(1)
自分にまたがった少女が起こす振動で、寝台が激しくきしむ。
このところ気が乗らないと断ってばかりいたら、今日はひどく悔しそうな涙目で少女は強引に自分を押し倒した。
少女の手で引き出された勃起はただの生理現象だ。そんなもので満足できるなら、相手は自分でなくてもいいはずだ。
もしここにいるのが彼女だったら。
ずっと心が渇いていたのだと気づかせてくれた彼女だったら、自分から手をのばし、かき抱いたのに。
欲しいのは彼女だ。
媚びることも崇めることも期待することもなく、ただの一個人として自分を正面から見てくれる。手を引き、屈託なく笑ってくれる。
その心地よさを……ぬくもりを、もっと近くで何度でも感じたい。
己が求めるのは彼女だけ。
触れ合いたいのは、彼女だけだ――。
「フォルマ、もう短弓はやってみた?」
射的場での演習中、自分の番を終えて休憩していたフォルマに、ブレイが声をかけてきた。
「ううん、まだ。ブレイは?」
「この前の休みに、店で試させてもらった」
隣に座るブレイの返事に、フォルマは「へえー」と目をみはった。
「どんな感じ?」
「悪くはないな。僕はやっぱり長弓のほうが好みだけど」
この国で使われているのは長弓だが、最近東のほうから短弓が入ってきた。一撃の威力や飛距離は長弓に劣るが、連射に優れていて、小柄な者でも扱いやすいという。
「先生に聞いたら、今年はまだ無理だけど、来年か再来年には学院にも導入したいと学院長に相談しているそうだ」
短弓なら馬で駆けながら射ることも容易だから、交流戦でも活躍の場が広がるだろう。
「ブレイが贔屓にしている店ってどこ? 私が通ってる店はまだ入荷してないんだよね」
「メンブルムの町にある。今度案内しようか」
「うーん……けっこう遠いね」
メンブルムの町は首都アーリストンに近い。徒歩では無理だから、行くとなると馬車になる。
「僕の馬に相乗りすればいい」
「ブレイ、自分の馬を持ってるんだ?」
すごいとつぶやくフォルマに、ブレイは小さく笑った。
「実家がメンブルムにあるから、休日はいつも馬で帰省しているんだ」
「そうなんだ……あれ? ブレイって寮生だっけ?」
登下校が負担になるくらい遠い場合、学院寮に入ることが可能だ。弓専攻生も何人か入寮しているが、ブレイの噂は聞いたことがなかった。
「親戚がこっちに住んでるから、そこに下宿させてもらってる」
今までそういう話をしたことがなかったので、フォルマは素直に驚いた。
そのとき、弓専攻担当のコレーオ・ペリパトス教官が集合の号令をかけたので、フォルマはブレイとともに腰を浮かした。
つと視線を感じて右手のほうを見ると、モスカ・エレダールと目があった。弓専攻で実力が頭一つ抜けているのはブレイで、モスカはフォルマといい勝負だ。もしフォルマがいなければ、モスカが副代表になっていたかもしれない。
美人だが、何を考えているかわからない無表情が怖いと言って、同期生たちはあまり近づかない。フォルマもモスカと雑談したことはなかった。弓専攻は剣専攻や槍専攻と違って女生徒がそれなりにいるが、フォルマたち女子の輪にモスカは入ってこないのだ。
感情がないと陰口をたたかれている褐色の瞳は今、はっきりとフォルマをとらえている。暗く冷えたまなざしに、フォルマは寒気を覚えた。
「フォルマ?」
動かないフォルマをブレイが呼ぶ。はっとして、フォルマは「何でもない」とごまかしてペリパトス教官のもとへ向かった。
教官の話は射術大会の件だった。交流戦はゲミノールムとスクルプトーリス、クラーテーリスとオーリオーニスがそれぞれ対戦しているが、射術大会は四校が武闘館で競う。まず各学年二名を選出し、そこから三名が学院代表として参加することになっている。
近いうちに代表を決める選考会をおこなうとの言葉に、生徒たちがざわついた。
「一回生はブレイとフォルマで決まりじゃないか?」
