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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

政治家転生〜シンプルに考えよう〜 改

作者: 黒澤 中道
掲載日:2026/03/20

誤字脱字があると思います。温かい目で見てください。

体は動かない。

頭は動く。

白いモヤがかかっていて、前が見えない。

脳裏に映像が流れる。



「君はよく政治家になれたね。」


私は、両手両足を拘束され、気怠い身体に鞭打って、目の前の男に鋭い眼光を向ける。


「君は素直だった。いや、純粋すぎたんだ。その純真な姿勢が、国民には光に見えたのだろうけど、その光は、君の言う売国奴には、とても目障りだった。」

「何を言ってる。お前が売国奴そのものだろう。こんなに国をめちゃくちゃにして。」

私は男に、吐き捨てるように、怒りの入り混じった声をあげる。


「めちゃくちゃか。今の日本は、失われた30年を乗り越え、大発展を遂げている。今の日本に敵う国はないよ。」

「何が発展だ。かつての同盟国と、周りの2大大国の、実質的な共同支配によって、発展しているように見せてるだけだ。大多数の国民は、今も大きな格差で、1日を生きることで精一杯だ。」


「それで、格差を埋めることが必要だと……。君は、本当に変わらないな。あの時も言ったけど、半端な実力で、理想を追い求めれば、必ず破滅が待っていると。君の家族が亡くなった日に言っただろう。」

「お前が殺したんだろう。」

私は、喉元に迫り上がってきた血と声を吐きながら、薄れかけていた怒気を強める。


「君の家族は、私は殺してないよ。それにこの罪を重ね始めたのは、2030年。今年に入ってからだよ。君も、風の噂で聞いたんじゃないかな。多くの元政治家たちが、不審死を遂げていると。」


「……まあ、君は知っていたようだけどね。直感は鋭いのに、その直感の根拠を説明できない。君の数ある欠点の1つだ。もし、次があるなら、直感を言葉で説明する術を探せ。」

「何を。」

気怠さが増して、声が出せない。声を出そうにも、口から息が漏れる。


「さて、そろそろ毒が回りきる頃だ。最後にもう1つ、アドバイスしよう。君が小さな改革を絶えず続ける1人であったなら、どれだけ実力が半端でも、君を引っ張り上げていただろう。私なりにね。」

「誰が、お前なんかと。」

朦朧とした意識の中、何とか声を出す。


「何か、言い残したことはあるかい?」

「お前、だけは、絶対に。」


「フフ、本当に君はわかりやすいね。……絶望から逃げることができて、心底、羨ましいよ。」

薄れていく意識の中、男の声は少し、寂しげに聞こえた。




この映像は……。

最後の時の。

なぜだ。なぜ意識がある。


白いモヤは、いくらか晴れていた。はっきりとしない意識と視界の中、身体を動かせることに気づき、前へと歩き出す。



進む足の感覚がないまま、どれくらい歩いただろうか。急に辺りのモヤが薄くなり、目の前に2つの鏡が現れた。

鏡は合わせ鏡になっていて、間は3人分空いている。覗いてみると、目の前には自分。後ろの鏡には、線の細い女性のような体型の、自分が映っていた。



「やっときたか。待ちくたびれぞ。」

目の前の鏡の自分が、独りでに話し出す。


「意識の薄い中、よく来ましたね。私たちは、あなたに会えるのを心待ちにしていました。」

後ろの鏡から、優しい声が聞こえる。

「私は心待ちにしてなどいないぞ。ただ、1人ではつまらなかったがな。」


1人?私たち?待っていた?

