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第八十六話(その2の8~9の途中まで)

「なんだと!」

「今、ハシバミ君と『商会』にはかなりの人気があります。

このまま彼を殺しては、たとえ領主様には分からなくとも後に禍根が残るでしょう

だから、料理勝負という形でどうすべきかを決めるのです」


「それで、全ての北方の民が納得するというのか?」


「させましょう。

ここの皆が証人となり、勝負の結果には決して反抗しないことを新たな掟として定めるのです」


「フン…仕方があるまい

その代わり、ひとつだけ条件がある」

「なんでしょうか?」


「ヤツを処分するときには、お前の孫も加わるのだ」

「そ、それはあまりに無慈悲な…」


この暴言には、流石さすがにジイちゃんもビビるが……


「いいぜ、やってやる」


オレは、承諾した。


「ほう、本気か」

「ああ、そうなったらオレひとりでカタをつけてやるよ

ここで誓ってやる」


そしてオレは、久しぶりに正式な誓いの言葉を述べた。


あの夏と違って今回は、神々だけじゃなく『長老衆』が勢揃いしている前での誓いだ。


これにそむけば、村八分どころか一族全員が皆殺しにされることだって十分に有り得る。


これで決まり、か…?


とにかく、もうこれに賭けるしかねえ。


ハシバミ本人が、新しい鍋なり石炭ストーブなりの工場の新製品を持ち込んで、みなに美味いものを食わせられれば、『長老衆』も一発なんだろうけどなぁ……


だが、その肝心のヤツは出張中だし、オレらには、あのジジイを上回る権力も人手も無い。


まさか、そこらの若いのを集めただけの『守備隊』を使うわけにもいかねえし、そもそも『長老衆』相手に故郷を戦場にして戦えるわけがねえんだ。


とにかく、やれるだけやってみるか……





そして、勝負の日が来た。

来たんだが…


「誰も来ねえ…!」

「ククク…無様だな、若いの」


「ちきしょう!勝負以前の問題かよ!

眼帯ジジイ!

テメェ、食材と料理人、両方を妨害しやがったな!」


そう、指定された決闘場所に用意できたのは、オレ自身が持ってきた最新の料理器具と道具だけ。

それ以外は、何一つ来てはいなかった。


だが、食ってかかったオレに対し、ジジイはあくまで平然とした態度を崩さなかった。


「ハテ、なんのことかなぁ?」

「ちきしょう!」


いっそのこと、一発ぶん殴りたいところだが、それすら出来ない。

野郎は、用心深く護衛に囲まれていやがる。

そこへ、周りから声がかけられる。


「こうなれば、やるべきことは一つしかない」

「分かったな?テツモリ」

「頼むぞ、テツモリ」


皆の視線が、そして期待が、オレめがけて矢のように降り注ぐ。

どいつもこいつも勝手なことばかり言いやがって……


そうして、オレの親友の、いや、オレたちの運命は、その日に既に決まってしまったんだ……





久しぶりに会った親友は、ずいぶんと背が伸びていたが、身体にはちっとも肉がついていなかった。

しかし、それを除けばあの頃のままだ。


「お久しぶりです!」


このまま、いつまでも話し続けて時間を潰したいところだが、そういうわけにもいかない。

この港町でも、監視の目はそこかしこにある。


オレは、適当なところで会話を打ち切り、誘いをかけた。


「帰ってすぐで悪りいが、ちょっと沖まで出ねえか、話したいことがあるんだよ」


我ながら、不出来な言い訳だ。

オレが変わっていないのは、こんな欠点だけかもしれねえな……


ともかく、ハシバミはオレの誘いを断らなかった。

本音を言えば、オレは断って欲しかったのかもしれない。


ああ、分かってたさ。

コイツが、とことん間の悪い、不運ババばかりつかまされてしまうヤツだってことはさ。


空気が読めないくせに、何にでもズカズカ首を突っ込みやがるから、こういう目にうんだよ……


今回だって、わざわざ帰って来ないで、どこなりと家でも建てて住んでいれば良かったんだ。


オマエの爺ちゃん婆ちゃんだって、もういいかげん、墓参りも遠慮して欲しがることだろうぜ。

いいからオマエは、早く嫁さんでももらって幸せになれ、ってな。


今じゃ、元からの機械技術に加えて財も地位もあるんだから、どこでだってやっていけるだろうに……


バカだ。


本当にバカだ。


なんで……


なんでオレは、こんなにもバカなんだろうか……


コイツは、こんなにも良いヤツで、ここは今じゃ、コイツの唯一の故郷なのに……


なのに…なんで、オレはコイツのために皆を説得してやれなかったんだ……?


だが、この場においては、オレに出来ることには大きな限界があった。


「…分かりました。

任せてください」


もう、そう言うしかなかったんだ……


「すまん、テツ…ワシにもっと力があれば…」


「良いんだよ、ジイちゃん。

全部オレが悪いんだ。

材料も料理人も、全部味方のツテを使ったはずだった。

そうすれば、上手くいくと思っていたオレが悪かったんだよ。

昔からの仲間に頼りさえすれば、なんとかなると思い込んでいた、バカなオレが……」


『長老衆』の抵抗は、オレの予想以上に強かったというわけだ。


思えば、あのとき賛否が真っ二つに分かれていたのも、あまりに都合が良すぎた。


その内の何人かは、寝返るまでもなく最初からあちら側だったんだろうな……

ちきしょう、今になってそれに気づくなんて…!



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