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「女神回収プログラム」スピンオフ ~知らなくていいこともある。めくるのは禁断の扉……かもしれない~  作者: 呂兎来 弥欷助
還【43】~【52】くらいの設定での話

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晴れた空、雨が降る

第一部【12】疑心 にて登場するサブキャラ、充忠(ミナル)を主体とした一人称。

第二部【前半】 還【52】以降の話となっています。


「手紙」というお題で『いつまでも、親友や大切な人とは、心の中で話せる』と書いた短編です。


原文は本編でした。改稿の際に本編では削除となった話を、短編用に変えたもの……でしたが、今回の改稿で少し使用したと思います。


【ジャンル】その他文芸

【タグ】男性主人公、友情、シリアス、親友

 忒畝(トクセ)、お前の言葉の多くが、今でも俺の心の中に残っている。



 花は散った。

 あんなに咲き乱れていたのに、今となってはその面影すらない。

 花を咲かせていた木々はとてもきれいだった。けれど、こんなにも変わるものなのか。

 この年になって、ようやく俺はそう思ったんだ。


 そういえば、この時期だ。

 お前が物寂しそうだったのは。あのときのお前は、こんな感情を抱いていたのか?

 父親の死を受け入れられないで、無理に受け入れようとして。

 苦しくて辛くて、悲しかったのに、風景までもがさみしくて。

 まるで、ひとりでぽつんといるような錯覚にでも陥っていたのか?



 花々が散ったあの日。俺は、窓の前で景色を眺めているお前を見かけた。

 あれは、生前の悠畝(ヒサセ)前君主がよく眺めていた窓だったな。


 ”どうしたんだよ”俺はなにげなく声をかけた。

 すると、お前は無言のまま振り向いた。あのときのお前は、今にも瞳を涙で埋めてしまいそうで、俺は言葉を詰まらせたよ。

 ”父親の葬儀の前も後も泣かずに、取り乱しもしなかったこの男が”って。

 ”こんな忒畝(トクセ)だと気づいていたなら、きっと俺は声なんかかけなかったのに”って後悔もしたさ。


 お前はそんな俺から一度、目をそらしてさ。俺の気持ちを見抜いているみたいに苦笑いを浮かべた。

 すこしの間を笑いで埋めたら、俺を見てこう言ったな。


 ”どうかしてるように、見えたの?”


 敢えて、こう言っただろ。

 わかっていたはずだ、俺の気持ちなんか。

 手に取るくらいに。


 俺は言葉を探すのに、時間が必要だった。


 ”いや。ただ……無理すんなよ、なんて言葉。俺は今更言えねぇよ”


 無理しないと、この場にいられない。そんな奴だ、お前は。そんなのはわかっていた。

 誰かに気を許して甘えるような奴じゃない。

 こいつは。言えるわけがない。

 そう、思っていた。それなのに。


 ”そうだね”


 それなのに、お前はまた苦笑いをして。

 涙をためそうなまま、言ったんだ。


 ”ありがとう。大丈夫だよ”

 ”どうもしてない”


 今度は静かにうなずいて。

 いつも通りに笑ってみせた。

 そして、その場にひとり俺を置いて。お前は長い廊下を歩いていったな。

 お前の表情を忘れられない俺を、ひとり残して。



 お前の父、悠畝(ヒサセ)前君主は、あたたかい春を迎えたころに亡くなられた。

 春のお生まれだったからか、春の温かい雰囲気がとても似合う人だった。

 おだやかであたたかくて……実に和やかな、やわらかい人。やさしく笑う笑顔は、俺には儚いものに映っていた。


 でも、忒畝(トクセ)にはそうは映っていなかったのかもしれないな。

 ”強い人で憧れそのものだ”と、よく言っていたのを覚えているよ。


 悠畝(ヒサセ)前君主が亡くなられてからも、忒畝(トクセ)、お前は気丈だった。弱音のひとつも吐かないで、涙のひとつも落とさなかった。


 何ひとつ変わらないお前に、俺は内心、安心していたんだ。

 だけど、本当は違ったんだよな。

 亡くなったことを心で否定して、安定させていただけだったろ?


 だから、亡くなられた日もその後も。

 なにひとつ変わらずにお前はいたんだ。



 どうして気づいてやれなかったんだろう。


 いや、俺は見て見ぬふりをしていたんだ。

 それを、あのとき。廊下でひとり残ったあのときに痛感させられた。




 あれから何年か経った、花々が舞う青天の日。

 お前を迎えに行ったことがあったな。

 心配する俺を見て、お前はこっちの気持ちも知らないで笑った。


 ”晴れた日はね、父さんとの色々な思い出があったんだ”

 いつもの落ち着いた、けれど高音の明るく弾む声。

 心地いい風を体に受けて、お前は言った。



 ”だけど……もう、晴れた空が嫌いになってしまいそうだ”


 ぽつりと。瞳を潤ませて、今にも消えてしまいそうに。



 ”いっそのこと、雨が降ってくれればいいのに。僕が涙を落とさないでいられるように”




 あのときの俺は、お前に何を言った?




 今、雨が降っているよ。


 忒畝(トクセ)、これでお前は満足か。

 今、お前は満足か。

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