勧誘メンバー勢揃い!?
翌日のこと。
昨日は結局部活名までしか決まらなかった。
今日も授業を済ませ、今は放課後だ。
まだ二年になったばかりで皆授業にも余裕があるのだろう。
早々に帰宅する奴が多い。
帰ってスマホゲームしたり、塾行ったりと皆私生活は忙しい。
中学生は一分一秒を惜しむものだと入学したての頃、担任に言われたな。
同感である。俺は一分一秒を惜しんで三Dモデリングの勉強をしたいわけだが。
まだクラスの奴らが残っているが、阿川が俺の席の前まで来た。
「ちゃんと待っていたようね」
「いや、帰って三Dモデリングの勉強したいけど少し用向きが変わったんだ」
「へぇ。少し場所変えましょう。今日はまだ教室に他の生徒が残ってるし」
「ああ、いいけど」
「凛、ちょっと待てよ」
「ん? どうした流駆」
話しかけてきたのは俺と同じクラスメイトで前の席の長谷川流駆。
文字通りキラキラネームだ。
あれでルークって読むのは格好良いけど、本人は嫌がっているが、俺は良い名前だと思
う。
何せ俺の名前は凛。女とよく間違われる代表格の名前だ。
つけたのはあの母親なので文句は言えない。
「今日掃除当番だろ? ほらよ、ホウキ」
「忘れてたわ。サンキュ」
「何よ。それじゃ終わったら来なさいよ。視聴覚室借りてあるから。また後でね」
「はい? 何で視聴覚室なの?」
「いいから。早く来なさいよ」
「あれ、阿川も掃除当番じゃね……ってもういない!?」
「はぁ。面倒だけどさっさと済ませようぜ、流駆」
「分かった。全く阿川の奴しょうがねえな」
俺と流駆は掃除を済ませようとしたが、残ってる奴らが多くてちょっと邪魔だ。
どいてくれないかな。
「ごめんね。掃除するところだったんだ。佐々木君、今椅子上げるから」
「いいよ嵐、俺やるから」
そういって椅子を代わりにあげてやる流駆。
こいつは伊吹嵐。クラスでも有名な奴だ。
……小学生のときに事故で片手を失ってる。
しかも右の利き手だ。
だから俺たちのクラスは尊重し合い、こいつを助けている。
でも本人はそれを辛く受け止めてるのを知っている。
「伊吹、これ落ちてたぜ」
「有難う長谷川君。僕も掃除手伝うから」
「いいって。俺らが当番なんだし。困ったことがあったら言えよな」
「うん、大丈夫。有難う、なるべく早く片付けて帰るから……」
「何だ? 元気無-な」
「そうだな……」
自分もそうだったらと思うと胸が痛む。
でもこうした個性にこの年齢から触れられることは大切なことだと思う。
「あ……私も掃除当番なんです。ホワイトボード、やりますね」
「琴宮か。相変わらず存在感無-な」
「ご免ね? 私、とろいってよく言われるから……」
「流駆は別に悪口で言ってるんじゃねーんだ、気にすんな」
「うん。そうだよね佐々木君……」
流駆はズバズバものを言うタイプだ。
だが本人に悪気があるわけじゃない。
結構いい奴。多分。もしかしたら。きっとそう。
「そーいや凛。お前阿川と仲良かったっけ?」
「いや? 昨日初めて話した」
「それが何で視聴覚室に呼ばれたんだ? お前まさか……」
「ちげーよ。えーっとな」
あれ……これ言えなくない?
何て言えばいいんだろ。何言ってもこじれる気がする。
「ちょっと野暮用……かな」
「野暮用って何だよ。やっぱりお前告白でもするんだろ!」
「こ、告白……?」
「えっ……?」
「……おい。何故嵐と琴宮に聴こえるように言った」
「がははは。悪気は無-んだ」
「僕知らなかった。佐々木君て阿川さんのこと好きだったんだね」
「……」
「違うって。はぁ。俺は……そう。部活の件で相談しようと思ってるだけ」
「何だ部活かよ。そーいやそろそろ決めないとなんだよな」
「そうだね……」
「うん……」
「何で流駆以外暗くなるんだ。お前らやりたい部活あるの?」
流れで聞いてしまったけど、こいつら部活まだ決めてなかったのか。
どうせなら勧誘してみるか? でもやりたくなければ意味ないしな。
「俺ん家武道やってるの知ってるだろ? でさ、最近はCGを上手く使って武道の最先端
を行くってのが目標なんだよ」
「へぇ。お前の家が道場やってるのは知ってたけど、CG使うんだ」
「滅茶苦茶恰好良いんだぜ。昔の映画とかもすげーのあったじゃん。拳法をインストール
すると拳法をマスターするとかさ」
「有名な映画だよね、私も知ってるよ」
「僕も知ってる。映画とか、アニメとか好きだから。僕、片手しかないけどモノづくりが
したくて」
「私は運動音痴で話すのも苦手だから。室内で出来ることで、自分に合った部活を探し
たいの。実は声優に憧れてて……音楽部なのかなって思ってたけど……」