「そうだよな、命中率も連射の速さも俺たちと全然違うし」
やる前から自信のない発言の多さに、フォルマはあきれた。剣専攻や槍専攻も一回生代表が強すぎるせいで、他の生徒の上昇志向が欠け気味だと聞いている。ここ数年ゲミノールムが交流戦で負け続きなのもそれが原因ではないかと、ソールの父親でもあるピュール・ドムス教官が息子に語っていたらしい。代表になる生徒の実力は昔と変わらないのに、遅れをとるまいと奮起する生徒が少なくなったと。
弓専攻も決して仲が悪いわけではない。皆ブレイを尊敬し、頼りにもしている。ただ、ブレイに追いつきたい、追い越したいという気概がないのだ。
確かに、ブレイは今まで一度も中心を外したことがない。連射でも必ずすべて正確に射ている。動くものが相手ならそうはいかないよとブレイは謙遜していたが、たとえじっとしていなくてもブレイなら当てそうだ。
それからペリパトス教官は、明日からの合同野外研修に備えて今夜は早く寝るようにと告げて締めくくった。ちょうど授業終了の鐘が鳴り、ブレイのかけ声に合わせて全員が一礼する。
「いよいよ野外研修か。どんな感じになるんだろうな」
射的場を出て学院へ戻る途中、ケルン・ポーリョがフォルマの隣に並んだ。
「ケルンはソールと同じ班だっけ?」
「そうだよ。くじをひいたときは『よっしゃ!』って嬉しかったけど、足手まといにならないか不安になってきて、今は正直ちょっと胃が痛い」
「大丈夫だよ。ソールは味方を責めるようなことはしないから」
彼だけでなく、普段はルテウスやキルクルスと言い争うことがあるオルトも、多少自分に負荷がかかっても仲間を助けるために率先して行動し、技量がたりない相手に文句を垂れるようなまねはしない。
「ケルンだって腕はいいんだから、もっと堂々としてなよ」
精神状態が安定している日のケルンは、フォルマに劣らない力を発揮する。ケルンの課題は本当に、気分のむらだけだと言ってもいいくらいだ。
そのとき前方で騒ぎ声がした。見ると、ブレイが女生徒に囲まれている。渡されているのはお守りのようだ。
いつ頃か知らないが、合同野外研修に向かう武闘学科生にお守りを贈ることが流行った年があったとかで、それ以来、伝統的な風習として定着している。
『黄玉』の投票で一位になったオルトや三位のソールほどではないが、レオンと同数で十位に入ったブレイも人気がある。自分はまだ目撃したことはないが、同期生の話ではけっこうな数の告白を受けているという。
「ブレイ、すごいね」とフォルマが感心したところで、別の女生徒の集団が寄ってきた。
「あの、フォルマ……これ、持っていって」
いきなり差し出されたお守りにフォルマは目を丸くした。
「えっ……私?」
「フォルマのこと、格好いいなって思ってたの。応援してるから頑張ってね」とほんのり頬を赤らめて笑う女生徒に続き、「私も」「私も」と次々にお守りを押しつけられる。そばで居心地悪そうにしていたケルンに、他の弓専攻生が合流した。
「あー、くそ。ブレイは当然として、なんで女のフォルマが俺たちよりモテるんだよ」
山盛りになったお守りをかかえるフォルマに、皆が悔しそうにぼやく。「そんなこと言われても」とフォルマは眉尻を下げた。
「モテるといえばさ、こないだブレイとモスカが……」
ためらいがちにケルンが口を開いたとき、リリーがやってきた。とたんに周囲が色めき立つ。しかしリリーがフォルマの名を呼ぶと、一様に落ち込む気配が広がった。振れ幅の大きい反応に苦笑しつつ、フォルマはいぶかった。リリーたちからは昨日激励会と称して町の闘技場で飲み物をふるまわれたので、改めてお守りをくれるとは思えない。そもそも、リリーが渡すとしたら自分ではなく――。
「ちょっといい?」とリリーに袖を引かれ、フォルマが同期生の輪から外れると、風の法一回生代表のエラルド・ラングが緊張した様子で近づいてきた。
