第九十四話(その2の14~15の途中まで)
「やべえ!
伏せろ!」
警告を発したオレは、返事を待つ間すら与えず、親友を押し倒した。
そうせざるを得なかったんだ。
なぜなら、次の瞬間…
ドカン!
と轟音が鳴り響き、海面に水柱が立ったんだ!
「うひいいいー!」
「うおっ!」
更に、波が荒れ、オレたちの小舟が大きく揺さぶられる。
その原因は、言うまでもなく…
「ほ、砲撃ですか!」
「ご名答!
『長老衆』のジジイども、オレが信用出来なくて、配下の船を潜ませていやがった!
さあて、こりゃあ一体どうしたもんかなぁ!」
音の源をたどれば、水平線の先、岩礁の陰から二隻の小型船が現れている。
あの型は、間違いなくこの『北方』の船、というかオレたち『防衛隊』の武装船だ。
どうやら、宴からこっそり抜け出したヤツは、オレ以外にもわりといたらしいな。
しかし、この世界の大砲は、積荷を傷つけないように、基本は威嚇目的だけで扱われるモンだって言うのに……
「いきなりの発砲とは、なかなかに元気な連中だな!
ハハハハ!」
開き直って笑うオレ。
それに対して、ハシバミはいたって正常だ。
顔を青ざめさせてヤツが言うには……
「笑いごとじゃないですよ!
逃げましょう!」
「こんな小舟じゃ逃げ切れねえよ
それに、どこへ逃げる?
『商会』や領主様を頼るにしても、『長老衆』と敵対したままじゃ、結局逃げ場がねえ。
嫌がらせどころか、関わりのあるヤツは全員脅迫や暗殺の危険にさらされるだろうし、『世界大戦』にはならないまでも、北方の内戦に発展する恐れもある。
そんなこと、お前ならとっくに気づいていたはずだ」
「それは…けど、今はそんなこと言ってる場合じゃありません!
このままじゃ、テツモリさんも死んじゃうじゃないですか!
それは絶対ダメです!
とにかく逃げましょう!
後のことは後で考えれば良いんです!」
「良いぜ、乗った!」
「は?」
なんでえ、せっかく即答してやったのに、シケた反応だなぁ。
「何を惚けた面していやがる。
お前の案だろ?」
「い、いや…だってさっきまで…
なんで急に乗り気になったんですか?」
「そんなもん、気分だ気分!
賭けは最後はノリで一点賭けに限るしな!
それに何よりーー」
ここでオレは、ようやくハチマキを締め直した。
望遠鏡はアイツの方に投げて、こっちは櫂をつかんで調子を確かめる。
そして、叫んだ。
「いつもブレーキ役をやらせてばかりのお前に、ここまで言わせてビビってちゃ、男がすたるってもんよ!
さあ、方角を指示してくれ!
どうせ今日も小型磁石とか持って来てるんだろ?」
善は急げというわけで、オレたちはさっそく行動を開始した。
オレが櫂をこぎ、ハシバミが逃げる方向を示す。
出来れば反撃してやりたいところだが…残念ながらその手段が無い。
火器の類は、領主様の管理下にあるということを除いても、こんな適当に乗ってきた小舟じゃ反撃の仕様が無いんだ。
だって、モリ一本積んじゃいねーからな!
ハハハハ!
そこで問題になるのが、敵の砲撃をどこまでかわせるか、というその点だ。
こっちは、一発でも当たったらお終いだからな。
とはいえ、それでも全く希望が無いわけでもない。
なぜなら、さっき言ったようにこの世界で“砲撃を敵に当てる”というのは、かなりまれな事態だからだ。
実のところ、『防衛隊』の任務でさえ、船を砲撃で沈めた例は数少ない。
せいぜい、間違って撃沈したパターンが年に一、二回あるかどうかというくらいだ。
だから、こちらが小さい的であることを利用して逃げ回れば、地の利ならぬ“海の利”があるこっちが逃げ切れる可能性は低くはない…はずなんだ。
なんだが……
ドカン!
ドカドカン!
……
ドカン!
ドカドカドカドカドカン!
……
「あのー!」
「…なんだ!
今、忙しい…から、手短…にな!」
「だいじょーぶですか?
なんだか、めちゃくちゃ撃ってきてますがー!」
「…き、聞こえねーなー!
もう一回頼む!」
「だ、か、らー!
だいじょーぶですか、って聞いてるんですよー!」
「なぁに、オレはまだまだ疲れちゃいねーよ!
このまま一晩中だって漕ぎ続けられるね!」
「いや、そういうことではなくてですねー!」
「ハァ?
聞こえねーな!
砲撃の音がうるさすぎる!」
まあ、実際にはきっちり聞こえているわけなんだが。
ともかく、この状況はヤバい。
これだけ連射されれば、いくら慣れてない砲手が多いといっても、いつか必ず当たっちまうだろう。
『難聴系』のフリをしてごまかすにも限度がある…そっちはたぶんバレてるだろうし、まあ良いんだが。
その時だ!
一際大きい爆音と共に、海上に木材が砕け散る音が響き渡った。
懐かしのガドの小屋を思い出させる衝撃、破壊の響き。
だが…それによって砕かれたのは、なんとオレたちの小舟…ではなかった。
砲撃音がそれきりピタリと止む。
止まざるを得ない。
なぜなら…




