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第九十七話(その2の16~17の途中まで)

オレは、急いで準備を整えた。

納屋を総ざらいして手持ちの武具、弾薬、漁具、秘伝の海図、とにかくありとあらゆる使えそうなモノをかき集めたんだ。


その目的は、言うまでもなく仇討ち。

あの黄金のシャチをブチ殺すためだ。


これまで何十年もヤツを殺すことに成功した者は誰もいないとか、大船団による漁も何度となく失敗してきたとか、最新の火器と大勢の人員と最高の漁師を動員しても、討伐の試みは全て失敗してきたとか、果ては、物価の目安にさえなってきたヤツの懸賞金も、先日、ついに取り下げられることになったとか…そんなことはどうでもいいんだ。


出来るか出来ないかとか、意味があるかどうかとか関係無い。

オレはただ、義務を果たす。


今度こそ、本当にやるべきことをしっかりやる、というだけの話だ。

だからオレは、出来るだけの準備を整えて、迷わず納屋を飛び出してーー



「もう、やめにしませんか?」

そこで私は、回想をさえぎった。


私は、ラムはもう嫌だった。

何もかもが嫌だった。


「テツモリさんは、この後も、結局『主』を倒せなかったじゃないですか!

大切な人がいなくなって、もう二度と取り戻せなくて…そして…そして、その人のために何かしようとしても、結局失敗してしまう!

そんな悲しい事実を再確認して、それが、一体何になるんですか!?」


それが、ただの八つ当たりに過ぎないことは分かっていた。

それでも、そう言わずにはいられなかったのだ。


どんなヒトも必ず死ぬし、どのようなヒトの試みも、その大半は必ず失敗する。


もう、そのことは身に染みて分かっていたから…私はもうとっくに、こんな誰かの悲しい過去になんて、付き合っていたくなくなっていたのだ。


ただ、問題があった。

相変わらず、ここからの出方が分からないのだ。


そもそも、このテツモリさんの“記憶の泡”に触れたのも、このよく分からない“夢”から出る方法を求めたからだったというのに…肝心の脱出方法については、未だに何の手がかりも得られていないのだ。


まあ、成果というか、分かったこともいくつかある。

まず、意識の戻し方だ。


これは、自分の身体を、何より心臓を意識することで戻ることが出来る。


それに、ここがどういうところなのか、それ自体は未だによくわからないが…確信出来ることもある。


この、まわりにあるのは、『記憶』あるいは『思い出』と呼ばれる何かであることだけは、間違いない。


そしてそれらは、いわゆる『精神』とか『魂』に分類されるものだ。

つまり、本来それらには、形も実体も無い。


触れたり、食べたり出来るようなモノではないのだ。


文字通り、つかみどころが無い幻影のような存在ではあるが…それならそれでやりようはある。


それらがふわふわした幻影だというなら、その真逆の存在、確固とした実体で押しのけてしまえば良いのだ。


例えば、この世界に唯一無二の器官である私の『心臓』とかで。


まあ、実をいうと、こうした理屈を思いついたのは、つい今しがたのことに過ぎなかったのだけれど。


私自身は、単にあまりに回想に苦しさを感じて…とっさに胸を抑えただけだ。

そうしたら、突然、やけに強い鼓動を感じて…気付いたら幻影が、回想が動きを止めていた。


どうも、それでもまだ“泡”の外にも元の世界にも戻れてはいないようではあるが…なんにせよ、事態に干渉することが出来たのは事実だ。


私の意志で、自由になる物事が出来たことに安堵あんどする。

まだ、本質的な問題は一切解決してはいないが、これはこれで進歩ではある。


少なくとも、ヒント、取っ掛かりらしきものはつかむことが出来た。

後は、それを押し広げ、もっと『上』へ、より『本質』に近いところへ近づいていくだけだ。


例えば、それはこんなふうに。


私は、自分の身体を強く意識する。


『心臓』の鼓動を感じた後、気付けば身体全体に存在する確かな実感が戻ってきていた。


これは、『回想』を追体験しているときの、他人の身体感覚ではない。


まぎれもない私自身の身体が在る、という実感だ。


私の『心臓』は、まだ料理されていないのだから、『心臓』があれば、残りの身体全体が存在するのは、疑いようのないことだ。


しかも、鼓動があるのなら、身体が生きており、身体が生きているなら、生きた私がここに在るのもまた、自明の理だと言える。


なんだか、妙に理屈っぽくなってしまったが…このよく分からない空間では、こんな当たり前のことすら、実証しなければ感じられないのだから、仕方がない。


要は何か、確固としたものを実感することこそが、ここで物事を『支配』あるいは、『制御』するための(今のところ)唯一の方法だということだ。

そこから推測するに、次に私がやるべきことは…


「テツモリさーん!」


こうして、叫ぶことだ。


…我ながら、馬鹿みたいに幼稚な言動になってしまったが、順序としてはこれで間違いないはず。


『心臓』の鼓動から身体が実感出来たのだから、次はその身体から放てる何か、つまりは声や言葉でもって、身体の外側へ呼びかければいいのだ。


そうすれば、おそらく……


「なんだー?」


"記憶の泡"と会話だって出来るはずなのだ!

良し!

後は……


「お願いです。

ここから出してくださーい!」


こうやって頼めば万事解決…


「ダメだ」


しなかった。

なぜだ!?

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