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風の少女と呪いの絆6  作者: たき
4/10

(4)

一応最後まで書けたので、ここからは準備ができしだい投稿という形に切り替えます。

 武闘学科一回生が合同野外研修を終えた二日後の昼休憩の時間、いつもは学院内のあちこちに散っている生徒たちが、今日だけは中央棟の一階や二階に集まって正門を凝視していた。中でも神法学科生はよく見える窓辺にずらりと並んでいる。

 まもなく一台の馬車が現れると、「来たぞ!」と複数の叫び声が重なった。

 中央棟の前で馬車は停車し、風の法の法衣を着た男性がまず下りてくる。涼やかな青銀の髪に青い瞳の教官はざわめく見物人たちを一瞥してから、馬車のほうへ手を差し出した。

「やだ、素敵。神法学院の風の法専攻ってあんな先生がいるの?」

「去年はすごいおじいちゃん先生だったのに」

「リリーのお父さんなんだって」

「えっ、そうなの?」

「ああでも、確かに似てるね」

 好奇の視線を一身に浴びてもまるで動じないファイ・キュグニー教官の手を取って、次に炎の法担当教官が下りたとき、どよめきがさらに大きくなった。

「うわあ、炎の法の先生、すごい美人だな」

 目をみはるレオンにセピアが教えた。

「オルトのお母さんだよ」

 レオンだけでなく、周辺にいた他の生徒たちまでがいっせいに反応した。

「本当?」

「オルトってお父さん似なんでしょ? お母さんまであんなきれいな人だったの!?」

「神法学院に入学したらあの先生に教えてもらうのか。炎の法専攻生、うらやましすぎる」

 れんが色の豊かな髪を品よく巻いてまとめたイオタ・カエリ―教官の圧倒的な存在感に、特に男子生徒が騒がしい中、隣でぼうっと来訪者を眺めているルテウスにレオンが尋ねた。

「ルテウスもオルトのお母さんに見とれてるの?」

「ああ……いつも泰然としていて、全身から知性があふれ出ている。キュグニー先生って本当に格好いいよな」

 美貌の女性教官は眼中にないらしい。ある意味通常どおりのルテウスに、レオンとフォルマは目をあわせて笑った。

 そして最後に馬車を下りたのは、水の法担当のカルフィー・リベル教官だった。

「あれ? 今日って風と炎だけだったよね?」

「もしかして新しく着任されるんじゃない? ケローネー先生がそろそろ引退されるとか」

「でもリベル先生、去年は普通に視察で来られてたよ。神法学院から下等学院に移籍してくるほど、水の法の教官は人手不足じゃないと思うけど」

 上級生がざわめく。セピアもケローネー教官が辞めるという話は聞いていないらしく、首をかしげている。

 三人が下車したところで、中央棟の入口に立っていたヘリオトロープ学院長とニトル、レクシスは歩み寄った。満面の笑みでファイを迎えるニトルのそばでレクシスは完全に顔を引きつらせ、対するイオタもむっつりとしている。

「三人とも、よく来てくれたね」

 学院長がカルフィーと握手する。レクシスは「なんでお前もいるんだ?」といぶかった。

「カルフィーは来年度、ゲミノールムの学院長に就任が決まったんだよ。私もそろそろ退職してのんびり過ごそうと思ってね。以前から打診していたんだ」

 学院長の説明に、レクシスたちは驚いた。

「お前、もっと早く教えろよ。水臭いじゃないか」

「すまない。ずっと気がかりなことがあったから、神法学院を離れる決心がなかなかつかなくて。でもそれも解決したから、引き受けることにしたんだ」

 まだかすかに悲しみの残る微笑を浮かべるカルフィーに、レクシスもそれ以上責めるのをやめた。

「我々は先に学院長室で引き継ぎの話を進めるので、後は任せるよ」

 学院長がカルフィーと連れ立って中央棟へ入っていく。それを見届け、イオタがレクシスを睥睨した。

「で、あんたはいつ辞めるの?」

「阿呆。俺は正式に採用されたばかりだぞ」

 最初はヒドリ―教官が復帰するまでという契約だったが、予想以上に生徒からレクシスの継続を望む声が上がったのだ。生徒の希望を無視するわけにもいかず、復職の意思があるヒドリ―教官にどう切り出すか学院長は迷ったが、見舞いに行った剣専攻副教官のラーヴォ・ウォルナットが一緒に引退するぞと声をかけると、ヒドリ―教官はあっさり承知したらしい。長年いがみあってきたのに去るのも同時という、なんとも不思議な関係だが、ヘリオトロープ学院長の退職予定を知ったスクルプトーリス学院のプレオン・ヴィルギニス学院長もまた退くことを決めたというから、人と人との付き合いは面白い。

