これで、9回目
第一部【65】くらいの設定、貊羅視点です。
書き出し指定「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」のテーマのときに執筆した短編です。
【ジャンル】異世界ファンタジー
【タグ】一人称 継承 ひとり息子 失恋 自責 シリアス
あの夢を見たのは、これで9回目だった。数えるのをやめよう、やめようと思っていても、なぜか数えてしまう夢。
何となく、感じているのだ。
10回目のときは──と。
苦しさに溺れるような夢は、戒めのような気がしている。私は罪人だ。自身は両親から様々なものを享受しておきながら、両親が遺したこの城を愛することができなかった。
あの夢を見た日は、必ず思い出す。恐らく、苦しさが似ているからだ。
18歳になる直前に、両親は事故で突然逝去した。
「貊羅様、ご結婚を」
女官長は悲しみに暮れる私に、そう現実を突きつけた。
両親は実に色んなことに寛容だった。両親もまだ若かったからかもしれない。私も城の継承は、まだまだ先のことだと──いつかの未来だと、どこか他人事だったのだ。
女官長の判断は、正しかっただろう。懸命な判断だっただろう。自由奔放な城のひとり息子に、しっかりと自覚を持たせなくてはと、現実を突きつけるのは。
けれど、甘えて育った私には、すべてを一気には抱えきれなかったのだ。受け止めきれなかったのだ。
身分を忘れられる恋人に──身分を隠していた恋人に、駆け落ちを迫った。彼女はひどく驚き、
「国を捨てるような人とは、一緒になれません」
と私を叱咤した。そうして、
「あなたは、きちんとした役割を持っている人です。戻って『王』になってください」
と、私を突き放した。
両親を失った悲しみと、恋人を失った悲しみに、私は心も失ったのだろう。城に戻った私は、女官長に結婚の条件をひとつだけ出した。
「『さくら』という名の方となら、結婚をする」
あの夢で苦しむ度に思い出す。
だから、数えるのをやめられない。
両親が健在していたときは幸せだったのにと、お門違いな思いを持っていたと気づかされたのだ。
裕福な家庭で、ぬくぬくと温室育ちだったのだと、思い知らされたのだ。
両親の愛した城を、注いでくれた愛を、蔑ろにしてきたのだと打ちのめされる。
苦しみにもがき、溺れるようなあの夢は、私の罪悪感なのかもしれない。だが、それで両親にも、私がしてきたことにも報いられるのであれば、この生を差し出すことに迷いはない。
私は待っているのかもしれない。
10回目の、そのときを。




