表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「女神回収プログラム」短編集  作者: 呂兎来 弥欷助
譲れないもの【12】~【18】までに登場する人物での話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/27

猫の手にも及ばなかった者

【15】願わぬ再会(2) で瑠既と倭穏が話している短期バイトが入ってくる前の話です。


ネタバレというより、本編の内容を深く知れるという話になっていると思います。


「猫の手を借りた結果」というテーマのときに執筆した短編。


【ジャンル】恋愛

【タグ】猫の手を借りた結果 愛娘 父と息子のような関係

 アヤという宿屋の亭主に拾われ、かれこれ十年経つひとりの青年がいる。繁忙期を前にし、亭主に苦言を呈する。

ヨシさんさ、短期でもいいから……人を雇おうよ?」

 カウンターで帳簿をつける亭主は一瞬だけ顔を上げて、ニヤリと笑う。

「そういや去年もそんなことを言っていたな、リュウ

 すぐに帳簿に戻った視線を見れば、興味がないのは一目瞭然。だが、カウンターに乗り出すようにして食い下がる。

「去年も一昨年も、その前も言ってるよ。年末年始は毎年忙しいだろ? 猫の手だって借りたいほどだよ。何人か雇ったっていいじゃん」

「ダメだ」

「どーして?」

「俺は、かんたんに人を信じられないんだよ」

「俺は拾ったのに?」

リュウは別だ」

 亭主のヨシが淡々と書く帳簿を睨み、リュウ──こと、瑠既リュウキは乗り出していた身を戻す。聞く耳を持たないと判断したのか、独り言のように愚痴る。

「俺が言いたいのはさ、『監視の目を増やそう』ってことなんだけどな。繁忙期じゃなくったって、行き届いているとは……」

「ほう」

 愚痴をしっかりと聞かれ、瑠既リュウキはギクリとして黙る。

「わかった。俺はお前を信じるよ。どーも年を取ると頑固になってよくねぇかんなぁ……」

 わっはっはと豪快にヨシは笑い、瑠既リュウキは苦笑いで胸をなで降ろした。


 翌日から求人の紙がアヤの店頭に貼り出される。苦し紛れに言った通りの短期の募集だったが、複数人を雇う気がヨシにはあるようだった。

 瑠既リュウキアヤの仕事を手伝い始めたころは、文字がまともに書けなかった。人見知りも激しかった。猫の手にも到底及ばなかっただろう。だが、今となってはヨシが寝込んでもその穴を埋められる。人間、同じことを長期していれば、それなりに何でもできると瑠既リュウキは身をもって知っている。

 だから、本当は短期ではなく、普通に人を雇ってほしかった。己が成長した分、ヨシの体が心配だから。ただ、頑なに拒んでいた人員を、短期とはいえ受け入れる気になってくれたのには感謝している。この十年育ててくれた恩を、どう返せるのかと頭の片隅に様々な事柄がチラつく。


 こうして無事に年末が来る前に、ふたりの短期バイトが入った。ひとりはまったくの素人だったが、もうひとりは接客経験があり、面倒見のいい人物だった。お陰でふたりで人に慣れ、仕事に慣れるのもはやく、無事に戦力となった。



 年明けのカウントダウン前、一年の締めくくりに看板娘の踊り子が舞台に立つ。黒く長い髪を丸く束ね、けれど、そのまとまりからはぐれた長い髪が天女のように妖艶に舞っている。

「おお、リュウの言うように人を雇ってよかったよ」

 手を止めて舞台を見入っていた瑠既リュウキに、ヨシから声がかかる。そして、『こんな風に倭穏ワシズの踊りを眺められたのは、久し振りだ』と笑った。

 俺も、と瑠既リュウキが返す。

「イイ女だろ、俺の愛娘は」

「ああ」

 間髪無しの返答に、ヨシがニヤニヤとして瑠既リュウキを小突く。

『ん?』と瑠既リュウキが目を丸くすれば、ヨシは満足そうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