 代員から教官になるにあたり、レクシスは警庁へ退職届を出そうとしたが、警兵のほうは休職扱いにすると上司に突き返された。もし教官職を追われたらいつでも戻ってこいと。

 解雇を前提にしないでくれと言い返したが、上司も同僚も笑って送り出してくれたのがありがたかった。

「組み合わせも行き先も毎年変わるのか? 去年は大地の法の女性教官とスクルプトーリスを訪ねたと聞いたんだが」

「彼女も今年はここに来るけど、同行は断られたのよ。今年は別の人がいいって」

「なんでだ? お前、相手にいちゃもんでもつけたのか?」

「違うわよ。失礼ね」とイオタが眉間にしわを寄せ、ファイを流し見た。

「イオタと一緒だと、生徒たちの目がすべてイオタに向くから嫌だということらしい」

 しかも自分の母校に行きながらイオタのほうがもてはやされたのが気に入らなかったようだというファイの説明に、レクシスも「はあ?」と眉をひそめた。

「何だそりゃ。別に美人投票があるわけでもなかろうに……神法学院の教官は見栄っ張りな馬鹿ばっかりか」

「それを私たちの前で平気で口にするあんたの神経を疑うわ」

 まあ、下心ありでファイを指名したくらいだから、馬鹿だというのは否定しないけどとイオタがぼやく。

「だから彼女の今年の相手は、カルフィーが()()()男性教官をあてたのよ」

「……それはまた、強烈な嫌がらせだな」

 彼女がどんな人物か想像がつき、レクシスは苦笑した。よほどカルフィーを怒らせたんだろうと言うレクシスに、「さすが、よくわかってるわね」とイオタもにんまりした。

「イオタさーん! ファイおじさーん!」

 中央棟二階から手を振って呼びかけてきたセピアとリリーに、イオタは瞳をやわらげて手を振り返した。

 昔に比べればずいぶん柔和になったなとレクシスは思った。もともとの見目のよさに愛想が加われば最強だ。案の定、自分に笑顔を向けられたわけでもないのに、あちこちから悲鳴や憧憬の吐息が漏れている。

 しかし男子生徒や男性教官からの熱いまなざしを完全に無視しているところは変わっていない。相手によっては今も敵対視されることがあるみたいだが、若い女生徒には慕われているというのもあながち嘘ではなさそうだ。

「セピア、学院では先生と呼んでちょうだい。セピアもリリーも久しぶりね。後で教官室にいらっしゃいな。懇親会が終わったらお茶しましょう」

「おいこら、人の部屋で勝手に茶会を連続で開くんじゃねえよ」

「お茶くらい別にいいじゃない。あんたなんかゲミノールム在学中に飲酒……」

「カエリ―先生、立ち話も何ですから、ひとまず教官室に行きましょうか」

 イオタの発言をさえぎり、レクシスはイオタの背中をぐいぐい押した。

「ちょっと」

「お前な、それをばらすとニトルまで咎められるんだぞ」

 絶滅の危機に瀕している風の法担当教官が一人辞職に追い込まれたらどうするんだよ、と小声で注意するレクシスに、文句を言おうとしたイオタの目がニトルへ向く。ニトルはファイの隣で苦笑いしていた。

「あんたやバトスはともかく、カルフィーやニトルも一緒になって飲んでたなんて」

「過ぎたことを蒸し返すなよ、()()()()()