鏡に映っている自分が話してるし。どういうことだ。


「いくつか、疑問にお答えしましょう。あなたからは、私たちは2人に見えているのでしょうが、実際は1人です。同一存在だと、言ったほうがいいでしょうか。」

「我はお主を待っていた。だが、待っていたのは、生きたお主だ。死んだお主ではない。」

「そして、鏡を通して、あなたに語りかけているのは、あなたにやどる予定だった、神です。」

「神?同一存在?それに生きた私を待っていたとは?それにやどるとは?」

あらゆる疑問が浮かび、気づけば私は、言葉を発していた。


「それらの問いに答えるつもりなどない。我はお主にたった1回の、再起の可能性を与えるために、お主とまみえたのだ。」

「そうですね。そこから話しましょう。私たちは、シミュレーションカウント10と、一度きりの転生。サポート生物と、100人分の政治家の記憶と知識を与えましょう。」


「シミュレーションカウント10は、お主が政治家だからこそ、発生するカウントだ。」

「もし、選挙であなたが落選したとしましょう。それを1回として、カウント10から1を引き、9回となります。」

「他に汚職の嫌疑をかけられて、失職しても、カウントは1減る。なに、心配ない。シミュレーションだからな。生前のお主は、これで一発アウトだったが、汚職の疑いが、かけられる前に戻ることができる。」

「選挙で負けた時も、同様に戻ることはできますが、もう1つ。目的が達成される前に、2030年の1月1日0時を迎えた瞬間。あなたのカウントは1減り、2020年の最初のポイントに戻ります。」


「目的。それは日本が、失われた30年から復活することだ。」

「ただし、この目的は、シミュレーションカウント10の中で、達成できるかどうか。」


「だからこそ、政治家100人の知識と、記憶をお主に流し込む。拒否権はない。」

「安心してください。あなたの脳なら、1週間を記憶と知識の定着に費やせば、可能です。」


「それでも、記憶と知識の定着には、我とて、不安がある。そこでサポート生物だ。」

「サポート生物。犬、猫、鳥の中から1つを選び、あなたのペットとして生活をします。記憶と知識の定着のサポートの他、情報収集もできます。」

「お主と一緒に、政治家100人の知識と記憶をその生物にも流し込む。お主とだけだが、会話も可能になる。」


「そこまでして、ようやく可能となるでしょう。全く、どうしてここまで落ちぶれたのか。」

「そうだな。ただ、それを嘆いても仕方あるまい。そして最後に、1度きりの転生だ。」


「この転生は、シミュレーションで得た知識や記憶はそのままに、2020年の最初のポイントに転生します。」

「ただし、転生はシミュレーションではない。つまり、1度の失敗も許されないということだ。」


「ちなみに転生は、あなたの元いた世界への転生で、2020年のあなた自身に転生します。」

「それは、転生ではないのではと、言いたそうな顔だな。シミュレーションカウント10で得た経験と、100人の政治家の知識と記憶を得た、お主はもはや別人だ。だからこそ、転生なのだ。」


「では、サポート生物を選んでください。シミュレーションなどの拒否は一切、受け付けません。」

「さあ、選べ。」




強引すぎるだろう!

