★IF★第一部 【78】告白
「このふたりが結ばれる未来が読みたい」
というお言葉を数年前にいただき、書こうと思っていたIF編です。
※IF編は本編からの分岐ですので、
『こんな世界線もあったのか……』
くらいでお読みいただけましたら幸いです。
(あくまでも本編とは別ルートでの話です)
第一部 【78】告白 の途中から分岐しますので、話がスムーズにわかるよう一部を転記し、『本編はここまで。以降、IFです』と途中で注釈が入ります。
「だって、私は……」
動きを止めた指がティースプーンを強く握る。
「わかってるでしょ? 私の想っている人」
「過去に想っていた人、なら知っているよ」
間髪入れずに返した言葉。慰めるような声のトーンだったにも関わらず、馨民は伏せていた視線を忒畝に向けてきた。
「今も、変わってないよ」
「やめた方がいいと思う」
どちらも一歩も引かないと言わんばかりの強い口調。
忒畝は咄嗟に視線を逸らす。すると、悲しそうな馨民の声が聞こえてきた。
「何で、そんな言い方……するの?」
泣いてしまいそうな馨民の声に、忒畝はズキリと心を痛める。温和な空気を保っていたのに、一瞬で壊してしまったことへの後悔だ。
忒畝は反省から、再び口調をやさしいものへと改める。
「馨民が幸せになれないと思うから。理由は僕がよくわかっている」
「自分自身……だから?」
確認したくなかったことを『やっぱり』と受け止め、忒畝は馨民を視界に映す。
「そうだね。僕では馨民を幸せにできない。馨民の……未来に見ている望みを、知っているから」
忒畝は困っていた。表情に困惑を浮かべてしまっていることに。けれど、他の表情にすることもできなくて。
それなのに、馨民がジッと忒畝を見ている。
表情を変えられないなら、回る頭を駆使して、何か言葉を続けなくてはならない。
「僕と同じでしょ? 『幸せな家庭』、『幸せな家族』」
意識をして笑ってみたが、忒畝の表情にはやはり無理がある。馨民を悲しませないように、誤解を生まないようにしたいと必死なのだろう。何せ、どう話そうかと思って帰ってきた内容を、今なら言えそうなのだから。
「築けないんだ、僕には。望みを捨てるのは、僕だけでいい。大切な子を道連れにしたくはない」
馨民とっては、思いもかけない言葉だったのか。目を大きく開きつつ、まばたきを繰り返す。
「え……どういうこと?」
※本編はここまで。以降、IFです。
そう呟いた瞬間、馨民は表情を一変させた。
ふと、馨民は、忒畝が驚くことを言う。
「私、確かに……『幸せな家庭』、『幸せな家族』には憧れる。でもね、『お母さんになりたい』よりも、まず『忒畝の奥さんになりたい』なの」
ここまで言って、馨民はハッとしたのか──忒畝から視線を逸らし、またうつむく。
「確かにね、『お母さんになれたら』うれしい。けど、それが絶対の条件じゃない。だって、結婚したからって『子宝が絶対だ』なんて、言い切れる? 世の中には、子宝に恵まれない夫婦だっている。……私の、憧れは、まず先に『忒畝の』。その次は……あれば、いいなとは思うけど。でも、忒畝がいてくれるなら、私!」
必死になった馨民は前のめりになったと咄嗟にブレーキをかける。
浮き沈みの激しい馨民を前に、忒畝は動揺した。
「ごめん、でも僕は生きられる子ができないだけじゃなくて……その、もう多分、十年も生きられないから……」
「じゃあ、その十年で! 私がその先もずっとさみしい思いをしないでいいくらい、私を愛して!」
「いいの? 本当に……」
戸惑いながら忒畝が言葉にすると、
「そんなの……うれしいだけ。忒畝の貴重な一秒が、私との時間になるなんて……」
と、馨民はうれしさを噛み締めるように言った。
両手を重ねる馨民に、そっと忒畝は手を重ねる。それは、心配するような、確認をするような──やさしさも不安も混ざるものだった。
そうしてお互い照れながらポツポツと話し、落ち着きを取戻したところで馨民が意外なことを言う。
「昔ね、忒畝のお父さんに……『忒畝のことが好き?』って聞かれたことがあって」
「父さんが?」
こくりとうなずく。
「そのときね、『勝手な想像なんだけど』って、色々話してくれたの……」
「色々?」
忒畝が興味津々になって尋ねる。
「うん……」
馨民は、忒畝が君主代理になって少し経ったくらいだったと前置きして話し始める。
『羅凍くんとか、沙稀くんとかも来てくれて、あれは大成功に終わった。それからしばらくしたら落ち着いて、いや、忒畝にも少しは気持ちの余裕が出てきて……そうしたら、勝手にね。忒畝は馨民ちゃんに告白して、ふたりはうまくいくんじゃないかなって思ってたんだよ』
『それでね、勝手ついでに……忒畝は、もしかしたら出生のこととか、なんていうか、色々と気にしていて気持ちにブレーキをかけているんじゃないかなって思って。もし、馨民ちゃんが忒畝を好きでいてくれるなら……何て言うのかな。僕の勝手な想像に、力を貸してくれないかなと思ってさ』
おっとりとした口調で朗らかに時折笑みを浮かべる父を忒畝は思い浮かべていたが、胸が詰まりそうになった。
父は、想像以上に忒畝をよく見て、よく理解してくれていると改めて実感したから。
そんな中、馨民は更に続ける。
「だから、もし、忒畝がそういう話をしてくれるときがきたら、もう一度……それこそ、当たって砕けてみようかなって思っていたの」
馨民が照れて笑えば、忒畝もどこか照れたように笑って。更に馨民が照れる。
そんな馨民を見て、忒畝はふと頬に触れた。ドキリとして、馨民は目を見開く。
ジッと見つめていた忒畝は──にこりと笑い。
「ねぇ、じゃあさ……僕と、結婚してください」
息を呑んだ馨民は次第に涙目になって、忒畝は抱き寄せる。
「返事をちょうだい……って、僕は催促するよ?」
ボロボロと涙を落とす馨民はうなずくだけで精一杯だが、
「うん……うれしい。……おねがい、します」
と、なんとか返事をする。
忒畝はうれしそうに馨民をなでた。
その後、馨民の母の釈来にあいさつに行くも、釈来はまるで自分がプロポーズをされたかのように真っ赤になって、
「きゃ~!」
と、悲鳴を上げて娘に抱きつく。
「忒畝くんは悠畝と違って、やっぱり『男』の子だわ!」
釈来はよくわからないことを言って、歓喜をした。
そうして、ふたりの結婚の話はトントン拍子に進み、日程も決まり、いよいよウエディングドレス選びとなった。
馨民は喜々として選び、もういくつ試着したことか。しかし、忒畝の表情はにこにこにこにことしていて、どのドレスも変化がないように思える。
ふと、馨民は不満を口にしてしまった。
「ねぇ……忒畝はどれがいいと思うの?」
「どれもいいと思うよ」
「それって……どれでもいいってこと?」
ついには表情にも不満が浮かぶ。
けれど、次の瞬間、馨民の表情は真っ赤に染まった。
「僕は最上級の妻を選んだんだよ? 馨民には、どんなドレスだって似合っているよ」