「やめてよ、鳥肌が立つじゃない」

 本気でぞっとしたのか、イオタが腕をさする。

「まったく、あんなにかわいいアレーナがまさかあんたを選ぶなんて」 

「俺とアレーナを引き合わせたのはお前だろうが」

「あのときはあんたが一番安全で適任だと思ったのよ」

 タウの妹のアレーナは三つ年下だ。神法学院に入学したときから同期生だけでなく上級生にまで目をつけられ、武具屋の娘のミュイア・パーンとともに男子生徒によく絡まれていた。

 そこでイオタは、ミュイアの面倒をミューとカルフィーに頼み、アレーナは最初自身が世話をやいていたのだが、イオタとアレーナが一緒だとかえって追っかけが増えたため、強面の自分を引き込んだのだ。

 下等学院の頃から、イオタは何かやっかいなことが起きそうなときはいつも自分を壁代わりにしてきた。そのせいで周りからそそがれる嫉妬を払いのけるのが地味に面倒臭かったのに、もう一人守れと言われ、最初はげんなりした。今後も続くのなら自力で対処できるようにしたほうがいいとも提案した。

 しかし実際に会ってみると、アレーナはすでに疲れて泣きそうな顔をしていた。下等学院ではシータをはじめ、ラムダの弟のジェソやトルノスたちと仲良くしていたおかげで、早い段階で難を逃れたが、神法学院では頼れる存在がいなかったのだ。

 さすがタウの妹だけあって、もしバトスがいたらすぐに食いつきそうなほどかわいらしい容姿で、性格もイオタほどきつくない。皆が放っておかないのも当たり前かと納得し、落ち着くまで可能なかぎり近くにいてやることにした。

 出会った当初は警戒、というよりむしろ怖がっていたアレーナだったが、イオタと自分の軽い言い合いを見て笑ってからは、自分が探さなくても向こうから寄ってくるようになった。

 素直に甘えられるのも悪くない。うらやましさからの嫌みが飛んできても、イオタのときほど苦々しくは感じなかった。そんなふうにして、生来の目つきの悪さを有効活用してにらみをきかせていた自分を、いつからアレーナが想ってくれるようになったのかは知らない。

 調子に乗って保護者面を気取っていた自分の中にも、異性としての愛しさが芽生えていたと気づいたのは、降臨祭に誘われたときだ。

 そこまで演技をしないと振り切れないほどしつこい奴がいるのかとつい聞き返したが、目の前で頬を赤く染めて緊張にかたくなっている姿に、本気なのだとわかった。

 降臨祭を機に交際を始めたとアレーナから聞いたイオタは立ちくらんだらしい。すぐさま詰め寄られたが、俺だっていまだに信じられないんだと正直に吐露したら、絶対に泣かせるようなことだけはするなと約束させられた。その後はイオタなりに気をつかった距離感で自分たち二人を見守るようになり、案外いいところがあるのだなと認識を改めた。

 自分の気もちは変わらなくても、いつかアレーナはもっといい男のほうに行くかもしれないという不安は常にあった。周りもそう予想していた。きっと一時的になついているだけだろうと。しかし自分の卒業後、再び囲まれるようになってからも、アレーナは誰にもなびかなかった。

 彼女が最終学年に上がった年の後半、覚悟を決めて結婚の申し込みをした自分の前で、アレーナはとても晴れやかに、嬉しそうに笑って承諾してくれた。

 小さい頃から勝手に誤解されて喧嘩を売られることが多い日々だったが、この大きな幸せを得るための代償だったのかもしれないと最近は思う。人生、捨てたものではないと。

「お義母さんの誕生日には顔を出すんでしょ?」

 夫を亡くし、失意の中で懸命に育て上げた子供二人が結婚してから、義母は店を縮小してのんびりと過ごすようになった。家族そろって――ついでに同い年の義兄の嫁まで容姿端麗という環境は、自分には非常に居心地が悪いが、少なくともタウはもちろん義母もまったく気にしていないようで、行けばいつも歓迎してくれる。

