第9話 もっと強くなるために
アンノウンから魔力を回収したセーニャが、俺とアルフレッドをスフォルタット城下町へ転送した。
眩い光が晴れると、目の前にギルドの看板がそびえている。
「……戻ってきた、のか」
「ええ。急ぎましょう」
セーニャの促しに従い、俺たちは扉を押し開けた。
受付嬢はボロボロになった俺たちの姿を見るなり、息を呑む。
「ショウさん、アルフレッドさん……! その怪我……!」
無理もない。服は裂け、血の跡も残っている。
俺よりもアルフレッドの方が酷い。Sクラスの狩人がこんな姿で戻るなんて、どれほどの激戦を潜り抜けたか一目瞭然だ。
それに、創世神イリスが応急処置してくれなければ、今ここに立っていることすら怪しかった。
「怪我は問題ない。話すべきは依頼の内容だ」
アルフレッドがカウンターに肘を置き、低く告げる。
「──あそこに、異様に強いアンノウンがいた。普通の冒険者なら、魔力枯渇地帯に入った時点で命はない。なぜショウにランク三として提示した?」
受付嬢は眉を寄せ、依頼書をめくる。
「そんな……依頼内容には“原因の調査”と“魔力源の回収”としか……」
確かに彼女の責任ではない。
アンノウンはギルドでも情報が乏しい“未知の魔物”。つまり──
(討伐するかどうかは、狩人の判断任せってことか)
アルフレッドが眉間に皺を刻んだまま、小さく息を吐く。
「報酬が三倍、魔力結晶は別途買い取り……“美味しい案件”というのは、そういう意味か」
「ショウさんに危険な任務を押し付けたつもりはありません……!」
「分かっている。お前たちの落ち度ではない。むしろ油断した俺が悪い」
「アルフレッドさんでも、油断なんてされるんですね」
「一瞬の判断が遅れれば、誰でも死ぬ。それだけの話だ」
そう言うと、アルフレッドは懐から魔力結晶を取り出し、テーブルに置いた。
受付嬢の目が大きく見開かれる。
「こ、この純度……! 相当な強さの魔物だったようですね……!」
青白い光を宿した結晶は、まだ“意志”が残っているかのように脈動している。
(……これが、魔力を暴走させた人間の成れの果て……)
胸がざわつく。
「では、報酬はこちらです。危険度を考慮し、予定通り三倍で」
銀貨の詰まった袋が差し出される。
「それと……魔力結晶の買い取り先ですが……」
アルフレッドが視線を向ける。
「──どこに流れる?」
受付嬢は一瞬だけ口を閉ざし、目を逸らした。
「ギルド内の取引で……その……詳しくは……」
彼女は言葉を濁した。
嘘ではないが、核心は隠している。
(研究所……あるいは、それに近い場所か)
胸の奥が重くなる。
「とにかく依頼は完了だ。次の依頼の前に──」
アルフレッドが自分の大剣の残骸を見下ろし、俺のボロボロの服を指差した。
◇
ギルドを出て、まずは仕立て屋へ向かう。
「こちら、冒険者用の耐魔繊維入りの服です。魔力干渉にも強いですよ」
「へええ……」
暫く衣類を新調することが無かったので、店員のお勧めを聞いて思わず目移りしてしまう。
「た、高っ……!」
値札をみた瞬間、頭がくらくらした。俺のランクではこの強そうな服は買えない。
「ああ、ショウ。ここの店の服なら好きなものを買っていいぞ」
「えっ、マジ──?」
Sランク狩人の財布事情と、Fランクの財布事情は雲泥の差だ。
「出世払いでお願いします」
「ふっ……お前に死なれたら困るからな。きちんと耐魔繊維の服にしておけ」
アルフレッドの有難い忠告を受けて、黒を基調とした軽装を選んだ。
これなら動きやすく、ティルファングの邪魔にもならない。
「似合ってるじゃない、ショウ!」
「そ、そうか……?」
セーニャの言葉に、思わず耳が熱くなった。
一方のアルフレッドも、珍しく防御重視のシルバーの胸当てと、大剣使いなのに盾も購入していた。
服を新調したところで、次に武器屋へ向かう。
「おう、アルフレッドじゃねぇか。……って、その剣どうした!?」
アルフレッドと顔馴染みの髭親父が、錆びついた大剣を目を丸めて手に取った。
「アンノウンの攻撃で溶けた。新しい大剣を頼む」
「こいつを溶かすなんて──久しぶりにやべえのとやりあったんだな」
「……まさかあそこまでアンノウンが強化されているとは思わなかった」
「ギルドだけじゃなくて、王宮側もアンノウンの調査に乗り出してくれねえかな。あんなのが外をウヨウヨされたら俺たちどこも出られなくなっちまう」
店主の話は切実だった。
一番最初に受けた依頼も 猪人族が街中に出現していた。あれがアンノウンだとしたら、街人の日常は消える。
「さあて、この剣よりも強い武器ったらなあ……これしかねえな」
店主は奥の倉庫から大切そうに巨大な大剣を持ってきた。
「──こいつは魔力干渉に強いプラチナ合金だ。ちぃと値は張るが、アンノウン相手でも多少は持つ」
アルフレッドは試しに軽く振る。
片手で巨大な大剣を軽々と扱うその姿に、俺は思わず心の中で突っ込む。
(アルフレッドの握力どうなってんだよ……)
「買おう」
迷いなく金を置くと、今度は俺の方へ向き直った。
「ショウ、お前も一本持っておけ」
「え?」
「ティルファングが使えない状況もある。魔力枯渇地帯ではそいつはただの鉄だ。護身用に短剣くらいは必要だろう」
それを聞いた店主が小ぶりの短剣を差し出す。
「こいつは軽くて扱いやすい。初心者向けだ」
手に取って振ってみる。
確かに重さも長さも、ちょうどいい。
「……悪くない」
「買ってやる。持っておけ」
「ありがとう、アルフレッド」
短剣を腰に差すと、胸の奥が少しだけ軽くなった。
(……もっと、強くならなきゃ)
イリスが死んだ事実を確認するために。
そして研究所の闇。
依頼と関係なく強力になっていくアンノウンの正体。
それと、全部向き合うために。




