第九十二話(その2の13~14の途中まで)
誰も聞いてくれない過去の中で、一人孤独に抗議する。
…空しい。
…けれど、けれどもなぜか同時に、私はこの光景から目が離せなくもあった。
あの二人の行く末なんて、もう分かりきっているというのに。
一体、こんな遠い昔の出来事が、今の私に何の関わりがあるのか。
その疑問が解けないまま、私は、ただ目の前の光景を見つめ続けた。
その、一方的な暴力に…いや、違う。
その二人の悲しいすれ違いといさかいに、私とあの人との上手くいかなかった話し合いを重ねてしまいながらも…ただ私は、見つめ続けたのだ。
※
※
※
そんなことは、完全に予想外だった。
オレがコイツにそこまで慕われているなんて……
「そんなんじゃねえよ」
そう言うしかない。
だって、
「だって、財産の量にしても人気にしても…そして何よりその能力や技量にしても、お前はオレよりも遥かに上回っているじゃねえか…
お前に対処出来ない状況を、オレがどうにか出来るわけがねえよ…」
「貴方という人は…!
ここまで訴えても、まだそんなことを言うのですか…!」
それを聞いた親友は、これまでよりも顔を更に赤く染め上げ、拳を関節が白くなるほど強く握りしめて構えた、が…すぐに力なくそれを下ろした。
ついに完全に、あきれられちまったみてえだな……
ずっと憧れていたっていう相手がこのザマじゃ、無理もねえ話ではあるが……
だが、ならば一体……
「オレは…オレは…」
コイツに対して、何をしてやれる?
その問いに答えられないから、オレはこうして、小舟の中で小さくうずくまるしかない。
だが、ハシバミは、そんなヘタレたオレに対しても容赦が無かった。
「ナギサさんのことにしても同じです。
たとえ貴方がボクを首尾よく殺せたとしても、あの正義感が強い彼女が、それを見落とすとは思えない。
あの人は、必ず気づく。
そして、『長老衆』にケジメをつけさせようとするでしょう。
たとえそれが、どんな結果をもたらすとしても…」
「そ、それは…」
オレはこのまま殴られ続けているのが、一番良いのかもしれない。
個人的に、色々考えて最善を尽くしたつもりだった。
だが、甘すぎた。
眼帯ジジイには見事に出し抜かれたし、覚悟したつもりでも、結局、コイツのことを殺すことは出来そうにない。
あげくの果てに、こうして殺すはずだった相手に、考えの足りないところを指摘されてる、ときたもんだ。
いっそ、このまま殴り殺されて、海に沈められてしまうべきかもしれないなぁ……
そうすれば、もう何も失敗せずに済む。
何かを考える必要もなくなる。
そうだ。
オレの方が、死ぬべきだったんだ。
寒い……
じっと船底にうずくまっているせいで、寒さがひしひしと感じられるようになってきた。
疲れた。
そして、なんだかとっても眠い……
正直、ハシバミが何を言っているのかも、分からなくなってきたくらいだ。
ただただ、非難の意図だけが伝わってくるだけ。
オレは、何も言い返せない。
もう、あいづちを打つことぐらいしか、出来ないんだ……
「貴方が、○○○○なのが、悪いんですよ!」
そうだな、その通りだ。
「○○○○!○○、○○!」
ああ、オレが全部悪い。
「○○○○!○○、○○!」
そうだな。
「ーー!ーー!ーー?」
もう何も聞こえねえが、たぶん、いや絶対そうだ。
だって、オレが悪いんだから。
そうしてオレは、延々と続く説教の中、ひたすら同意していたんだが……
そのうち、意識すら朦朧としてきた。
そんな中、なぜかただ一言だけが、妙にくっきりと意識に響いてきた。
「貴方のせいで、ナギサさんがなんて言われているか、ご存じですか!?
×××××ですよ…って、ぶへヴぁ!」
あれ?
それが聞こえたとき、なぜか、一瞬だけオレの意識が飛んでいた。
そして…気がつけば、アイツが後ろに吹き飛んでいる。
なぜだ?
とにかく、ハシバミは、それで小舟から落ちそうになったが、それでもなんとか、たたらを踏んで持ち直したようだ。
良かった。
この真冬の海に落ちたら、あっという間に天国へ行っちまうからなぁ。
オレは、さっきまでむしろ率先してそれを実現させようとしていたことなど棚に上げて、胸をなで下ろしていた。
しかし、今、一体何が起きたんだ?
オレは、自分の右手を見つめる。
あれ?
なんで拳に、ケンカのときみたいな感触があるんだ?
さっきオレは…何をやっていた?
「…ちゃんと出来るじゃないですか。
てっきり、ケンカする気力すら無くなったのかと思ってましたよ」
ハシバミが言う。
それで、ようやく状況を理解した。
いけねぇ、今回はホントに無抵抗でいくつもりだったのに、やっちまった!
と、とりあえず、早く謝らねえと!
「そ、そんなつもりじゃ…
すまん、つい手がすべ…」
オレは、勢いよく身体を動かして土下座の体勢を…
「もう一度言いますが、ナギサさんは、実に×…ぶげっ!」
「もう一度言えるモンなら言って見ろ、ゴルァ!」
体勢を取ろうとして、なぜかそのまま、勢いよく親友を殴り飛ばしていた。
あれ?
あれぇ?
い、いけねぇ。
というか、なんなんだこの展開は!
今、オレはしっかり厳粛に反省してたはず…してたよなぁ?