「ああ、アレーナたちが膝掛けと手袋を編んでいるところだ。俺はつい最近売り出された酒を持っていく」

 義母は見た目からは想像がつかないくらい酒に強い。なので自分が行くと必ず酒の話になるし、夜遅くまで一緒に飲むことも多かった。

 レクシスの言葉に「そう」とイオタが微笑する。イオタも何か用意しているのだろう。

「さあ、それじゃあ生徒の様子を見せてもらおうかしら。来年から入学してくる生徒たちの素行が悪かったら、遠慮なくあんたの責任を追及するわよ」

「心配ない。四学院一優秀だと言われるくらい、立派に育てて送り出すつもりだ」

 互いににやりとしたとき、一人の風の法専攻生がファイの名を笑顔で呼びながら駆けてきた。



「なんか先生たち、喧嘩してる……?」

 なごやかに談笑する風の法の教官二人とは対照的に、炎の法の教官は表情をころころ変えて何やら応酬している。不思議がるレオンにオルトが小さく笑った。

「ああ、母さんと叔父さんは、会えばいつもあんな感じだから」

 相性が悪いとも言えるが、遠慮のない関係でもあるらしい。 

「お前がおとりになった例の事件、もしお前が断ったら叔父さんは俺に声をかけるつもりだったみたいだぞ」

 それを知ったイオタが「危険な仕事に子供を巻き込むな!」と激怒し、そのときだけはレクシスも黙って小さくなっていたという。

「確かにオルトなら、余裕でばっさりやってただろうな」

 一緒に戦ったのが誰かさんじゃなくオルトだったら僕もすごく楽だったのにと、レオンがため息まじりに言ったところで、「キュグニー先生!」とはずんだ声が響いた。

 来訪者に走り寄ったのは、風の法専攻一回生代表のエラルド・ラングだ。近況報告でもしているのか、身振り手振りを取り混ぜて話すエラルドに、ファイも穏やかな表情でうなずいている。

「あいつ、抜け駆けしやがったな」

 俺だって行きたいのを我慢しているのにと歯ぎしりしてエラルドをにらみつけるルテウスに、「同じ専攻なんだから別にいいんじゃないの?」とフォルマがあきれる。

「神法学院の教官との懇親会は三回生だけだし、今しかキュグニー先生としゃべる時間はないでしょ」とレオンもなだめたが、リリーが「それなんだけど」と言いにくそうに続けた。

「風の法専攻生は人数が少ないから、一、二回生も懇親会に出たければ出ていいってロードン先生が――」

「何だって?」

 ルテウスが驚きと怒りをないまぜにした容相でふり返る。発狂を覚悟した皆の前で、ルテウスはキルクルスに目をつけると、がしっとその両肩をつかんだ。

「キル、頼みがある。今日だけその法衣を貸してくれ」

「まさか、懇親会に潜り込むつもりなの?」

「ルテウス、それはまずいって」

 フォルマとレオンの制止は耳に入っていないらしい。そのままキルクルスの法衣を無理やりにでも奪いそうな勢いで迫るルテウスに、キルクルスは苦笑した。

「僕はかまわないけど、リリーのお父さんが気づいたときに好意的に受け取ってくれるかどうかはわからないよ?」

 君が大地の法専攻生なのは知ってるだろうからと言われ、ルテウスが返事に詰まる。目の前にある短い至福の時間を取るか、今後も付き合いが続くことを考えてここは辛抱するかと本気で頭をかかえていたルテウスは、嫌われない道を泣く泣く選択したようで、がっくりとうなだれた。

「ルテウス、神法学院に入学したらお父さんの授業をとるんでしょ? 卒業論文の内容しだいでは担当がお父さんになるから、それを狙ったらどうかな」

 ほとんどの生徒は自分の専攻に関係した論文を書くのだが、薬学や占術など専攻の枠を越えた研究を選んだ場合は、その講義を受け持っている教官が面倒を見るため、違う専攻の生徒でも師事が可能らしいとリリーが勧めると、「それだ!」とルテウスの目が輝いた。

「あーでも、ファイおじさんには毎年希望者が殺到してるって母さんが言ってたぞ」

 研究内容ではなく好きな担当教官に指導してもらいたくて論文の題材を無理やり決めてくる生徒が一定数いるようで、本当にその研究をやりたいかどうか見極める必要があるから大変だという母の愚痴を伝えるオルトに、間違いなくその『一定数』の一人に加わりそうなルテウスがよろめく。