確かに私は、もう1度チャンスがあるならと思ったことはあった。

条件だけを聞くなら、破格の条件だ。

罪人になったり、落選したりしなければ、100人の知識や記憶を持ったまま、10回もシミュレーションが可能だ。

そして、あの時に戻ることができる。

でも、なんで。


「なんで、私なんですか……。2020年の私は若くて、勢いがあるだけの、ただの無法者だ。100人の政治家の知識や記憶があったって、何もできない。私には何も……。」


「お主は忘れているようだな。」

「あなたが政治家を志した、きっかけの言葉があったでしょう。」

「お主は、シンプルに考えるのがうまいのだ。」



『シンプルに考えられるのすごいね。龍真りゅうまくん、政治家になれるよ。』

光結みゆ。そうだった。何で、今まで忘れていたんだ。


「そうです。あなたは黒永龍真くろながりゅうま。最も大切な考え方を持っていました。」

「不屈の精神と清らかな心。他にもあるが、我がお主を選んだのは、その考え方ができるからだ。」


そうだ。そうだ。

私は光結つま)日毬むすめ虎太郎ねこに会いたい。会ってあの時の償いをしたい。


「覚悟が決まったようですね。では、サポート生物を選んでください。」

虎太郎こたろう。猫の虎太郎がいい。」

「わかった。お主たちの拾い子だな。いいだろう。」


私はあんな日本にしないために。政治家として、なんだってやってやる。



『君とは話すまでもないよ。』

『お前には失望した。』

『お願いです!どうか、どうか!』


「うっ……」

無数の声や記憶が流れ込んでくる。


「さて、黒永龍真。準備を始めなさい。」

「お主には、既に100人の政治家の記憶を流し始めた。」

「3日寝て記憶の定着を。3日で知識の整理を。1日で復帰の準備を始めなさい。」


「最後に、お主には絶望が足りない。お主が見放した民の絶望を知れ。」

「待ってくれ。まだ、聞きたいことが。」

私は頭痛が激しくなる中、何とか声をあげる。


「この記憶は最も絶望を感じた、日本国民の記憶です。絶望を知りなさい。」

「そして奮起しろ。2度とこんな世界にしないために。」


白い視界に景色が見え始める。

それは、ほとんど草が生えていない。野ざらしの土。電柱が倒れ、ブロック塀も崩れている。

そこにぽつんと簡素な平屋が建てられている。

周りに数人の人がいて。


混濁した視界には、先ほどまであった鏡はなく、薄れていく意識の中、声だけが聞こえた。



「精進してください。分け御霊よ。」

「立派になれ。分け御霊よ。生きたお主とまみえるまで、待っているぞ。」

「それでは、お行きなさい。」




//////////



「俺はヒーローになれる。お前と入れば、俺達はまだ負けない。なぁ相棒!」

「刺された時はヒヤヒヤしたけど、元気そうだね――。」

「また、名前呼びかよ。お前も相棒って言っていいんだぜ。」


俺達は、6人の子供たちと散歩中、襲ってきた子供目当ての誘拐犯から、子供たちを守りきった。

俺が攫われそうになった子供を守り、相棒が助けを呼んだ。俺はその時に、腹に傷を負ったが、名誉の負傷だ。気にすることはない。


「誘拐犯には、逃げられたね。」

「ああ、あいつら逃げ足は速いからな。次も警戒しないと。」


あの時から、日本は変わってしまった。シーファン。イースト。セ―ヴェル。海を隔てた隣国のあいつらが、日本を自由に行き来するようになった。今回はシーファンに魂を売った日本人が6人。運転手と実行犯の計6人だった。

