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じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~  作者: 木ノ花 
Sec.6

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195/201

第194話

 訪れた6月中旬の土曜の朝。

 梅雨の晴れ間が広がり、汗ばむ陽気となりそうです――ベッドの中でスマホをチェックすると、そんなウェザーニュースが寝ぼけ眼に飛び込んでくる。


 ルーティンと言うほど大げさでないが、僕はできる限り規則正しい生活を送るようにしている。


 少しだけ不器用なところがあるから、一度生活リズムが崩れると取り戻すのにけっこう苦労するのだ。そのため、自宅で過ごせるときは起床時間などを大きくズラさないよう気をつけている。


 それは、大事な試合がある日でも変わらない――そう。本日はついに、夏のインターハイ予選・東京2次トーナメント、準決勝が開催される。


 東京エリアは、本戦出場枠を2つ割り振られている。つまり、この試合に勝てば予選突破が確定するのだ。何を置いても勝ちにいく価値がある。


 ベッドから出たら母手作りの朝食を平らげ、手早くシャワーを浴びた。栄成サッカー部のジャージに着替えたら部屋に戻り、美月にプレゼントしてもらったフォームローラーなどを使用して軽く体をほぐす。合間にちょいちょい顔を出す妹の兎唯ういの相手をしながら、しばらくまったり過ごす。


 やがて、ピンポーンと。

 インターホンが鳴り、待ち人の到着を告げた。


 途端に階下がバタバタと騒がしくなる。きっと妹が真っ先に反応して、お出迎えすべく飛び出していったのだろう。なにせ、玄関先にいるのは敬愛するお姉さまなのだから。

 僕も早く顔を見たくて仕方なかったので、荷物を抱えて階段を滑るように下る。


「おはよう、兎和くん。コンディションはどう? 疲れはたまってない? 体に不調を感じる箇所はない?」


 玄関で妹にまとわりつかれている美月と目が合う。同時に労るような言葉をかけられ、体の芯に熱が通る。

 たった今、メンタルは最高潮へ。疲れも不調もまるで感じない。彼女の笑顔こそが、僕にとってのラストピース。


「おはよう、美月。コンディションは絶好調。疲労もだいぶ抜けた感じする」


「それならよかった。今日も怪我なく頑張りましょう」


 僕の返事を受け、より一層笑顔を輝かせる美月。

 本日は、夏を感じさせるカラーのパンツスタイルの私服に身を包んでいる。あまりに似合いすぎていて、いつもよりぐっと大人っぽさを感じさせた。


 そして「お姉さま、お姉さま!」とまとわりつく妹も、似たようなパンツスタイル……あれ、どこかへお出かけかな?


「何いってんの? 兎唯も一緒に観戦して、そのままお兄ちゃんの試合の応援してあげるんだから! また夜にアイス買ってきてよね!」


「あ、うん……でも、昨日も僕をコンビニまでパシったよな」


 美月の家の車で会場へ向かう予定だったのだが、妹も同行するようだ……なんとなくこうなる予感がしていた。2人っきりで観戦してデート気分、なんて世の中上手くはいかないのだ。まずもって涼香さんが一緒だし。


 とはいえ、家族に応援してもらえるのは素直に嬉しい。今の僕なら、昔みたいに落胆させるような心配も少ない……こうなってくると、見送りに顔を出してくれた2人のことが自然と気にかかってくる。