「そんなに人気なんだ。さすがキュグニー先生って言いたいところだけど、他の先生が妬んだりしないの?」

 レオンの疑問に、オルトは「昔はいろいろあったみたいだ」と答えた。

 本来は何年も務めるはずの副教官の立場をすっ飛ばして教官になったファイはやはり注目の的で、年が近いのと興味本位とで最初の年は受講希望者が圧倒的に多かった。指導が未熟な若い教官にいつまでも生徒がついていくわけがないと侮っていた年配の教官たちは、翌年も同じ状態であったことにあせり、面倒臭い校務分掌を『経験を積ませるため』という名目でことごとくファイに押しつけたのだ。

 同年代で副教官だった者たちも嫌がらせに加わる中、もともとファイと親交のあった教官や副教官は学院長に訴えたが、就任したばかりの学院長は取り合わなかったという。

 仕事に追われて学院に泊まり込む生活が続くファイに、毎日馬を駆って弁当と着替えを届けるシータのことも話題になった。二人が不満顔一つ見せずねぎらい合う様子に、新婚なのにと同情の声が増した。そうしてイオタたちの手も借りながら、ファイはどうにか一年をやり過ごした。

 卒業式の日、どの教官も面倒を見た生徒たちから感謝の花束を贈られるのだが、花束の山に埋もれるくらい渡されたファイの横で、一つももらえない教官や副教官が複数いたという。卒業論文を世話した生徒からさえもらえず呆然と立ちつくす彼らは全員、ファイにつらく当たっていた者たちだった。

 誰がいじめていたか、生徒たちは把握していたのだ。

 さらに翌年度、彼らの講義を受けようとする生徒はほとんどいなかった。卒業生のみならず在校生からも強い反感をもたれていたことに、教官たちは蒼白した。

 受講希望者の多さは給料にも影響する。人気のない教官や副教官の講義は容赦なく削られ、ファイやファイに協力的だった者の講義数が増えた。学院長はただ見て見ぬふりをしていたわけではなく、ファイが苦境をどう乗り越えるか静観していたのだ。

 学院長に呼ばれて話をしたファイは、自分の父が学院長の教え子であったことを告げられた。優秀だったフェルス・キュグニーに、彼らはやはり悪意をもっていたと。さすがに法に触れる問題を起こしてはいないので追い出すことはできないが、その立場を利用して高圧的な指導を繰り返していた彼らもこれで少しはおとなしくなるだろうと、学院長は語ったらしい。

 君のほがらかで可愛い奥さんにもよろしくと言われたファイは、話し好きなシータが届け物のついでに学院内のあちこちで知り合いを増やしていたことを知った。シータの訪問はもはや名物となっており、会えるのを心待ちにしていた者も少なくなかったという。

「そんなことがあったんだ」

 両親からは当時の苦労話を聞いたことがなかったリリーが、感嘆の息をつく。

「ファイおじさんって若い頃は人見知りだったって聞いたけど、そうは思えないほど面倒見がいいだろ? 論文もおじさんに指導してもらった生徒がよく最優秀賞に選ばれるみたいでさ。それもおじさんが手を加えたんじゃなく、生徒自身が気づくように誘導しているから悔しいって母さんがぼやいてた」

 だから噂を聞き、一回生からファイの講義をとって顔と名前を憶えてもらおうとする生徒が多く、毎年定員を大幅に超えてしまうようだとのオルトの説明に、ルテウスはすっかり血の気が失せた顔つきになっていた。

「研究内容に熱意があれば、お父さんはきっとルテウスをとってくれるよ」

 リリーのなぐさめに、キルクルスがにやりとした。

「もういっそのこと、リリーのお父さんが研究対象ですって申告したら?」

 本人がいないと研究が進みませんって言えば選んでくれるんじゃないというキルクルスに、「キュグニー先生にそんな冗談通じるかな?」とレオンが反対する。気持ち悪がられて逆に離されるかもと。

「だよな……あー、くそ。やっぱり奇跡のパンに願って守護神変えてもらうかな」

 ぶつぶつ独りごちるルテウスに、そんなことは可能なのかとその場にいた全員が互いに視線で問いかけた。

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