表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

第13話 灰の謎


 ティルが倒したアンノウンを魔力結晶として回収するため、俺たちは再びデュルグ湖へ戻ってきた。

 危険な魔物は消えたはずなのに、空気は相変わらずざらつき、喉に刺さるような毒気が漂っている。


「なあ、お前たちの仲間ってこの下にいるんだろ? 安全が確認できたら出られるのか?」

『はい……今は空気も水も灰で汚染されているので難しいのですが、いずれ必ず』

「でも、俺たちと行動したら、この下の仲間の安全はどうすんだよ」

『はっきり申し上げると、このままでは我々は生きていけません。もっと世界を知る目が欲しかったところです。なので、マーメイド様の──』

「あ、悪い……俺のことはショウって呼んでくれ」

『畏まりました、ショウ様。あなた方と行動することで、この水を灰から救う方法が見つかると踏んだのです』


 三年前までは平和だったと言っていた。

 この辺りまで結界を張っていた創世神イリスって、本当にとんでもない存在なんだな。


『女王陛下も早く記憶を取り戻して元のお姿に戻れるよう、我々も尽力いたします』


 真面目なサハギンたちの言葉に、俺は苦笑するしかない。記憶喪失のマーメイド女王陛下なんて、どう修正すりゃいいんだよ。

 元凶を睨むと、セーニャは俺の肩の上で知らん顔をしていた。


『ショウ、もう少しランクが上がったら、ギルドから空気浄化装置を借りられるんじゃないかしら?』


 灰を吸い込み、空気を浄化する魔法の装置。

 研究所が作り、今や高ランクの狩人(ハンター)たちが各地に持ち歩いているらしい。


 ……なのに、サハギンの湖には与えられていない。

 理由は分からないが、今は確かめようがない。


「確か空気浄化装置って、クッソ重いらしいし……壊したら一生狩りしても返済できねえやつだぞ」

『それでも、サハギンは救うべき存在よ』

「まあな」


 研究所に乗り込むことを考えると、味方は多い方がいい。

 彼らの生態は謎だが、アルフレッドが戻ってきたら聞いてみよう。


「あ、まだ残ってた」


 周囲を確認すると、アンノウンの死骸がしぼんだ状態で残っていた。

 ザックたちをギルドに連れて行けば証言は十分だし、この魔力結晶は純度が高そうだ。

 危険な場所だが、戻ってきた価値はある。


『──しかし、この魔物の死骸をショウ様はどうされるのですか?』


 ザックが死骸を見下ろす。

 俺はティルファングを抜き、死骸へ突き立てた。


「頼むぞ、ティル……」


 炎の剣が光り、アンノウンの魔力を吸い上げていく。

 凝縮された魔力結晶が、いつものように俺の手のひらへ落ちた。


『す、凄い……神の魔法だ……』

「俺は魔力が無いから、全部ティルのお陰なんだよ」

『魔力って何ですか?』

「は?」


 二体のサハギンは首を傾げたた。そういえば、彼らは魔法を使わない。銛だけで戦い、水と自然と共に生きる温厚な種族。

 見た目がヌメヌメしているせいで嫌われることもあるだろうが、今のザックとリックはほぼ人型を保っている。


「お前らのその姿って本当にサハギンなのか?」

『いいえ、我々は本来の姿で街や人間と関わることができません。察しの通りだと思いますが──』


 ああ、なるほど。

 あの姿で街を歩いたら、貴婦人は悲鳴を上げるし、兵士が飛び出してくるだろう。


「じゃあ、誰かに魔法かけてもらって人間に?」

『はい。創世神イリス様にいただいた青の結晶を使っております』


 それは、魔力を持たない者にも僅かな魔力を与える“奇跡の石”。湖が襲われたとき、外見だけで敵と判断されないようにするためのものらしい。


『青の結晶は、イリス様が我々にくださった“祝福(サンクティア)“ですが──』


 ザックが湖の方へ視線を向けた。その表情はどこか険しい。


『三年前から……結晶の力も弱まっているのです』

「弱まってる?」

『はい。以前は湖全体を包むように、青い光が常に揺らめいていました。しかし今は……』


 ザックは湖面を指差す。

 そこには、かつてあったはずの青い輝きは一切なかった。代わりに、灰色の膜が薄く張りつき、じわじわと広がっている。


「結界が……消えているのか」

『イリス様の結界が弱まったことで、灰が湖に入り込み……あの謎の魔物が現れ、我々も喰われ……』


 リックがぎゅっと拳を握りしめる。


『そして、あの巨大なアンノウンが“主”として成長したのです』


 灰が結界を破り、

 灰が水を汚し、

 灰が魔物を生み、

 灰がサハギンを喰わせた。


 すべての元凶は──この星に散らばる灰。

 だが、ここで終わりではなかった。


『ショウ様……もう一つ、気になることが』

「ん?」

『灰が飛んでくる方向です』


 ザックは湖の東側を指差した。

 そこは、まだ俺達が入れるランクの場所ではなく、未開拓となっている為、地図にもない。

 ただ言えるのは、灰の濃度が異様に高い区域だということだ。


『あの方角から、灰が“流れてくる”のです。まるで……誰かが意図的に撒いているように』

「……撒いてる?」


 胸の奥がざわつく。

 灰が密集するのは、自然現象ではない。


『その方角には……古い研究施設があると、我々は聞いております』


(……やっぱり、ここにも研究所が関わってるのか)


 セーニャが小さく震えた声で言う。


『ショウ……あの灰、ただの毒じゃないわ。魔力の“残滓”が混じってる。誰かが……魔力を使って擬似的に灰を作ってるのよ』

「魔力で……灰を?」


 嫌な予感が背筋を這い上がる。

 灰は自然に発生したものもあるが、この周辺にある灰の濃度は異常だった。

 これは明らかに誰かが作り、撒き、広げている。

 その結果、湖は汚染しサハギンは喰われ、あの巨大アンノウンが生まれた。

 そして灰は、今もあちこちに広がり続けている。


(……原因を突き止めなきゃな)


 ショウは拳を握りしめた。


『ショウ様、我々も同行いたします。あの灰の源を共に断ちましょう』

「ああ。頼もしいよ、よろしくな」


 灰の侵食の原因は、すぐそこにある。

 そしてその先には、研究所の影が確実に伸びていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