 だから、深く息を吸って振り返り。

 瞳と腹に力を込め、胸の中で大きく膨らんできた想いを背後に立つ両親へ伝える。


「父さん、母さん。僕、今サッカーがめちゃくちゃ楽しいんだ――もう少しだけ待ってて。きっと大切な試合に招待するから」


 ハッ、と。

 揃って息を呑み、驚いたような顔をする両親。

 それから、自分の心臓の鼓動がたっぷり5回ほど耳の奥で響くだけの間を置き――


「兎和、コーヒーだ。会場で美月ちゃんと一緒に飲みなさい」


 言って、父が持っていた保温ボトルを手渡してくれた。その両目は、嬉しそうに細められ……母も笑顔だが、小さく鼻をすするような音が聞こえた。

 堪らなく気恥ずかしくなってきた僕は、「ありがとう」と返事をしてすぐに背を向ける。


 タイミングよく挨拶に顔を出した涼香さんのおかげもあり、すんなり家の外へ出られた。するとついて来た美月が、意味ありげな様子で微笑みかけてくる。


 恥ずかしがる僕に気を使ってくれているのだ。それはそれで、逆にいたたまれない気持ちになるからスルーしたい……けれど彼女にも、これだけは伝えておかねば。


「美月、ありがとう」


「なぁに? 急にどうしちゃったの?」


「両親にあの言葉を伝えられたのは、ぜんぶ美月のおかげだから……言わなくてもわかってるだろうけど」


「わかっていたとしても、直接聞きたい言葉がたくさんあるのよ。ふふっ、本当によくできました! 100点ハナマルね!」


 普段通りの出発前のはずが、僕にとってはやたら忘れがたいひとときとなった。

 荷物を抱えて車に乗り込み、涼香さんの安全運転で会場へ向かう。飛び交う賑やかな会話に耳を傾けながら、僕は先ほどのやり取りの後味を噛み締める――夏本番にも劣らない熱い一日が、こうして始まる。


 ***


 本日の準決勝の舞台は、もはやお馴染みの駒沢オリンピック総合競技場の第二球技場。

 施設の駐車場で車を降りた瞬間から、第1試合で激突する東帝と星越のチャントが小さく聞こえてきていた。


 スタンドへ到着すると、その熱気は段違い。両陣営の勝利を願う声援の大きさに驚きながら、僕たち四人は端の方のベンチに腰を下ろす。


 正午前の陽光が注ぐ緑のピッチでは、選手たちが軽いアップで体を温めていた。

 試合開始はもう間もなく。予定ではもっと早く到着して蓮くんと鷲尾くんに挨拶するつもりだったけれど、道が混んでいてこの時間になってしまった。


 それでもギリギリ間に合ってよかった、と僕はホッと息を吐く――そのとき、背後から不意に声が飛んでくる。


「げぇっ、神園美月……アンタ本当に観戦に来たのね」


「あら、片桐彩香かたぎり・あやかさん。直接はお久しぶりね。SNSではしつこく絡んでくれて、どうもありがとう。今日は珍しくお一人? 騒がしい同級生たちは一緒じゃないのかしら?」


「相変わらず嫌味ったらしいわね……鷲尾が応援を断ったのよ。神園さんと兎和くんって友だちが観戦にくるかもしれないから、今回は遠慮してくれって。おかげで私は一人よ。それで、そっちの男子が兎和くん?」


 茶色の髪ときつめの顔つきが印象的なこの女子は、片桐彩香さんというらしい。

 美月が成城学院に通っていた頃の同級生で、SNSでも頻繁に交流があったはず。しかし聞いた話では、2人は昔から超絶不仲なのだとか。


 そんな彼女は、まじまじと僕を眺めながら小さく鼻を鳴らす。

 あ、この流れは……これまでの人生経験からディスられると判断し、反射的に身構えた。


「栄成のサッカー部で、関東大会の予選でも得点を取っていた選手よね。すごいプレーだったから、ハッキリ記憶に残ってる。ふーん……神園さんとお似合いね。男を見る目があったなんて意外だわ」


 ところが、飛んできた言葉はわりと好意的で……予想外にも程がある。

 僕が意外に思って目を丸くしていると、片桐さんはすっと美月の隣に腰を下ろした。その結果、涼香さん、兎唯、僕、美月、片桐さん、という並びになる。


「進んで私の隣に座るなんて……片桐さん、もしかして具合でも悪いの?」


「うるさいわね。神園さんのせいで一人なのよ。あ、そうだ。兎和くんに試合の解説でもしてもらっちゃおうかな」


「……彼もこの後に試合を控えているの。だから、余計な手間で疲れさせちゃダメよ。あと、友人ではないのだから名字で呼ぶべきじゃない?」


「細かい女。鷲尾の友だちなら、私とも友だちでいいでしょ」


 どんな理屈よ、と不満そうな表情を浮かべる美月。

 さっそく両者ともに若干トゲのある言葉を投げ合い始めた……が、どこか噛み合っていて小気味いい。これで超絶不仲だというのだから不思議だ。


「美月と片桐さんって、一周回ってもう仲良しだろ……」


『違う!』


 ほら、また息ぴったり。

 しかし横から揃ってジト目を向けられ、うっかり余計なことを口走ってしまった僕は小さく縮こまる。ひとまず妹と涼香さんを巻き込んで誤魔化そう。


 そうこうしていると選手入場やらのセレモニーが行われ、ホイッスルの音が響き渡った。

 夏のインターハイ予選・東京2次トーナメント、準決勝――第1試合、『東帝VS星越』がキックオフ。


 僕は即座に気持ちを切り替え、ピッチへ視線を向け直した。

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「わかっていたとしても、直接聞きたい言葉がたくさんあるのよ。ふふっ、本当によくできました! 100点ハナマルね!」 意味深に聞こえて良き
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