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「女神回収プログラム」短編集  作者: 呂兎来 弥欷助
招かざる者【19】~【28】くらいの設定での話

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マイナス5℃のビター

【23】恋人(2) より前の話から、【23】恋人(2)のラストに繋がる話です。

 倭穏ワシズの一人称。


 ネタバレというより、本編の内容を深く知れるという話になっていると思います。


 いつか書こうと思ってメモしていた話をこの機会に書きました。


【ジャンル】恋愛

【タグ】片想い 両想い 火遊び チョコ R15

 例えるなら、彼はマイナス5℃のビターチョコだ。

 とろけるようなキスは濃厚で、でも甘くない。

 彼に抱かれると冷たく、ほろ苦い味がする。

 ほころぶように溶けていく彼は消えてしまいそう。甘いはずの吐息は苦しそうで、その瞳はガラスのようで。愛していると囁かれても、ちっとも耳に入ってこない。


 だから、私が抱く。

 焦げつくまで駆られた熱い想いをまぶすように注ぐ。焼かれた痛みを叫ぶような彼の声を聞いて、想いは満たされていく。


 ひんやりした彼と、燃え盛る私が混じると、焦げた臭いがする。


 こんな男、他にはいない。



 私は悪い癖がある。

 たまに甘いだけの香りに包まれたくなる。そういうときは、そういう男に抱かれる。

「買い物? 私、行ってくる」

 こうやって適当な口実を得て、堂々と仕事をさぼる。

「あんま遅くなるなよ、倭穏ワシズ

 彼の見透かすような厳しい声に『はーい』と良い子の返事をして、私は悪事をしに外へと出る。




 ベッドで寝るのは、彼だけと決めている。

 火遊びはアブナイ方がイイ。

 人目につかないせまいところに挟まって、欲だけを流していく。

 たまらなく甘く、一気に溶ける。これでいい。十分、二十分で流してしまえるくらいがちょうどいい。

 腰を押さえるこの男は、それだけの男だ。

倭穏ワシズちゃん、今度は……ランチでも、行こう」

 懸命に腰を振り、つまらないことを言う。

 あーあ。

 こんなときは、ただ甘い言葉だけを吐いていればいいのに。

「そ……うね」

 お手軽で都合がよかったのに、残念。この男はそろそろ潮時だ。


 この男に、私の心を触れさせる気はない。




 満足しそうだったのに急に冷めてしまって、うわべだけの褒め言葉を並べて『また今度』と嘘をつく。


 次に会っても、二度と目を合わせなければいい。

 恨まれて囲まれて、回されても、好きにさせればいいだけだ。


『こんな女』と、かんたんに諦めてくれるだろう。




 仕事に戻る前に、きちんと口実をこなしてから戻る。

 ここは、早足で。一応、悪いことをしている自覚はあるから。私なりの、せめてもの誠意。


「遅かったじゃん」

 家に戻るなり、目についた彼に声をかけられる。私は、しらばっくれて手にしていた物をカウンターに置く。

「そう?」

 こういうとき決まって彼はカウンターにいる。そうして、いつも機嫌が少し悪い。


 きっと、彼は()()()()()()()()()を知っている。


 こういう日の夜は、必ず私を独占する。甘い言葉も、責める言葉も言わないで。ただまっすぐに、私を見つめて体中に唇を落とす。


 こんな男、惚れない女なんていない。




 彼とは、ずっと一緒にいられるなんて思ってなかった。

 いつかはいなくなると思ってた。


 なのに、なんで──私は彼を追ってしまったのだろう。


 どうして、呼び止めてしまったんだろう。


 ──どうして、そんなことに、今まで気づかなかったのか。

 後悔したときには、もう遅くて。


 ずっと私は、彼に捨てられるのが怖かったんだと知った。




「あたし、船降りたらすぐ帰ってもいいよ」

 強がるしかできない。

「だって、連れてきたくなかったんでしょ」

 思い出に残れるような、かわいい一言さえも言えない。


 それなのに、

「余計な心配をするからな、お前は」

 こんな大人なことを言うなんて、狡すぎる。期待をしてしまうじゃない。




 縁のないと思っていた土地に着いて、近づくこともないと思っていた場所に辿り着いて。

 最悪だった。

 こんなこと、非現実的すぎる。


『貴男を一生の思い出にする』と宣言したのに、彼はまったく気づいていないようだった。

 呼吸がしにくいくらいのストレスに潰されそうに私はなったのに、彼はいつもの調子で冗談ばかり言う。


 けれど──。


「俺の恋人」

 私のことをそう言う姿は、とても誠実に思えた。

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