第八十二話(その2の5~6の途中まで)
だが、やはりーーダメだった。
本当に最後の決め手を、ヤツ自身が打ってしまったのだ。
それは、アイツが後生大事に抱えていた巨大な鈍器だった。
ムカつく相手に一撃。
本来なら、あらゆる面倒事がそれで片付く。
しかし、今回片付いてしまったのは、他ならぬアイツの方だった。
視界不良、迫る熱気、焦り、頭部へ浸透した衝撃、右腕の傷。
そして、これまで蓄積された疲労。
全てが合わさり、破滅を呼んだ。
牛男は、破れかぶれの状態で鈍器を振り回した。
それでも、その打撃は未だに強い力を持っていた。
その一撃は、横倒しになった戦車を砕いた。
そして、その破片はアイツに突き刺さり、楔となってその肉体を大地につなぎ止めた。
続けた二撃目も、肉を裂き骨を砕くほど強力だった。
だが、砕かれたのは、アイツ自身の肉体だった。
強大すぎる打撃は、勢い余って死体を軽く通り抜け…牛男の足を破壊したんだ。
しかも、その破壊の影響はそれだけでは終わらなかったんだ。
破壊された戦車がばらまいたのは、その破片だけじゃなかったんだ。
伝説によれば―ー【メクセトの戦車】には、火炎放射器がついているとされている。
つまり、その中は大量の油で満たされているんだ。
よりにもよってアイツは、それを全力でぶっ叩いてしまった。
当然、油がぶちまけられる。
火に巻かれているアイツの足元に。
それからの展開もあっという間だった。
炎は舞い上がり、全てを呑み込む。
巨大な炎の幕に、人影が踊った。
その時、オレは思った。
思っちまった。
大きく映し出されたその影は、まるで神話の英雄のようだ、と。
腕を大きく振り回す姿は、どんな困難にも立ち向かい、あらゆる敵をなぎはらう不屈の戦士のように見えたんだ。
それが実際には、苦しみもだえているだけだったとしても、オレにはそれが……そんなふうに思えてならなかったんだよ。
ソイツはただのチンケな犯罪者でも、時代に置いていかれた敗北者でもない。
ただ、ちょっと生まれる時代を間違えただけの、少し遅く出てきただけの英雄だったんだって。
それが…ヤツの末路だった。
小屋の跡地は、肉が焼けたにおいであふれていた。
だがもちろん、ガドの肉は、誰も食べなかった。
そのことが、知恵があるヒトの肉も食べていた、古代の【武将】の時代の終わりを示しているようで。
オレは、ちょっとだけやりきれなかった。
そうして、誰もがあまりのことにぼうっとしているところに……
ぐーーーー!
奇妙な音が響いた。
みんなの視線がハシバミに突き刺さるなか、真犯人は勢いよく手を挙げる。
オレだ。
こんなとき、言うべきことなんて、ひとつしかないだろ?
オレは、きょとんとしている仲間たちの顔を見渡し、こう提案した。
「早くウチ帰って、メシ食おうぜ!」
その意見は、全会一致をもって迎えられたのだった。
昼はもう過ぎたが、太陽はまだまだ明るい。
疲れ果てたガキどもを、それぞれの家が待っており、そこへ帰る時間はまだたっぷりと残されていたのだ。
夜はまだ、遠かった。
そして、それから何年か経ち…オレたちは大人になった。