あいつらに、特にシーファンの連中に攫われた子供たちの扱いはよく聞く。奴隷のように扱い、死ぬことも許されない。そんな奴らに俺達の希望を取られるものか。


「フォッフォッフォ。――もアルコールはどうかね?景気づけに飲めばいい。それに傷の治りも早いだろうからな。」

「うぇ、ジジイ。また酒飲んでんのかよ。そんなんじゃ、いざって時に走れねえぞ。」

「……その時は、お前が守ってくれるんじゃろう。ヒーロー。」

「はっ。おう、もちろんだ。」


俺達が拠点にしている平屋には、これまで助けてきた大人たちがよく訪れる。じいさんもその1人だ。じいさん以外にも、子供を入れて十数人が、この平屋の近くに住んでいる。



この人数が入れば、子供たちを守りながら生きていける。俺はそんな甘い希望を抱いていた。




俺は両手で、子供2人と手を繋ぎ、トボトボと歩いていた。

拠点が襲われた。

多くの住人がシーファンに捕まった。相棒もその中の1人だ。


いつも騒がしい子供は、しくしくと泣きながら、繋いだ左手を震わせている。

いつも相棒に怯えていた子供は、うつむき黙りこくったまま、繋いだ右手を力強く握っている。

俺はその両手を決して離すまいと、気持ちを奮い立たせて両手を握った。


子供たちの笑顔は、俺が守るんだ。

今後はどうするか。

現状に目を向けるのを放棄して、それだけに思考を巡らせる。



そのまましばらく歩くと、シーファンのクラクションの音が聞こえた。

両腕で子供を抱え、走り出すがすぐに囲まれる。


「「お兄ちゃん!」」 


俺達は袋小路に追い詰められた。俺は子供の前に立ち、両腕を広げた。

一人がナイフを取り出し、そちらに注意がそれた瞬間、バットで頭を殴られた。


今は、必死に抵抗する子供を日本人の大人が、冷たい眼差しで車に押し込もうとしている。


痛い。痛い。痛い。


倒れかかった背中に、勢いをつけたバットが当たる。必死に伸ばした手を踏みつけられ、腕を蹴られる。


全然こんなの痛くない。

痛いのは、いつも騒がしかったやつの、必死に俺を呼ぶ声が痛い。

いつも大人しかったやつの、泣き叫ぶ声が痛い。

そして、そんな声を聞いてるのに、動けない俺が心底憎い。


俺はヒーローじゃなかったのかよ。くそっ、あいつが、相棒さえいれば。



「なぁ、お前ら、そろそろ――を離してやってくれないか。」


この声は相棒!相棒だ。逃げきれたんだ。相棒なら、この現状を何とかできるかもしれない。


「相……ぼう?」


相棒が助手席から降りてきた。

子供たちを押し込もうとしている車から。


相棒は、誘拐犯たちに殴られる事なく、ゆっくり俺の下に歩いてきた。



「なぁ、――。まだ気づかねえのか。ホント馬鹿だな。お前。」

「はっ?嘘だよな。だって、相棒は、俺といっしょに皆を救ったヒーローで。それで。」

「ヒーローか。その相棒のポジションが1番、紛れ込みやすかったから、やっただけだ。疑問に思わなかったのか?何で、毎回、毎回。お前を都合よく助けられたのか。何で、分かりやすかった拠点が、ついさっきまで襲われなかったのか。」


