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命名、クリエイター部!

本日から投稿開始いたします。

学校もので非ファンタジーものですが、面白い登場人物が後々出て来ると思います。

こちら書きあがり35話で書き上げておりますが、見直しながらの投稿をいたしますので本日分は

五話、後一話ずつ毎日投稿予定です。

読んで頂ける方、いつも有難うございます。よろしくお願いいたします。

 廊下ですれ違いざま、突如声を掛けられた。

 三年の先輩だ。要件は……聞かなくても分かるけど無視は出来ない。


「おい佐々木―。放送部、入らねー?」

「すみません安藤先輩。俺、これから朝霧先生に新しい部活の申請用紙貰いに行こうと思ってて」

「へっ? 部活立ち上げんの? やるな―お前」

「あはは……まぁ人集まるか分かんないですけどね」

「仕方ない次行くぞ次。おーいそこの君! 部活、入らな……」

 先輩のお誘いを華麗に断りつつ、職員室へ足を急ぐ。

 もう、決めたことだ。今更後に引く気はないが……職員室に入るのは緊張するな。

「失礼します」

 職員室に入って一番奥の窓際に、一際目立つ黒髪のスラっとした教員がいる。

「先生。新しい部活の申請を出したいんですけど」

「ん? 佐々木か。申請書を渡すから必要なところを記入して持って来てくれるかな」

「はい。いつまでに提出すれば良いですか?」

「一週間後に締め切りだから、それまでに私へ直接渡してくれるかな。おかしなところが無いかチェックするから」

「有難うございます……結構記入する欄がありますね」

「そうだな。それと立ち上げには最低でも五人集まらないと部活として認められない。勿論審査が通ってから集めるのも手だが、事前に何人か集めておいた方が良いかもしれないね。必要人数以下なら同好会となるから」

「分かりました。それでは失礼します」

「佐々木。ちょっとだけ待ってくれるかな」

「はい?」

「これを阿川に渡してもらえるか。昨日配布したものと同じ用紙だ」

「阿川に? 分かりました」

「その件について伝えておいたから、まだ教室に残っているはずだ」


 部活の申請用紙をもらいに行ったのに、パシリにされてしまった。

 良い先生なんだけどな。

 阿川か。そういえばまともに一度も会話したことが無かったっけ。

 自分の教室に戻ると、既に阿川以外の生徒は帰宅していた。

 今は部活期間外。

 といっても出来ないわけじゃないから申請済みの奴らは部活をしてるんだろうな。

 席に近づくと、気付いてないのか……何かを一生懸命描いていた。

 塗り絵か何かか? ここからだと全然見えない。


「阿川。これ朝霧先生から。渡してくれって」

「わっ! びっくりした……」

「悪い。何してんだ? お前」

「ちょ、見ちゃダメ!」

「えっ?」


 慌てて隠し、怒った表情を見せる阿川。

 後ろからだと驚かしてしまいそうだから、前から話しかけたんだけどな。


「ええっと、あんた、誰?」

「佐々木だよ。一番後ろの一番奥。お前、俺の話聞いてなかったの?」

「ああ、先生からの頼み……って何で朝霧先生が持って来ないの?」

「俺に言われても。それじゃ確かに渡したか……ら?」


 がしっと腕をつかまれた。顔、怖いんですけど? 