話をし、恥ずかしそうにお守りを山の一番上に乗せ、エラルドはリリーとともに去っていった。想像もしていなかった展開にとまどいながら更衣室に入ったフォルマは、今朝レオンに紙袋を渡されたのを思い出した。使用目的も説明されず、ただ「持っていったほうがいいよ」と勧められたのだが、レオンは今日フォルマがたくさんお守りをもらうのを予想していたのかもしれない。
感心するほどよく気が回る双子の弟だが、帰ったら絶対に笑われるに違いない。男子よりたくさんもらうってどうなのさ、とか何とか言って。
そしてお守りを紙袋に入れて更衣室を出たフォルマは、人けのひいた廊下で壁にもたれて立つブレイを見つけた。視線があうなりブレイが動いたので、どうやら自分に用があるらしい。
「お疲れ様。ブレイ、さっきは――」
「エラルドにもらったのはどれ?」
ブレイがフォルマのかかえる紙袋をのぞく。話をさえぎられたフォルマはとまどいつつ、袋の中をかき分けてお守りを一つ出した。
「えっと、たぶんこれだけど、どうかした?」
尋ねるフォルマの手からブレイはお守りを奪い取った。
「ちょっと、ブレイ」
「他のはまだ許すけど、これはだめだ」
「どうして?」
意味がわからない。
「必要ないからだよ。こんなものなくても、フォルマは僕が守る」
一瞬ぽかんとしてから、フォルマは吹き出した。
「何それ。誰かに聞かれたら誤解されるよ」
「僕は別にかまわないと前にも言ったはずだけど」
思いがけず真顔で返され、フォルマは返事に詰まった。
「とにかく、これは没収するから」
「え? いや、待って。それはだめでしょ」
エラルドのくれたお守りをポケットに突っ込むブレイをフォルマがとめると、「なぜ?」とブレイが眉をひそめた。
「フォルマはエラルドと付き合ってるのか?」
「違うけど」
「じゃあ、これから付き合うつもり?」
「そんなんじゃないってば。でも、私がもらったものをブレイが勝手に取り上げるのはおかしいよ」
ブレイにその権利はないと少しきつめに言うと、ブレイのこげ茶色の瞳が揺れた。
「フォルマ、怒ってる?」
「すごく怒ってるわけじゃないけど」
フォルマは手で額を押さえた。ブレイは時々会話がかみあわなくなる。違和感が生じるのだ。
頭が悪いとかではない。むしろブレイは学問のほうも優秀だ。このずれは――認識の違いだろうか。自分が当たり前と思っていることが、ブレイにとってはそうでないように見える。
「いいから返して。それを持っていくかどうかは、もらった私が決めることだよ」
「僕が反対しても持っていくのか」
「なんでそんなわがまま言うのか本当に謎なんだけど……わかった。ブレイが嫌なら持っていかない。それでいい?」
まるで幼い駄々っ子とやり取りしているみたいだ。あきれながらフォルマが折れると、ブレイの視線が紙袋へ移った。
「これも全部家に置いていくから」
先回りして答えると、ブレイはようやくエラルドのお守りを紙袋に戻しかけ、再びポケットにしまった。
「ブレイ」
「……やっぱり、これは気に入らない。ごめん」
あやまるということは、よくない行為だという判断は一応ついているようだ。
「ブレイ、変だよ」
「……うん。何となく、自分でもそんな気がしてる」
何となくなのか。そういえば前に、おかしな言動をしたら注意してほしいとブレイに頼まれたことがあった。
「せっかく用意してくれたエラルドに悪いから、その辺に捨てて帰るようなまねだけはしないでね」
ブレイが不満げな容祖になったので、ずばり当たったのかとフォルマは慌てた。
「約束できないなら返して」
手を出したフォルマに、ブレイは渋々といった様子で「わかった。ちゃんと家に持って帰って処分する」と承知した。
結局捨てる気らしい。お守りなのに罰が当たらないだろうか。やれやれと肩をすくめ、フォルマは「帰るよ」と告げて歩きだした。