そこで言葉を切り、後ろを向いて、さっきまで泣き叫んでいた子供に近寄る。

その子供は、鋭い怒りの双眸を相棒に向けていた。


「こいつの方が、よっぽど、頭がきれるよ。」

「うるさい。裏切り者!」


「はは、こいつの疑いが、伝播しないようにするの、大変だったんだぜ。まぁ、大抵は子供より、大人の言葉を信じるからな。御しやすくて、助かったぜ。」


相棒だった奴は、下卑た笑いを浮かべながら、俺に近づく。 



「なぁ、わかっただろ。相棒。」



「この野郎!」

「やれ。」


いつの間にか近くに立っていた、誘拐犯の振りかぶったバットが、俺の背中を殴る。




そこからはあまり、覚えていない。

バットや蹴りが、俺を痛めつけていたんだろうが、その感覚は薄かった。

怒りが、怒りだけが、俺の頭の中をぐつぐつと煮えたぎらせていた。


子どもたちが車に詰め込まれる。

殴る蹴るの連続の中で、チラリと見えた子どもたちの目はうつろで、俺達といた頃の、きらびやかな眼差しは、もう見れないのだと感じた。



チクリと注射された時の、痛みを感じた。

意識が朦朧としだした。


「安心しろ。お前は殺すよりも有用な使い方がある。」


あいつの声に、怒りで目の前が、真っ赤に染まる。



絶対に、絶対にこいつを許さない。

俺が絶対に、殺してやる。




その後は本当に覚えていない。

怒りで絶えず、真っ赤に染まる視界の中、俺はあいつの首に手をかける。

何かを話す口をふさぎ、目を見つめる。

その目から1筋の涙がこぼれていた。


その目は少し、あの子たちに似ていた。





//////////



 ―っ。 

「お父さん、大丈夫?」

「ひどい顔ね。私が支えるから部屋に行きましょう。」

「ありがとう。日毬ひまり光結みゆ。」


 ひどい頭痛の中、無数の記憶が脳裏に流れては、記憶されていく。

その度、目の前が眩むほどに頭が痛むが、今は2人の顔を目に焼き付けたい。たとえ、これがシミュレーションの世界だとしても。


「部屋に着いた。大丈夫?風邪が良くなったからって、家族で夕食にしたのが悪かったわね。」

「いや、大丈夫だよ。2人の笑顔が見れたから。」

「そのためにひどいのを隠していたら、私たちの笑顔も曇るわよ。ほら、ベットに寝て。お休みなさい。」

「あぁ、ありがとう。お休み。」


 お休みなさい。


その言葉に涙が流れそうになる。

暗い部屋になれた目を凝らしてみると、私の部屋だった。


足元には、ぎっしり本の詰まった中位の本棚と、右の壁の隅に勉強用の机と椅子がある。中央には丸いグレーの絨毯に、木のローテーブルとクッションが置いてある。そのクッションには、薄茶色と白の縞々の毛毬が丸まっている。

