点「現場より」・問題点の解決策の推論=現場からの技術継承の歪みの推論。
AI育成の目指すべき道=特化・汎用・人間超えAIの考察と、現場が目指すべき「専門的AI」への道。
専門的AIへの道と他者の総和=AIの認識と技術発展に関する考察。
日本の重要な投資先と問題点。
日本の中小企業の最重要な役割=現場の「暗黙知」を中核とした専門AI育成モデルの提案。
大企業の役割=【国家・企業統合型】次世代超効率社会モデル(真資本主義・循環型社会構想)
循環型社会構築後の世界における日本の立ち位置とその展望。
「疲れたー。話し相手になってくれてありがとうね。虎太郎。」
「つかれたニャー。疑問に思ったことを聞いただけなのニャ。」
「それが助かったんだけどね。やばい。色々準備しないと。」
「がんばってニャー。」
―翌日―
「お父さん、風邪はもう大丈夫なの?」
「うん、お父さんは大丈夫だよ、日毬。」
「私は心配だったのに、風邪を引く前より元気そうだね。」
「そうかな光結。よし、ごちそうさま。洗い物は……」
「私がするよ。復帰準備は万端?」
「うん、もちろん。……と言いたいとこだけど、今日は書類を取りに行くだけなんだ。光結。日毬。じゃあ、行ってきます。」
「「いってらっしゃい。」」
元気な声を背に扉を開ける。
シミュレーション世界だと言うのに、私の心は空とともに、青く澄んでいた。
読んでくれて、ありがとうございます。主人公たちが考えた日本を救う案を【エッセイ】として、随時投稿していきます。お楽しみに。




