表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/240

第九十三話(その2の14の途中まで)

それでオレは、


「す、すまん!

こんなつもりじゃ!」


と、あわてて取りつくろおうとしたんだ。

だが、ヤツの返事は…


「…良く出来ました。

快気祝いに…お返しです!」


「ごふぁ!」


再度の拳だった。


良いだろう……

仕方ない。


そっちがそのつもりなら、こっちだって…!


「そんなに殴られてえなら、お望み通りにしてらやるよ!

オレに失望して、見捨てたくなるまで殴ってやる!」


というわけで、オレは叫びながら、ヤツ目がけて突進した。


幸いにも、さっきのハシバミのパンチは、最初のやつに比べればだいぶ弱かった。


野郎、腕を持ち上げて一丁前に『構え』なんかとっていやがるが、どうやら今はちょっと遠慮が入っているらしいな。


これは、西国にあるという『拳闘術』か?


そういやアイツ、護身用に西国から流れてきた荷役夫のおっちゃんに、そんなの習ってたな。


とはいえ、本気で向き合えば、所詮はケンカひとつしたことがない『インテリ』の拳に過ぎない。


なんだか小刻みにパンチを繰り出してきてるが、こうして防御を固めて突進すれば、痛くもかゆくも…!


しかしこの時、オレはあまりに無知だった。

そして何より、気づくべきだった。


さっきからハシバミは、“右の拳”しか使っていない、ということに。


わずかでも『拳闘術』の知識がある者なら、誰でも知っていることではあるが…『拳闘術』において『右のジャブ』は、相手との距離を測り、牽制けんせいをするだけの、いわば“準備段階”に過ぎない。


(だからといって、甘くみていい攻撃でもないが)


それゆえ、むやみに突っ込んだオレを待っていたのは……


「ぶげはぁ!」


当然、狙い澄ました、『左の本命攻撃』(ストレート)だったんだ。





その後は、泥試合だった。


殴り返してはまた殴られ、アイツが『東国』の柔術で投げに入れば、またオレが、土俵際ならぬ船縁で踏ん張っては投げ返す。


そしてついに……


「痛えっつってんだろ、この野郎!

良いだろう!

こっからが、本当の勝負だ!

【北海】の漁師のケンカ殺法 対 東西の武術混合。

どっちが強いか、決着つけよーぜ!」


「望むところです。

コテンパンにしてあげますよ!」


そういった流れにまで、発展してしまったのだ。


この時すでに、そういえば今、アイツを危うく海に投げ落とすところだったことへの恐れ、とか……


そもそもこの【北辺海】に何をしに来たのだったかという理由さえも、いつの間にかオレの頭からは、すっかり消えていたのだった……





そして私は、このラムは、困惑するしかなかった。

…これは一体、どういうことなのだろうか?


この人たちは、一体何をやっているのだろうか…?


私が目撃しているのは、間違いなくケンカのはずだ。

親友二人の、悲しいすれ違い。


仲の良い友達が、大きな、国々を動かすような、とても大きな欲望や人々の思惑によって、どうにもならないところへと追い詰められてしまった……


そんな悲劇を、私は見ていたはずだったのだ。


なのに、

それなのに。


私の目の前で繰り広げられていた光景は、どう見てもそんな感じではなかった。


ええと、なんというか……

馬鹿みたいなんですが……


それに何より、驚くべきことはまだ他にあった。

それは、あの二人の表情だ。


あの男たちは、互いに殴り合いながらも、まるでそれが最高の楽しみであるかのように、無邪気に笑っていたのだ。


そんな光景を前に、傍観者ぼうかんしゃでしかない私は、ただただ、困惑するしかなかったのだ……




「ハァハァハァハァ…」


「ハァハァハァハァ…」


さんざん殴り合った後、オレたちは疲れきって小舟の中に横たわっていた。


「もういい加減にしませんか?」


「…だな。

もう限界だ。

こんなことなら、最初からお前と一緒に『長老衆』に殴り込めば良かったぜ……

いっそ逆らうヤツは片っ端から殴り倒して、オレたちが…新しい『長老衆』になるか?

それなら、もう誰も文句は言わねえぜ…!」


「さすがにそれは、どうかと思いますよ…」


あまりにやぶれかぶれな提案に、ハシバミのヤツも、さすがにあきれぎみだった。

まあ、こんなやりとりもいつもの事ではあるんだが。


こうしてアホな会話をしたことで、気持ちが落ち着いて来た。

二人とも、やっといつもの調子を取り戻した感じだ。


と、思えば…

アイツは急に黙り込んだと思ったら、首を伸ばし、キョロキョロとあたりをうかがい始めている。


なんだ?


「いや、今は海賊退治の祝宴で、舟を出すヤツなんてオレら以外にはいないはず…まさか!」

ふところから、小型の望遠鏡を取り出す。


案のあんのじょう、さっきの乱闘でヒビが入っちまってるが、まだ充分に使えるようだ。


助かる。


さて、何がいるのか…って、これは!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