その毛毬はニャゴニャゴとうめき声をあげていた。


机と本棚の間のカレンダーを見ると、2020年の数字が目に入る。


「本当に2020年なんだ。痛っ」

「よく、この頭痛で話せるナァ。」

「えっ?虎太郎が喋ってる?」

「落ち着け、主人。この声は主人にしか聞こえない。2人でしか話せないのニャ。」

「そうだった。それで虎太郎こたろうも……」

「主人と同じにゃ。主人を含めた100人の政治家の記憶を知識として、流し込まれたニャ。」

「えっ。大丈夫?僕も相当痛いんだけど。」

「大丈夫に見えるのかニャ。野良時代にひどい食べ物を食べた時の腹痛より痛いのニャ。」

「はは、それってこれくらい痛いんだ。」

「笑い事じゃないのニャ。」

「「うう…」」



 ひどい頭痛だ。それに虎太郎も。

ただ、それよりも、鮮明に見えたあの記憶を思い出す。


あの記憶の主が最後にしたのは、たぶんだけど。


それにすごい怒りだった。その怒りが私にも、伝播するように、さっきまで白く明滅していた視界は赤く染まりかけていた。


「主人は……」

「うん?どうしたの虎太郎?」

「主人は、あのヒーローは、最後に何をしたと思うのニャ?」


「もしかして、考えてたことが。」

「声に出さなくてもわかるのにゃ。主人が何を考えているかはお見通しニャ。」


「そっか。…ねぇ虎太郎。たぶんだけど、あのヒーローはあの子どもを。いや、この想像は話したくないな。」

「たぶんだけど、最後までできてないのニャ。」

「えっ、どういうこと?」


「言ってたのニャ。シーファンの連中は、苦しむ子供を死なせてくれナイ。痛めつけたのニャ。」

「でも、どうして。彼はヒーローで。」

「ヒーローだったからなのにニャ。朦朧とした意識の中、ヒーローに子供を痛めつけさせて。子供はその姿に絶望して、ヒーローは心が傷んで。」


「なんて、ひどいことを。」

「たぶんだけど、そうなのニャ。」


たぶんだが、虎太郎の想像は当たってる。シーファンの連中は、身体を傷つけるだけじゃなくて、心すら傷つけるって。 

そして、どちらにも無関心になった人をあいつらは。


「主人は、怒りに身を任せたら、だめなのニャ。」

「――っ。」

そうだ。このまま、怒りに身を任せたら、シミュレーションが水の泡になってしまう。


「主人は、シンプルに考えればいいのニャ。あんな世界にしなければ、苦しむ人は出てこないのニャ。」

「そうだね。シンプルに考えれば、あんな世界にしなければいい。そして、あんな世界にしないためには、あいつと一緒に変えないと。」

「あいつって。主人を殺したやつなのかニャ?」


「うん。あいつと組むのは、嫌だけど。私よりも年下なのに立ち回りが上手くて、優秀なんだ。」

「でも、主人を殺したやつなのニャ。」

「それはあの時にね。今は何も起きていない。」

「屁理屈なのニャ。」

「それにあいつがいたから、日本は三国の共同支配と言う、最悪の一歩手前で止まっていた。」


「どうして、それがわかるのニャ?」

「100人の政治家の記憶をみているとね。あいつのそばにいた人の記憶もあって、なんとなくわかったんだ。」



『絶望から逃げることができて、心底、羨ましいよ。』


「それにあいつは寂しそうだった。あいつは1人で絶望に立ち向かっていたんだ。だったら私も。」

「主人は優しすぎるのニャ。」


「ねぇ、虎太郎。僕が政治家になったのは、光結の期待に応えたかったからだけど、それだけじゃ足りなかった。」

「そんニャことは…」

「だから、まずはシンプルに考えようと思う。」

「ニャ!それでこそ主人なのニャ。」

 ただ…

「「頭が痛い。」のニャ。」

「お休み。虎太郎。」

「お休み。主人ニャ。」




―翌日―


「うーん。わかってはいたけど、この国の問題点が大きすぎて、全体像が把握しきれないな。」

 治まってきた頭痛はほっといて。目の前のことに集中する。

「確かに。みんな、色々なことで困ってたニャ。」

「でも、わかりやすい、1番大きな問題は……」

「「失われた30年。」」

「この30年は、1990年から2000年の間から今日までと言われているね。」

「30年は長すぎる。人間はその間、何をしていたのニャ?」

「うん、まずはそれを調べて。僕の知識と貰った知識とを照らし合わせて、理想とのギャップを見つけていこう。」


―その翌日―


「わかった。日本の最大の問題点。」

「お金なのかニャ?」

「いや、お金よりも大きな問題だよ。それは技術だ。」


「技術?何で技術なのニャ。」

「うん。さっき、虎太郎が言ってたお金は、表の問題に過ぎないんだ。払った、払ってない、上手く使えた、上手く使えなかった。そんなふうに分けられるけど、問題なのは、国が上手くお金を使えなかった結果、日本の技術が停滞して、この先、発展しなくなるかもしれないんだ。」

「ニャにー。と言いたいけど、うまく想像できないのニャ。」


「そうだね。まずは、1990年から2000年の間に何が起こったのかを探したんだ。そこで、1つ気になることがあった。それは、今の財務省の前の組織が、国土交通省に行ったことなんだ。」

「それは何なのニャ?」

「うん、簡単に言うと。メディアを操作して、国土交通省への国民の目を厳しくさせて、補助金(開発費)を国費から出させないようにしたんだ。」


「それで何が起こったのニャ。」

「それまで、開発費として扱ってたものが出せなくなった結果、活発的だった、土地のインフラ整備が、極端に少なくなってしまったんだ。」

「土地は、何となくわかるのニャ。散歩道はボロボロなところじゃなく、きれいなところにしているのニャ。でも、それの何が、技術の停滞に繋がるのニャ?」


「もし、土地・情報のインフラ整備をすることで、【今後、十数年の成長産業の見極め】と【成長産業の成長させる道筋】が同時にわかったとしたら?」

「それはすごいことニャ。でも、それは今からすればいいことじゃないのかニャ?」

「うん、それはそうなんだけど、これから話すことをよく聴いてね。」

「わかったニャ。」


「土地のインフラ整備は、開発の方は、半年以上はかかる工事だ。そこで何でも任せられる人になるためには、少なく見積もっても10年は必要だ。大学を卒業して、そのまま働いて10年経ったとしよう。その人は何歳?」