「あれ? もしかしてお前たち全員、室内で出来る部活探してる最中なの?」
全員コクコクと頷いてみせる。
そっか。こういう偶然ってあるもんなんだな。
掃除の俺たち三人に、掃除を補助しようとしていた嵐。
それに俺と……阿川がもし入ってくれれば丁度五人だ。
これはいけるかもしれない。
「実はさ……昨日朝霧先生に部活立ち上げの申請用紙をもらって。まだ内容は明確じゃな
いんだけどさ。俺……三Dモデリングに今はまってて。部活でそういった三Dモデリング
を使った何かをやりたいんだ」
「まじで? すげーなお前。三Dモデリングって難しそうなことやっててあんな成績いい
の?」
「佐々木君って勉強出来るだけじゃなくてパソコンも使いこなせるんだね」
「どんなものを作るの……?」
「まずは背景とかだよ。それから物理演算っていうのを組み込んだりもする。炎を飛ばし
たり、水を流したりとか」
「すげー! 滅茶苦茶面白そうじゃん。そんなことまじで出来るの? CGだよ、CG!」
「うん。私も凄く興味あるかも……」
「僕も見てみたい」
「じゃあさ。時間ある日に話さないか? うちSNSはほぼ禁止だからやり取りタブーだ
けど、ニームズは使っても良かったよな」
「ニームズって何だ?」
「ほら、有名な大手企業が出してる、企業向けのチャットツールだよ」
「あれは社会に出たら使うだろうっていうから範囲内で許可下りてるんだよ。部活立ち上
げたらそこが連絡口になるから」
「後で教えてくれよ。俺良く分からねーわ」
「んじゃ流駆には後で教える。今日は皆忙しいだろ?」
「ごめんね。僕、今日は塾があるから」
「私も……」
「まぁ、俺も何だけど。土曜日とか空いてる時間あるか?」
「土曜かぁ。午後いちは武道の練習なんだわ」
「私もお稽古があるの。夕方過ぎなら平気だけど」
「僕も夕方なら平気だよ」
「んじゃ俺も夕方までに仕上げてくるわ。場所は?」
「駅前のジョーサンに集合しよう。阿川も誘ってみる」
「阿川さんは興味ありそうなの?」
「うーん、どうかな。半々ってところ。他に当ても無いし上手く誘ってみるよ」
「頼んだぜ、リーダー」
「気が早いから。まだ用紙に名前しか書いてないから」
「内容をその日に決めるんだね。楽しみだなぁ」
「皆でやる内容を考えよう。それじゃ土曜日の十六時頃、ジョーサン前で待ち合わせな」
掃除を済ませ、各自バラバラになる。
少し話し込んだお陰で遅くなってしまった。
視聴覚室に行くと仏頂面の阿川がスカートをヒラヒラさせて遊んでいた。
「悪い待たせた遅くなった手短にすませよう」
「……見たわね」
「何を?」
「この変態! 女性が一人で待ってる部屋に入るときはノックするのが常識でしょ!」
「俺の母さんみたいなこと言ってるな……理不尽かよ」
「知らないわよそんなの。一体何してたらこんなに遅くなるの?」
「流駆と嵐と琴宮さんを勧誘してたら遅くなった」
「何それ。全然分かんない」
「ついでにお前も誘うつもりなんだけど」
はい? といった表情を取ってみせる阿川。
そうなるのは当然だ。
「部活を立ち上げる予定なんだよ」
「何の? 私美術部に入ろうとしてるんだけど」
「美術部ってそういう漫画絵描けなくないか?」
「……そうだけど、他に入る部活無いじゃない。学校の非運動部って放送、美術、調
理、吹奏楽部しかないわよ」
「だから作るんだろ」
「あんたが? 何部を?」
「クリエイター部」
「クリエイター部って、何?」
……やっぱそこからになるよなぁ。
「それよりほら、絵見てよ」
「あーはいはい。んじゃお前も土曜日十六時頃に駅前ジョーサン集合な」
「その時間なら空いてるから別にいいけど……ってほらごまかさないで見てよ」
「別にごまかして無いから……ってこないだ見たのと違いが分からねー」
「よく見なさいよね。ここよここ。ほら」
「ん、いいんじゃね?」
「感情がこもってない! どこがどんな風に良いのか答えなさいよ」
何だよ感想とかいらないって言ってたのに。
ダメだしすると文句言われそうだから嫌なんだが……ええと。
描いてあるのは可愛い女の子の漫画絵だ。
絵自体はとても上手いと思うし、漫画の登場キャラにはいそうっちゃいそうだ。
だが……何故だか物足りなさを感じる。
「可愛い感じのとこは良いけど。でも何だろう? 何が足りないんだ? うーん」
「……足りない?」
「明日さ。他の三人も交えて聞いてみねー? ってことで今日は解散!」
「ちょ、人を待たせておいてこれでお終いなの?」
「……お前、確か掃除当番だったよな」
「ご免なさい今日は解散でいいです……」