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「女神回収プログラム」短編集  作者: 呂兎来 弥欷助
第二部【前半】 再認と期待【9】~【16】くらいの設定での話

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20/27

桜色の雪② 告白

 年に二回食べる大きなケーキ。

 俺の誕生日と、クリスマス。


 いつもにも増して豪華で──何だか特別だと思っていた、この日。


 ケーキを食べ終わった彼女は、俺にある告白をした。

充忠ミナルはね、神様から私への……クリスマスプレゼントだったのよ」

 不思議な彼女の言葉に、フォークを持っていた俺の手は止まった。

「二年前の今日、充忠ミナルが私の息子になってくれたの。充忠ミナルはね、別の所で私を待っていてくれたの」

 彼女は笑顔だった。


 けれど、涙が溢れていた。


 俺はすぐに笑い返せなかった。

 彼女の息子だと信じ、疑ったことなんてなかったのに──彼女は俺を、本当の息子ではないと言ったのだから。




 俺がどう彼女に返したかは覚えていない。

 けれど、多分。

 彼女を傷付けることは言わなかった。

 彼女を母親として好きだったからという気持ちもあっただろう。だけど、彼女を失えば、居場所はなくなる。もしかしたら、その不安の方が強かったのかもしれない。


 彼女の涙は、神への感謝だったのか。

 それとも、俺に拒絶されるかもしれないという不安だったのか。

 今、思えば――。


 彼女は、俺が理解できるようになるのを、待っていたようにも思う。




「お母さん、俺……どこにいたの?」

 聞きたい、知りたいと思うことが増え、ついにそう聞いたとき──彼女は悲しそうな表情を浮かべた。そして、

「施設よ。充忠ミナルはね、施設に保護されて……そこにいたの」

 とだけ言った。まるで、それ以上の質問は受け付けないように。


 それでも、俺は目を逸らす彼女に食らい付いた。

「『保護』? 保護されてって……どうして? 両親は? 俺の本当の親は……」

 彼女を揺さぶった。彼女の涙が俺に落ちた。俺の言葉も行動も、止まってしまった。

 単に自分のことを知りたいと思う気持ちが、彼女を苦しめていると伝わってきて。

 違うのに。

 違うとも言えずに、言葉の変わりに涙が溢れた。


「ごめんね。……でも、充忠ミナルは、私が守るから」

 彼女は膝を床に付け、俺を抱き締めた。強く。


 昔から何度も彼女は、俺にこうして同じ言葉を言っていた。強く抱き締めながら。それを母親の愛情の言葉だと、俺はずっと思っていた。


 でも、このとき。


 彼女の言動の真意は別のところにあったと、七歳になったばかりの俺は気が付いた。


 彼女が俺を引き取ると決めたときは、本当に『神様から私への、クリスマスプレゼント』だと思ったのだろう。


 ただ、引き取ると決まり、俺の素性を知ったときは──違う感情が芽生えたのかもしれない。


 それがきっと、『私が守るから』だったんだ。

 その為にも彼女は、俺の母親になろうと必死になってくれていたのだろう。




 そんな想いも知らずに。


 俺は彼女に恋をした。


 いや、恋と呼んでいいものかもわからない。

 ただ、俺のせいで彼女を苦しめるのが嫌で。

 自立したいと願って。

 ガキなのに、彼女を幸せにしたいとか、楽にしたいとか思って。


 彼女の前で一人の男になりたいと意識するようになって。


 酷いことをした。


 俺は、彼女を「お母さん」と呼ばなくなった。

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