「33歳ニャ。」

「そう。その33歳に30年を足すと?」

「63歳ニャ!」

「もう、引退間近だ。」


「でも、失われた30年で新人も入ってきてる。焦ることじゃないのニャ。」

「それはさっき言った、インフラ整備が少なくなった30年だ。活発だった時代との差は歴然だよ。」

「でも、海外で工事をしているのにゃ。ちゃんと経験は積んでるのニャ!」

「海外の工事で最新技術は使えた?最新技術はまだ世に出て日も浅く、情報が少ないものだ。それを安全面を考慮して使えた?」

「それでも工事の経験は……」

「最新技術を扱うノウハウの経験は?」



「……そういうことなのかニャ。」

「うん。僕の想像どおりなら、すぐにこの国の技術は止まるだろうね。」

「AIは、AIはどうなのかニャ?」

「AIを僕も触ってみたけど、既知・既存の技術の、新しく見える見せ方がができるだけだろうね。あくまで僕の考えだけど、最新技術を生み出すのは人間だ。AIにはできないよ。」

「そうか。そうなのかニャ。じゃあ、このことをみんなに知らせニャいと。」

「待って。まずはシンプルに小さな改革から始めよう。」




「小さな改革にゃ?」

「うん、まずは僕が、この考えに至った経緯を誰かの考えとして広めるんだ。」

「ニャ?なんで、そんな面倒なことをするのニャ?!主人のブログですればいいのニャ。」

「うん、僕はあくまで、誰かの考えを参考にして、動いている1人の政治家とするんだ。もし、この考えが僕自身のものだとするなら、僕を消せば、それで済むからね。」


「そういうことかニャ。主人のゴールは考えを広めるだけではないのニャ。」

「そうだね。僕のゴールは、この国を変えることだ。よし、計画と準備を始めよう。誰に書いてもらうかだけど……佐竹あたりが知ってそうかな。」


「佐竹って。主人と同じ党の、坊っちゃん政治家ニャ?」

「坊っちゃんって。はは。あの年で、まだそんな呼ばれ方をしているのか。まぁ、佐竹なら色々知っているだろう。」

「それと、あと3日で要点と、最後の1日で、政治家復帰の準備をしよう。」

「わかったのニャ。」




ー3日後ー



なぜ社会は中小企業であふれているのか?=資本主義経済と企業構造の推論。

問題点「現場より」・問題点の解決策の推論=現場からの技術継承の歪みの推論。

AI育成の目指すべき道=特化・汎用・人間超えAIの考察と、現場が目指すべき「専門的AI」への道。

専門的AIへの道と他者の総和=AIの認識と技術発展に関する考察。

日本の重要な投資先と問題点。

日本の中小企業の最重要な役割=現場の「暗黙知」を中核とした専門AI育成モデルの提案。

大企業の役割=【国家・企業統合型】次世代超効率社会モデル(真資本主義・循環型社会構想)

循環型社会構築後の世界における日本の立ち位置とその展望。




「疲れたー。話し相手になってくれてありがとうね。虎太郎。」

「つかれたニャー。疑問に思ったことを聞いただけなのニャ。」

「それが助かったんだけどね。やばい。色々準備しないと。」

「がんばってニャー。」




―翌日―


「お父さん、風邪はもう大丈夫なの?」

「うん、お父さんは大丈夫だよ、日毬。」


「私は心配だったのに、風邪を引く前より元気そうだね。」

「そうかな光結。よし、ごちそうさま。洗い物は……」


「私がするよ。復帰準備は万端?」

「うん、もちろん。……と言いたいとこだけど、今日は書類を取りに行くだけなんだ。光結。日毬。じゃあ、行ってきます。」

「「いってらっしゃい。」」


元気な声を背に扉を開ける。

シミュレーション世界だと言うのに、私の心は空とともに、青く澄んでいた。

読んでくれて、ありがとうございます。主人公たちが考えた日本を救う案を【エッセイ】として、随時投稿していきます。お楽しみに。

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