遠い国の憧れの人
【7】儚い美形(2) で沙稀が羅凍と初めて会ったときのことを振り返っているシーンがありますが、ふたりが話す前~話すときの話です。
羅凍視点、イベントのテーマ「あこがれ」で書いた短編です。
【ジャンル】異世界ファンタジー
【タグ】あこがれ 憧れ 剣士 友情の始まり 出会い キッカケ
旧友との久しぶりの再会を果たし、談笑していたときだ。その旧友の父が、来客を連れていると視線が動き──目を疑った。
日を浴びている紫のリラの花のような、鮮やかな色彩に息をのんだ。視線の先にいる人物は少年であるはずなのに、どこか中性的にも見える顔立ちと、長く垂れた前髪から覗く瞳の美しさに、声を失う。
ゆるく束ねられている髪は、腰まであると聞く。出で立ちを見れば、身分を示すように右の腰には長剣がしっかりと身につけられている。
憧れて、剣術を学んでみようと思ったキッカケの人物で間違いない。
旧友の父の声がうっかり流れていったが、記憶を巻き戻す限り──最高位の姫と、姫の補佐のような人物、そして、意識を奪われた姫の護衛の紹介をしていたようだった。
我に戻ったころには四人の姿は遠ざかっていて、
「いやぁ、沙稀様にここで会えるとは思わなかった」
と、旧友に照れるように話した。
ただ、よく考えたら会える確率は高かったわけだ。
ここは旧友の生家の、世界で唯一の研究所。旧友の父はここの君主で、今回は旧友を次期君主として披露する機会だ。
各国の有力者の子息と息女を初め、将来有望な者たちが招待を受け、今日から約一ヶ月間の勉強会が開催される。
彼の存在は、遠い存在だった。
知ったのは二年前。彼はたった十四歳で剣士の頂点に立った。
彼の住む国は、遠い世界だった。
物心ついたころには内戦の話題ばかりが耳に入ってきた国。実際に行くとしても船を乗り継いで、それこそ丸一日以上かかる国だ。
だから、余計に『遠い国の話』だった。
それが変わったのが、二年前。
彼が剣士の頂点に立って、遠い国の内戦は終わった。この二年間平和が続き、それは『彼がいる限り継続される』とまことしやかに言われている。
ただし、言霊は真実になると──あらゆる解釈があるにせよ──信じている。今や、彼に憧れて剣を手に取り、剣士になる者も多い。
そんなその他大勢のひとりであるから、折角の機会を逃すわけにはいかないと決意する。
ここには剣士のための稽古場はない。だが、周囲は森。訓練をひとりでするなら、ちょうどいい場所かもしれないと、夕食後に出入り口のホールで賭けに出る。
しばらく心を無にし、それでも心が折れそうになり、何とか内なる格闘をしていたころ、ハッと息をのんだ。
スッと背筋が伸び、いつの間にか目が捉えた人物に向かって歩いていた。
「あの! ここにいる間に、一度……手合わせをお願いできませんか」
向かい合うと想像以上に身長差があり、線が細い。
思わず前屈みになっていたと、姿勢を正す。
「剣士として憧れなので」
間を繋ぐように言うと、
「羅凍様?」
と、名を呼ばれた。
旧友の父が彼らの紹介をしてくれたときも、今も、自ら名乗っていないと気づき、慌てて返事をする。
「あ……はい! いや、あの! ……敬語はなしで!」
『こっちがお願いしている身なので』と続ければ、
「じゃあ……ちょうど外に場所を借りたので……あ。えと……どう?」
と、変声期特有の揺れが多少混ざる声で沙稀は誘ってくれた。
それには思わず、
「ありがとうございます!」
と、満面の笑みがこぼれた。