 そーいや阿川って帰国子女って話を聞いたことがある。

 人の腕いきなりつかむ女子とか、大分馴れ馴れしいぞ。


「ちょっと待ちなさいよ。あんた私の絵、見たわよね」

「何か描いてるようだったけど、覗き見はしてない」

「ふーん。あのさ。それなら少しだけ見てくれない?」

「何を?」

「だから描いたものよ。別に評価とかはしなくていいからね? ただ見て欲しいだけだから」

「俺忙しいんだけど」

「は? 暇だから私に紙を届けに来させられたんでしょ? いいから見なさいよね」

 うーん、面倒な奴に絡まれたな。

 さっと見て家に帰ろう。

 どれ……「あれ? もしかしてお前、漫画絵好きなのか?」

「べ、別に良いでしょ。趣味なんだから」

「ふーん。これ、何のキャラクター?」

「オリジナル。私、将来そっちに進みたいの」

「そっか。お前もそういう仕事につきたいんだな」

「お前もって、佐々木も漫画家になりたいの?」

「違うよ。俺はモデリング技師だ」

「モデリング技師……って何?」

「アニメとかゲームとか好きじゃないなら話しても分からないだろうな」

「べ、別に好きだけど?」

「悪いけどやることあるからもう帰るわ」

「ちょっと、待ちなさいよ!」

「絵少し見てって言っただけだろ。塾にも行かなきゃいけないし、モデリングの勉強もしないといけないんだよ。暇じゃないの。もう十六時三十分だぞ。お前平気なのか?」

「やばっ! 全然遅刻! 私も塾行かないと!」

「はぁ……時間の感覚狂ってんな」

「うるさいわね。ちょっとあんた、明日もう少し絵見なさいよ。今度は少しだけ評価してもいいから」

「あーはいはい。忙しいからまた明日な」

 これが俺と阿川の初めての会話だった。

 その日はいつも通り塾を済ませて、家に帰ったのは夜十九時。

 晩御飯はいつも通り一人。父も母も共働きで家には俺しかいない。

「ただいま」

 返事の無いいつも通りの変わらぬ家。

 作り置きのご飯を温めて食べる毎日だ。

 話し相手はいないけど、この時間はいつもネットで情報を調べながら食事をするのが日課だ。

 テレビなんて見てる時間は一秒も無い。

 今俺は、パソコンで三Dモデリングを覚えることに夢中なんだ。

 でも、三Dモデリングは高スペックパソコンでなければ動かせない。

 うちの学校には残念ながらそういった三Dモデリングを学べる部活がない。

 そのため自分で立ち上げようというわけだ。

 両親に頼み込んでどうにか動かせる程度のパソコンは買ってもらえたけど、学校でならもっと本格的なものを用意してもらえるはず。

 

「でも、どうやって書けばいいのかな。未来末永く続くクリエイティブなこと? 学校の特色を出せて、これだけでもうちの中学へ受験者が増えるとか? 自分のメリットだけじゃなくて、学校側のメリットも書いた方がいいんだよな、きっと……うーん」

「ただいまー」

「げっ。母さん早いな」

「げって何よ(りん)。お帰りでしょ」

「お帰り。早かったね」

「今日は買い物してないから。もう十九時半でしょ。全然早くないわよ。嫌になるわ本当。誰よ女も働けなんて言い出した奴」

「母さん働かなかったら、家でずっとゲームやってるだろ……」

「何言ってるの? ゲームだけじゃないわ。アニメもドラマも見るに決まってるじゃない」

「正直だなー。そりゃ無理にでも働いてもらった方がいいわ」

「でも凛が家に一人じゃ寂しいでしょ?」

「もう慣れたよ。そういう社会になっちまったんだから仕方無いだろ」

「母さんが若い頃はね。テレビを囲っていっぱい集まって食事して、それが楽しかったのよね」

「そういうの年末年始だけで十分だって。俺忙しいんだから」

「そういえばどうだったの? 部活立ち上げるって言ってたわよね」

「んーと、書く文言で悩んでるトコ」

「お母さんに書かせて!」

「目を輝かせながら言わないでくれる? 俺の字じゃないって朝霧先生にばれちまう」

「凛の真似して書くから平気よ。朝霧先生に見てもらえるんでしょ? あの素敵な先生。良いわよね。うちのお父さんより格好いいし」

「止めてくれ。父さん聞いたら膝から崩れ落ちて泣くぞ……」


 うちの母はかなり暖かい性格だ。

 そして父は愛妻家。しかし母は軽くあしらっている。

 うちのパワーバランスは言うまでもなくぶっちぎりで母親が権力保持者だ。

 

「見るだけならいいでしょ? ……ふーん。部活名に活動内容、活動発表物に三か月毎の進捗予想? 結構複雑なこと書かせるわね」

「そうなんだよ。最初から躓いてる」

「最低五人は必要って書いてあるわね……」

「それも問題。もう三Dモデリング部でいいかぁ」

「駄目に決まってるじゃない」

「何で!?」

「三Dモデリング部って、三Dモデリングやる人、やりたい人だけ集めるってことでしょ?」

「そうだよ。俺がやりたいのは三Dモデリングなわけだし」

「じゃあさ。鍋をやるとするじゃない?」

「何で鍋!?」

「いいから。それでさ。鍋を食べたい人を集めるのに鍋部だと人が集まらないから料理部になるわけよ」

「言いたいことは分かったけど、普通鍋で例えるか? 鍋部って何だよ一体」


 確かに三Dモデリング部だと範囲が極端に狭いし却下される可能性があるか。

 朝霧先生の眉間にしわが寄った顔が目に浮かぶなあ。

 顔が良くて名前も朝霧とか恰好良くて若干むかつくんだけど。

 朝霧先生か……朝霧……あれ、何か思い出しそうだぞ? 


「待てよ……阿川の絵、そうか!」

「じゃーん! 命名! クリエイター部!」

「ちょ、何で勝手に書いてんだよ!」


 これが俺の母親、佐々木まどかだ。

 今年で三十六歳。まだまだ元気で色々若い。

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