桜色の雪② 告白
年に二回食べる大きなケーキ。
俺の誕生日と、クリスマス。
いつもにも増して豪華で──何だか特別だと思っていた、この日。
ケーキを食べ終わった彼女は、俺にある告白をした。
「充忠はね、神様から私への……クリスマスプレゼントだったのよ」
不思議な彼女の言葉に、フォークを持っていた俺の手は止まった。
「二年前の今日、充忠が私の息子になってくれたの。充忠はね、別の所で私を待っていてくれたの」
彼女は笑顔だった。
けれど、涙が溢れていた。
俺はすぐに笑い返せなかった。
彼女の息子だと信じ、疑ったことなんてなかったのに──彼女は俺を、本当の息子ではないと言ったのだから。
俺がどう彼女に返したかは覚えていない。
けれど、多分。
彼女を傷付けることは言わなかった。
彼女を母親として好きだったからという気持ちもあっただろう。だけど、彼女を失えば、居場所はなくなる。もしかしたら、その不安の方が強かったのかもしれない。
彼女の涙は、神への感謝だったのか。
それとも、俺に拒絶されるかもしれないという不安だったのか。
今、思えば――。
彼女は、俺が理解できるようになるのを、待っていたようにも思う。
「お母さん、俺……どこにいたの?」
聞きたい、知りたいと思うことが増え、ついにそう聞いたとき──彼女は悲しそうな表情を浮かべた。そして、
「施設よ。充忠はね、施設に保護されて……そこにいたの」
とだけ言った。まるで、それ以上の質問は受け付けないように。
それでも、俺は目を逸らす彼女に食らい付いた。
「『保護』? 保護されてって……どうして? 両親は? 俺の本当の親は……」
彼女を揺さぶった。彼女の涙が俺に落ちた。俺の言葉も行動も、止まってしまった。
単に自分のことを知りたいと思う気持ちが、彼女を苦しめていると伝わってきて。
違うのに。
違うとも言えずに、言葉の変わりに涙が溢れた。
「ごめんね。……でも、充忠は、私が守るから」
彼女は膝を床に付け、俺を抱き締めた。強く。
昔から何度も彼女は、俺にこうして同じ言葉を言っていた。強く抱き締めながら。それを母親の愛情の言葉だと、俺はずっと思っていた。
でも、このとき。
彼女の言動の真意は別のところにあったと、七歳になったばかりの俺は気が付いた。
彼女が俺を引き取ると決めたときは、本当に『神様から私への、クリスマスプレゼント』だと思ったのだろう。
ただ、引き取ると決まり、俺の素性を知ったときは──違う感情が芽生えたのかもしれない。
それがきっと、『私が守るから』だったんだ。
その為にも彼女は、俺の母親になろうと必死になってくれていたのだろう。
そんな想いも知らずに。
俺は彼女に恋をした。
いや、恋と呼んでいいものかもわからない。
ただ、俺のせいで彼女を苦しめるのが嫌で。
自立したいと願って。
ガキなのに、彼女を幸せにしたいとか、楽にしたいとか思って。
彼女の前で一人の男になりたいと意識するようになって。
酷いことをした。
俺は、彼女を「お母さん」と呼ばなくなった。