普段は冷静で、受け答えもしっかりしているのに、たまに子供っぽくなるから不思議だ。かといって、レオンのひねくれ方とも異なる。ちらりと見やると、まともに視線がぶつかった。
「今日、双子の弟は一緒じゃないのか」
「レオンはチュリブを学院寮まで送るんだって」
杖なしで歩けるようにはなったが、まだ危なっかしいから付き添うと言っていた。別に自分にまで言い訳をしなくていいのにとフォルマが笑ったら、レオンは真っ赤になってますますもっともな理由を並べ立てていた。少し前までは仲間をからかってばかりだったのに、最近はレオンのほうが皆にいじられている。
「フォルマ、寄り道して帰らないか?」
町の中央広場の屋台で今期限定で販売されている果汁があるらしいというブレイの話に、フォルマは興味を引かれた。
「いいね。行く」
即答したフォルマにブレイが微笑する。今しがたとは打って変わって上機嫌なさまのブレイに、フォルマもつられて口角を上げた。よく考えれば、ブレイと一緒に帰るのは初めてだ。
肩を並べて下校しながら、フォルマはブレイとたくさん話をした。どこの店の何がおいしいとか、好きな食べ物、苦手な食べ物、調子が悪いときの気持ちの切り替え方と話題はつきず、時間の経過が早く感じられるほどだった。
限定品だという飲み物もおいしくて、帰ったらレオンにも教えようと思った。
「お帰り。遅かったね」
玄関で出迎えたレオンに、「うん、ちょっとブレイと屋台に寄ってきた」とフォルマは答えた。
「うわあ、いっぱいもらったね」
フォルマがかかえている紙袋を見たレオンが、「予想以上だな」と目をみはる。
「おかげで助かったよ」
紙袋を持っていっていなければ、学院に置いて帰らなければならないところだった。
「男子からは?」
「ないよ。全部女の子から」
「さすがフォルマ」とレオンが笑う。
「……嘘だよ。一個だけ、男子からもらった」
「え、誰?」
「エラルド」
「へえー。フォルマ、エラルドと面識あったっけ?」
意外そうな顔をされ、フォルマはかぶりを振った。
「リリーたち風の法専攻生がかたまって歩いているときに偶然会って、少し話したことがあるくらいだよ。向こうもそれがわかってるからか、リリーを仲介役にして来た」
いきなりでごめんと照れ臭そうにしながら、エラルドはお守りをくれたのだ。武闘学科生の遊びにリリーが巻き込まれた日、男子に混ざって走り回るフォルマを見ていたらしく、それからずっと気になっていたと打ち明けられた。
急な話で驚いたと思うし、まずは友達からでいいので仲良くしてほしいという控えめな告白に、まあそれならとフォルマも承知した。いきなり交際を申し込まれていたらきっと断っていただろう。
「フォルマの性格をよく見てるな。エラルドはなかなかの策士だね」
ふむふむとうなずいてから、「じゃあ、エラルドのお守りを持っていくの?」とレオンが聞いた。
「それが……エラルドのお守りだけ、ブレイに回収されたんだよね」
「は?」
「自分だってたくさんの女の子からもらったくせに、私が男子からもらうのは嫌なんだって」
自室に向かうフォルマについていきながら、「それ、完全に嫉妬じゃないか」とレオンが言う。
「そう見えるよね、やっぱり……」
「前からそんな感じだった?」
「ブレイが顔にけがをしたとき、治療室に連れて行ったことがあったんだけど……変わったとしたらあのあたりからかな」
逃亡阻止と治療室への誘導で手をつないだら、ブレイのほうが離さなくなったのだ。それまでは代表と副代表として当たり障りのない関係だったのに、距離が一気に縮まった気がする。
もしかしたらその一件で、ブレイが形成している境界線のようなものを自分は踏み越えてしまったのかもしれない。
「フォルマはブレイのことをどう思ってるの?」
レオンの問いかけに、フォルマは「んー」としばし天井を見上げた。
