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黒瀬蓮の帰り道・SS

期間限定公開する予定のエピソードです。たぶん、なろうの方ではそのうち消すと思います。

「いやあ、マジで楽しかったー。招待してくれた玲音と兎和に感謝だな」


 栄成高校の文化祭を楽しんだ帰り道。

 上りの中央線に乗り込み、混み合う扉付近から車内の中腹に移動した。すると隣でつり革を掴む堤晴彦つつみ・はるひこが、噛みしめるみたいに話を振ってくる。


 確かに楽しかった。俺――黒瀬蓮は、足元にリュックをおろしながら「まあな」と答える。

 栄成高校は『金持ち私立』なんてネットに書き込まれるだけあり、文化祭もかなり盛大だった。出し物の数も多く、それぞれに結構な経費がかかっているのが見て取れた。


「それに兎和の彼女やべーよ……あんなカワイイ子、リアルに存在したんだな」


「付き合ってないと言ってた。ほんとに熱心なサポーターだって言ってたんだもん……」


「ト◯ロ見たみたいに言うんじゃねーよ。どう考えても恋人の距離感だろ、あれは」


 俺の反論を受け、「童貞のお前にゃわからんか」と晴彦は鼻で笑う。

 ウッセ。自分だって童貞だろーが……それに、付き合っているなど俺は絶対に認めんぞ。


 神園美月さん――初めて見たとき、あまりの美しさに全身が震えた。あれはきっと天から降りてきた女神だ。

 おかげで、俺の理想は一気に跳ね上がった。同級生の女子なんて、明日からはコケシ程度にしか思えないだろう。


「それに、兎和のドリブルもヤバかったな。マジでキレッキレだったし」


「だから、この俺様が散々言っただろうが。ヤツは『代表』に呼ばれてもおかしくないポテンシャルを秘めていると」


 晴彦は夏合宿で兎和のドリブルを見ていないから、俺の話をまったく信じていなかった。だが、今回は自分で確認してかなり衝撃を受けたらしい。煌めきを発したのはごく短時間だったものの、あのプレーがスペシャルだったのは誰の目から見ても明らかだ。


「でも、栄成か……せめてうちレベルの高校に進学していればな。あの才能が埋もれるのはもったいないだろ」


 晴彦は、栄成サッカー部のレベルが低いと思っているようだ。

 まあ、無理はない。都内にはいくつものサッカー名門校がある。それも東帝をはじめ、片手の指に収まらないくらいの数が。


 それらの伝統ある名門校と比較した場合、栄成は総合的に一段劣る。相馬淳を擁する今代の3年は例外的な強さを誇るが、来年以降も戦力を維持できるかは未知数だ。


 実際、東帝ではJリーグアカデミー出身者なんて珍しくない。上のカテゴリに進めなかった者たちは、率先して名門校の扉を叩くのである。


 一方で栄成なんかの強豪レベルは、一般のクラブチーム出身者が多い。玲音もそう言っていた……要するに、セレクションの段階から歴としたアドバンテージが存在しているわけだ。


 もちろん俺みたいな天才を輩出するクラブもなくはないが、育成力が高いところは大抵が名門校と深い関係にある。


「晴彦の言う通り、兎和だけだとムリだろうな」 


 いくら兎和が、この俺と同じ『代表クラス』のプレーヤーだとしても、卓越した『個』だけで勝ち抜けるほど高校サッカーは甘くない。


 そのことは、歴史が証明済み――ちょっと前に、プレミアリーグ(イングランド)に参戦するクラブに加入内定していたFWが率いる高校が注目を集めた。しかし年代ラストの冬の選抜では、二回戦であっさり敗退している。


「だが、案外ぐっと伸びてくるかもしれねーぞ。兎和もそうだけど、玲音もかなりいい体してた。あれは、そうとうフィジトレやってるぜ」


 あの愉快な『フットサル対決』に参加する際、俺は一緒に部室で着替えたのだが、そこで見た玲音の体はかなり絞れていた。あれは、おそらくハードなフィジカルトレーニングの成果だ。


 そもそもフィジトレはクソシンドイので、ヤル気次第で仕上がりに差が出る……つまり、少なくとも玲音は兎和についていく気があるという証だ。

 そして、もし他の部員も同レベルのフィジカルを備えているとなれば、相当気合の入ったチームってことになる。


 戦えば、間違いなく厄介な相手になるだろう。

 それに俺、苦手なんだよな……フィジカルゴリゴリのチームって。


「ほーん。天才さまがそう言うなら、そうなのかもな。つーか蓮、5分置きに『神園さん紹介して』ってグルチャに書き込むのやめーや。兎和がグループ抜けちゃったじゃん」


「だって、マジで可愛かったし……晴彦は悔しくないのかよ。俺は泣くほど悔しい」


 くそ、兎和め。俺より早く彼女を作るなど許さんぞ。しかも相手が、神園さんみたいな超絶美少女だなんて……一生童貞の呪をかけてやる。

 とはいえ、流石に5分おきはやりすぎた。次からはもう少し間隔をあけるか。


 車内にアナウンスが流れる。乗り換えの駅がまだ先であることを確認した俺はスマホを取り出し、『紹介のお願いは1時間おきに控えるので神園さんを紹介してください。同レベルの超絶美少女でも可』とメッセージを送った。

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― 新着の感想 ―
黒瀬蓮にとってすら厄介なゴリゴリのフィジカルが1年生に備わりえる環境が、美月によって提供されているわけですね。 その蓮とは比較にならないほど格の落ちる、主人公じゃない方の白石くんは、今はチーム内でも活…
連続更新ありがとうございます! こちらのテンション?も爆上がりです! 蓮は憎めない面白いやつですね。神園さん女神なのはマジ同意。 兎和とはあれで付き合って無いは嘘というか、どっちも変に構えてんなぁって…
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