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「女神回収プログラム」短編集  作者: 呂兎来 弥欷助
第二部【前半】 再認と期待【9】~【16】くらいの設定での話

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桜色の雪① 二回目のクリスマス

『桜色の雪』は充忠ミナルの一人称です。

 本編で書けなかった養母、望緑ミズカとの話。


充忠ミナルは三歳の時に望緑ミズカに施設から引き取られています)


 全4話です。

 覚えているのは白い息。

 雲のような。

 それと、雑音に聞こえる賑やかすぎる人々の声や足音。


 流れるのは煌びやかな音楽。


「お家に帰ったら、ケーキ食べようね」

 寒さも雑踏も、忘れてしまうくらいの弾んだ声とやわらかな笑顔。

「うん!」


 俺の世界は、彼女だけでできていた。




 あれは、五歳の冬。


 今にも雪が降りそうなくらいに寒くて、窓にはちいさな水滴がたくさん付いていた。

 曇った硝子越しに、外の景色をなぜか必死に見ようとしていたのを覚えている。


 ふと降ってきた、やさしく弾む声。

「ほら、お帽子被って行こう」


 振り向くと、楽しそうに笑う彼女がいた。


 当時の俺には当たり前で。でも、彼女のやさしい笑みを見ると安心して──そうだ、あのときはまだ、あの幸せを『当たり前』だと思っていた。


「寒くない?」

 耳に触れた指があたたかくて、うれしくて。


 出かける準備を終え、マフラーと厚手の上着を着ていた俺はいささか暑いくらいだったと思う。

「うん。寒くないよ、お母さん」


 まだ、何も知らなかった。彼女を『お母さん』と呼び、そう信じていた。


 俺の声に、彼女はうれしそうに笑った。だから、俺も笑った。


 彼女の手が、俺のちいさな手を握る。

「じゃ、行こっか」

「うん」


 どこからどう見ても、親子と呼ぶには彼女は幼い。


 当時、彼女は十八歳。

 独身。


 それなのに、彼女は俺の『母』でいた。


 俺たちが住んでいた町は、ちいさな町だ。

 それでも、すれ違いざまに何人もの人たちが振り返り俺たちを見た。

 中には立ち止ってしばらく見る人たちもいた。


 幼い俺には、その理由がわからなかった。


 彼女が自慢の母親だった俺は、

「お母さんがきれいだから、みんな振り返っちゃうんだね」

 と思っていたし、度々そう言った。それを彼女は、

充忠ミナルがかわいいからよ」

 と笑って言って退ける。更に続けて、

「だから誘拐されないか、いつもお母さんは心配よ? ね。手を離さないでね」

 とも、言っていた。


「わぁ、雪が降ってきた!」

 空を見上げた彼女が歓喜の声を上げる。

「ケーキも買ったし、早くお家に帰ろうね」


 数年前にも雪は降ったのだと言う。


 けれど、俺はこの日に初めて雪を見て、雪を知った。


 彼女の短い桜色の髪の毛が揺れる。

 急ぎ足になった彼女の後ろ髪を見つめて、俺は駆け足になっていた。




 雪が、徐々に視界に多く入ってきて。


 いつの間にか彼女の背中は、降りしきる雪に囲まれていた。


 不思議と、彼女を雪のように思った。


 左手に雪が触れた。


 雪はすぐに溶けて、消えていった。


 右手には彼女の手の温もりが、消えることなく続いていた。

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