「好きか嫌いかで言えば、好きだよ。今日も楽しかったし、ブレイから学ぶことも多いしね。でも男子が多い環境でへたに異性として意識すると、すごくやりにくくなりそうで」
だからそういう雰囲気にならないよう気をつけてきたし、これからもできればそうしていきたい。
「シータさんも恋愛事には相当鈍かったんだって。キュグニー先生がかなり苦戦したみたいだってリリーに聞いた」
キュグニー教官の細やかな愛情表現をさくっと受け流すシータを想像し、二人は同時に吹き出した。
「いかなることにも動じず、着実に物事を進めていきそうなキュグニー先生の唯一の難関が奥さんだったってのも、面白いね」
ひとしきり笑ったレオンは、「じゃあシータさんを見習って、フォルマも神法学科生を旦那さんにする?」と首を傾ける。
「僕が見るかぎりでは、エラルドは真面目で正直だし実力もある、かなり優良な候補だよ」
見た目も悪くないしねと付け加えられ、フォルマは「まあね」とうなずいた。それが少しばかり気のない反応に見えたのか、レオンが面白そうに瞳を細めた。
「フォルマ、やっぱりブレイのほうにひかれてるんじゃない?」
「……ひかれてるっていうか、放っておけない感じ。ブレイってちょっと変わってるんだよね。なんか、特殊な環境で育ったのかなって思うことが時々ある」
親しみを覚えてくれるのはむしろ歓迎だし、弓専攻をまとめる上でも都合がいいのだが、たまに垣間見える不安定さが気になるのだ。大人びた表面の裏側で厳重に縛られた子供のブレイがいるような、いないような――そのせいなのかどうか、ブレイに見つめられると怖くなることがある。
近づいてはいけないという警告は確かに聞こえるのに、見逃すこともできない。エラルドや他の男子では経験し得ないことが、ブレイとは起きそうな予感があった。
「そういえば、行事で離れて過ごすのって初めてだよね」
夕食の用意ができたという母の呼びかけが届き、階段を下りる途中でレオンがふり返る。
「心細いの?」
フォルマのからかいに、「そんなわけないだろ」とレオンは頬をうっすら朱に染めて口をとがらせた。
「不安とかはないけど、ちょっと寂しくはあるかな」
ぽつりと漏らされたレオンのつぶやきには、フォルマも共感した。生まれたときからずっと、いつも隣にいたのだ。レオンが元気なときはもちろん、病気で寝込んでいたときも可能なかぎりそばについていた。
今年ゲミノールム学院に入学して専攻が分かれ、常に行動をともにできるのは当たり前ではないのだと実感した。これから先、武闘館と神法学院へそれぞれ進学すれば、学校で顔を会わせることすらできなくなる。
「レオンはいいじゃない。チュリブと同じ専攻だから」
フォルマの言葉に、レオンが階段を踏み外しかけた。
「なんでそこでチュリブの話になるんだよ」
「専攻が同じなら毎日会えるし、一緒に過ごす時間も長いよね」
「……そんなのわからないだろ。関係が続くかどうかなんて……」
「え、もしかしてチュリブに愛想をつかされたの?」
思わず尋ねてしまったフォルマに、レオンが苦い顔をした。
「今のところ、それはないみたいだよ。チュリブはもう僕がどんな人間かわかってるし」
何でもさらりと器用にこなす理想的な人間に見られることの多いレオンが、本当は照れ性で皮肉屋であれこれ考えすぎるあまりたまにこじらせてしまうと、チュリブは知っているらしい。そのうえでまだ好きでいてくれる彼女に、レオンの好意も大きくなってきているようだ。
好きが募れば、相手の気持ちが離れてしまわないか心配になってくる。レオンは今、そういう心境にはまっているのだろう。
もっと自分のこともチュリブのことも信じればいいのに。見た目からはわからない不器用な一面がある双子の弟に、フォルマは苦笑した。
そして、たくさんもらったものの、お守りはやはりすべて家に置いていくことに決めた。
巻の半分くらいまで書き進んだので、これから3,4日~1週間に1話程度のペースで投稿していこうと思います。