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第九十話(その2の11~12の途中まで)

「…その場合、今度はオレたち北方が危機に陥るからだ。

これまでは、航海や保存食の技術が未発達で、北方が侵略されることなんてありえなかった。

けど、今は違う」


「そうか!

ボクたち『商会』が、メクセトの技術を再発見してしまったから…」


「そうだ。

おまけに、北方は田畑が少なくて、石炭や石油を掘り出しやすい。

東西をつなぐ航路の利権もあるし、技術を持つ『商会』だって他国からしたら垂涎すいぜんの的だろう」


「そんな!

北方には、ちゃんとそこで誇りを持って生きているヒトたちがたくさんいるのに!」


「そんなことおかまいなしで侵略したいほど、利益があるってことなんだろうな。

今は東西がお互いに牽制けんせいし合っているし、お前のコネや技術があるからまだなんとかなってるが、このままじゃ、北方が征服されるのは時間の問題だろう。

それでも、ここらの地元勢力を結束させて、お前に協力させられれば、それもどうにかなったんだがな…」


南方へ避難する案では、ハシバミが利権争いの対象になることはないが…その代わり、北方の土地やそこから得られる利益を巡る争いが、いよいよ本格的に始まることになっちまう。

コイツを利用しようとするなら、その故郷である北方は一種の『人質』として利用する価値があるから、そうまでひどいことにはならねぇはずなんだがな……


南方は、むしろ陸路の交易を邪魔したい側だし、たとえハシバミがそっちを味方につけることが出来た

としても、北方に加勢することは出来ねえだろう。

そもそも、地面を掘ることすら苦労するらしい南の密林じゃ、新技術に必要な地下資源は取れそうにねえしなぁ……


「けれど、『長老衆』の方々は、ボクの暗殺を命じてしまったというわけですか…

大陸中央部に交易路を通すことが出来れば、みんな侵略より交易の方が得だと分かってくれて、そうした事態もなんとかなると思っていたんですが…」


「なるほど、お前としてはそんな思惑があったわけか。

残念だが、それが逆効果だったな。

眼帯ジジイたちは、【メクセトの十字路】を復活させようとしているお前を見て、侵略を手引きしてるんじゃあないか、とビビリまくってるぜ」


「そ、そんな…」


落ち込んだ親友は、崩れ落ち膝を抱えてうずくまってしまった。


む、これはダメっぽいな…


オレは、立ち上がってハシバミに近づき、気持ちを和らげようと言葉を投げかけることにした。


「まあ、あんまり気にすんな?

国際情勢なんて、しょせんどうなるか分からねえもんだ。

いち個人が、いちいち責任を感じるべきじゃない。

ほら、お前だって、『商会』の長としてあちこちにコネがあるんだ。

どっかに迎えてくれる恋人の一人や二人、いるんだろ?

まずはソイツに、なぐさめてもらえ。

とにかく今は逃げて、気持ちを落ち着かせることだ。

後のことは、それからゆっくり…」


「いませんよ!」


「へ?

いない?

いや、そんなこたぁねえだろう。

お前、こないだだって、西の国のお姫様とあんなに親しく…」


「あれは、ただの商談です!

嫁入り道具の相談に乗っていたんです!」


「えっ!?

じゃ、じゃあ東だ!

あっちの大店おおだなのお嬢様もお前と親しかったはず!」


「…去年、ボクが数日間予定を超えて、東に滞在したことがありましたよね?」


「あ、ああ。

オレはその時も海賊退治でいなかったから、あまり詳しくはないが…

そうか!

その時、お嬢様としっぽり …というわけじゃないんだろうな、この話の流れだと」


「ええ。

あの時、ボクは監禁されていました」


「おおう!

それはまた特…独特な趣味だな!

だが、人間、恋に落ちれば大抵のことは見過ごせるらしいぞ!

現にオレも、ナギサの失敗料理を何年食べて腹を壊しても…」


「拷問もされました。

それから、おりに入れられて、首輪もつけられましたね」


「そ、そうか。

それは…それは災難だったな。

ホントに」


「ええ、本当に大変でしたよ。

最終的には、『商会』に弟がいる侍女さんの手助けで脱出しましたが、海を何キロも泳ぐ羽目になりましたね」


「そうか…ちなみにその、」


「侍女さんは、三ヶ月前に結婚しましたよ。

貴方も祝っててくれたじゃないですか、結婚式」


「あ、あー。

あのスピーチの“命の恩人のような方”って言うのは、マジだったのか」


「ええ。

大マジですよ。

分かったら、ボクのことはもう放っておいて下さい。

…というか、そういうテツモリさんの方はどうなんですか?

ナギサさんとは上手くいってるんですか?」


「そ、それは…まあ、色々と事情が…」


「何が“色々と事情が~”ですか!

彼女の事情はご存知でしょう?

ボクらの間でなら、料理下手もジョークで済みますが、よそではそうはいきませんよ。

貴方以外、誰が彼女と結婚するというんですか?」


「…異世界には、結婚しない生き方だってあるらしいぜ」


「ハッ!

言うにこと欠いて“異世界”!

そんなの、自分の責任を投げ出しただけの“逃げ”じゃないですか!

今ボクは、貴方がどうしたいのか、それをお聞きしてるんですよ!

イエスかノーではっきりと答えて下さいよ、あちこちでモテモテの『北方守備隊長』のテツモリさん!」


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