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じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~  作者: 木ノ花 
Sec.6

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198/201

第197話

 夏のインターハイ――全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会・東京2次トーナメント、決勝戦がついにキックオフ。


 栄成と東帝。互いのユニフォームの背で揺れる番号を見るに、ややメンバーを落としてのスタートとなった。両チームとも本戦出場が確定していることに加え、怪我や疲労の影響に違いない。


 好プレーへの期待に胸を膨らませながら、僕はベンチから序盤の展開を見守る。特にスタメンを飾った玲音と拓海くんのプレーに注目だ。もちろん蓮くんにも。


 最初にボールを蹴ったのは栄成。セオリーどおりにいったん後方へパスを送り、わずかにタメを作ってから前線へ押し上がる味方めがけてロングフィードが放たれた。


 このいつも通りのプレーが、試合立ち上がりの混戦の合図となる。

 ターゲットとマーカーがヘディングで競い、ルーズボールを巡って青とカナリアイエローのユニフォームが交錯する。


 互いに激しいプレスを仕掛け、ボールは忙しなく両陣営を行き交う。少しでも優位なポジションに立つべく体をぶつけ合い、芝を削る音がベンチまで響いてきた。

 選手が気合の入った声で指示を飛ばし、白熱のプレーにどよめく観客。


 僕は本当にアホだ。互いにインターハイ出場が確定している現状、どこか消化試合のような控えめな展開となるのでは……なんて心配していた。しかし監督や選手、誰一人として手を抜く気配はない。


 そもそも、3年生の先輩たちにとっては高校最後の夏なのだ。汗だくになって積み上げてきたサッカーライフの集大成一歩手前。考えの甘い選手が立てるほど、このピッチは甘くない。


 しばらくして先にリズムを掴んだ東帝が、この試合最初のチャンスを迎える。

 前半7分。中盤の激しい奪い合いを制し、相手のMFが強引に前を向く。そのままバイタルへボールを運び、迷いなく右足を振り抜く。


 栄成ゴールを襲う強烈なミドルシュート。こちらのGK、高身長かつ厳つい顔が特徴の石黒先輩もすかさず反応して横っ飛びするも、僅かに届かず。


 直後、カンッと。

 ボールは左ポストを強かに叩き、枠の外へと逸れていく。


 落胆する東帝、安堵する栄成。双方の歓声が入り混じってうねりを上げた。

 そしてこの一発が、序盤の流れを決定づける。


 得点にこそ至らなかったものの、先ほどのファーストシュートで勢いづく東帝の選手たち。顔を上げて周囲を見渡す冷静さが生まれ、ボールを持てば効果的なパスの出しどころを探る。間を置かず、ピッチを広く使ったダイナミックなサッカーを展開し始めた。


 この攻勢の前に栄成は後手に回らざるを得ず、各所のマッチアップで不利に立つ場面が増えた。


「……東帝に流れを持っていかれたな」


 聞こえてきた豊原監督の呟きに、僕は思わず頷く。

 先ほどのプレーで、スタンドの空気ごとペースを握られてしまった。とはいえ、まだ序盤も序盤。致命的でもなんでもない。


 自分がピッチに立っていたら、どうプレーしたら相手が嫌がるか。まだ少し張りのある太腿をモミモミしながら、脳内でシミュレーションを繰り返す。


 しかし、勢いそのままに東帝が試合を動かす――迎えた前半18分。

 キャプテンマークを巻く相手CBが、中央のスペースに楔の縦パスを差し込んだ。それを受けたMFが、栄成のディフェンスを背負いながらもくるりと反転。


 相手は巧みにマーカーと入れ替わるや否や、続けざまに右サイドの深い位置へボールを展開した。さらに僅かなドリブルを経て、ピッチをえぐるようなグラウンダークロスが供給される。


 これに合わせたのは、ゴール前へ鋭く走り込んできた東帝の長身FW。

 こちらのディフェンス陣より体半分だけ先んじて滑り込み、投げ出された右足がボールを捉える――だが、必死に手を伸ばした栄成の守護神がこれを跳ね返す。


 わあ、と弾けるように歓声が上がる。

 しかし、プレーはまだ途切れない。


 リフレクションからのセカンドボールは、やや遅れて詰めてきていた東帝MFの足元へ。間髪入れず左足が振り抜かれ、至近距離からのシュートがゴールネットを大きく揺らす。


 栄成にとってはアンラッキーな形ながらも、電光掲示板の数字は『栄成0―1東帝』へと変化する。


 気迫のこもったゴールパフォーマンスに沸く、カナリアイエローの東帝陣営。

 ついに先制を許す栄成。しかも相手は、エースたる蓮くんをベンチに置いたまま。名門と呼ばれるチームの総合力の高さを改めて思い知らされた。


「切り替えろ! まだ時間はたっぷりあるぞ!」


 立ち上がり、テクニカルエリアから指示を飛ばす永瀬コーチ。その声に焦りはない。

 相手が歓喜に湧く間、栄成のイレブンもすかさず円陣を組んで修正点を共有する。主将の堀先輩が大きく手を叩き、チームメイトを鼓舞していた。


 ここから、試合はさらに熱を増していく。

 栄成は同点に追いつくべく、持ち前のポジショナルプレーを駆使して縦への推進力を強め、反撃の糸口を探る。


 この姿勢が奏功し、前半20分にチャンスが訪れる。

 拓海くんの魂のスライディングが炸裂。こぼれたボールを拾った堀先輩が即座に細かい連携から抜け出し、裏を狙う右サイドへ放り込む。


 曇天に弧を描くロングパス。

 オフサイドはなし。


 マーカーをぶっちぎってライン際を疾走する栄成の右SH、福田義明先輩は上手くトラップしてボールを収め、タイミングを合わせて折り返しのクロスを放り込む。


 ターゲットは、ペナルティボックス中央で待っていたCFの山岸恭吾先輩。ディフェンダーに体を預けながら、打点の高いヘディングでこれに合わせる。が、ボールは惜しくもポストの上を越えていった。


 その直後には、東帝のアバウトなアーリークロスから危ない場面を作られたが、最後は玲音が体を張って見事に凌ぐ。しかもリスタートは、こちらのゴールキックから。


「どっ、せえぇぃいいいい――ッ!」


「ナイス玲音! 今のはデカい!」


 チームを救った玲音の咆哮に、僕たちベンチも総立ちで声援を送る。

 まさに一進一退。互いに決定機を作るも、あと一歩の展開が続く。スタンドからのチャントは俄然声量を増し、会場の熱狂はますます高まるばかり。


 気づけば、手の平にじっとりと汗をかいていた。

 激戦区である東京エリアの決勝戦に相応しいハイレベルの攻防。選手たちも躍動し、どこか楽しげ。互いを高め合い、試合のボルテージを最高潮へと導いている。


 珍しく、自分がベンチに座っているのをもどかしく感じる。試合に出たい……こんなにも強く思ったのはいつぶりだろう。


 そんな僕の心をさらにかき回すようなプレーが飛び出したのは、前半34分だった。

 ライン際の攻防に玲音が競り勝つ。そこからお得意の細かいパスワークで素早く縦に持ち上がり、新たに『#10』を背負う中村慶太郎先輩がボールを持って前を向く。


 同時に、CFの山岸先輩が裏へ抜け出そうとしており――アイコンタクトを経て、ピッチを切り裂くようなスルーパスが放たれた。


「慶太郎、ナイスッ!」


 思わず、といった様子で叫ぶ豊原監督。

 スペースへ走り込むのは、もちろん山岸先輩。マーカーよりも体ひとつ分だけ早くボールに触れ、ドリブルへ移行。


 そのまま敵陣深くに侵入する――しかし東帝ディフェンダーの対応が素晴らしく、正面のコースを塞がれてポケット(ニアゾーン)へ逃げるのが精一杯。


「――折り返せッ!」


 豊原監督が再び叫ぶ。

 この指示に反応したのか、山岸先輩は体を捻ってリターンを送る。


 これに合わせるのは、先ほどパスを出した中村先輩。大声でパスを要求しながら、怒涛の勢いでペナルティボックス内へ走り込む。


 だが、追いすがる複数のマークを振り切れずに潰されてしまう。ボールは足元を通過し、図らずもスルーするような形となった――否、狙い通りだったのかもしれない。


 山岸先輩、中村先輩が潰れ役となり、空いたスペースに栄成の『#8』が詰めていた。頼りになる我らが主将、堀謙心先輩だ。


 彼は一際丁寧にトラップし、絶妙な場所へボールを置く。

 矢継ぎ早に、右足を振り抜き――ドカン。


 弾丸のようなシュートが放たれ、ボールは東帝のゴールネットに深々と突き刺さった。

 フィニッシュまでの流れ、スピード、コース、どれも申し分無し。相手GKにとってはノーチャンスのゴラッソ!


「うおっしゃぁぁあああああああああ――!」


 堀先輩は栄成陣営の前で、ど派手なゴールセレブレーションとともに感情を爆発させる。

 僕たちも一斉にベンチを飛び出し、衝動のままに両拳を突き上げていた。


 押され気味の展開を打破する値千金の一撃が炸裂。

 大歓声がピッチへ降り注ぐ中、電光掲示板の数字が『栄成1―1東帝』へ変化する。


 リスタート後は東帝の猛攻を受けた。しかし栄成は全員がハードワークを繰り返し、死に物狂いで凌ぐ。


 やがて主審がホイッスルを吹き、白熱の前半が終了する。

 本当に面白い試合で、あっという間だった。ピッチから戻ってくる選手たちは汗だくながらもどこか満足げ。何より堂々としており、あまりにも格好が良すぎた。


 ロッカールームへ引き上げる列の端で、僕は蓮くんと肩を並べる。

 偶然のようで、自然とタイミングを合わせていたような気もする。


「兎和、後半な」


「うん、蓮くん。後半だね」


 声をかけてきた蓮くんの顔をチラリと伺えば、黒い瞳に不敵な光を宿して見えた。

 このまま終わるはずもない。この後、必ず動きがある――チリチリとした熱をうなじ辺りに感じながら、僕は視線を切る。

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


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― 新着の感想 ―
先発するエース的な展開も良いけど、途中から出る切り札的な展開も熱いですよね! 毎回ありがとうございます!
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