第八十話(その2の4~5の途中まで)
「あっはっはっは!
アイツやりやがった!
いいぞ!行っちまえ!
ゲホッ、ゲホッ!」
オレは大声で叫んだあと、せきこんじまった。
だが、心は晴れやかだ。
「くっ…アイツは逃げたんだぞ!
お前たちを見捨てて、自分の身だけを守ったのだ!」
「いいや、違うな!」
それがなぜなのか、まずは目の前でボケっと突っ立っている【牛人】に説明してやる。
「アイツは、オレたち全員を助けてくれたんだ。
お前の大事な大事な戦車を持ち逃げすることでな!」
「なんだと!?」
さて、こっからはまた交渉の時間になりそうだな。
まず、前提として現状をはっきりさせておかねえと。
「どうする?
大事なお宝の戦車は、行っちまったぜ。
ハシバミは、たぶんこっちへ向かっている村の大人たちが、戦車ごと捕まえるだろう。
お宝を返して欲しけりゃ、アンタはもう人質を解放するしかない!」
「な、なんだと!」
「つまり、これでオレたちの立場は対等だ。
アンタもまさか、いつまでもこんなところに引きこもっているわけにもいかねえだろ?
なあ【剛腕のガド】様よぉ、もう殺すだの何だのはやめにしないか?」
「なに!?」
「アンタが本当に憎いのは、兄貴の仇なんだろ?
だったら、アンタが一番復讐したいのは、ソイツのはずだ。
なにも、オレたち【猿人】(さるびと)全員をいちいち殺し回って、油を売る必要はないはずだ」
「そ、それは…だが、」
迷う牛男。
よし、ここが“攻め時”だな!
イチかバチか、いっちょ押してみるか!
「そこで提案だ。
アンタに戦車を返そう
その代わりに、オレたちを解放して、アンタはここから立ち去ってくれ」
「待て!
それでは、こちらが損をするばかりではないか!」
「いいや、そうでもない。
だって、このままじゃ、アンタは確実に殺されるからだ」
「なんだと!」
そこで、手を突き出していきどおるガドを抑え…ようとした。
が、腕が途中で動かなくなっちまった。
仕方がないので、首を大きく振る動作に切り替える。
中途半端に持ち上がった腕については、横に広げて平泳ぎみたいな身振りということでごまかすしかない。
よし、マンガでたまに見るポーズにちなんで、これを“カレーの舞”と名づけよう。
これこそ、この【北辺海】に伝わる伝統的な親しみの動作…だと誤解してくれるなら、こっちとしては助かるんだがなぁ。
なにしろ、本当に今度こそ後が無い。
ここでこの交渉を成功させなければ、間違いなくこの場の全員がオダブツだ。
精進料理はあまり好きじゃないし、出来れば、新鮮な魚が山盛り食べられるような未来に進みたいもんだ。
オレは、みんなを助けるために、自信満々なフリを続ける。
ケガで死にかけの男なんかには、誰もついてきやしないからだ。
…たとえ、それがまぎれもない真実だとしても。
オレはみんなを助けたいし、もちろんオレ自身だって、出来れば死にたくなんかはないんだ。
…それに、それにオレは、出来ればガドのヤツだって助けたい。
だって名家のボンボンという意味では、オレもヤツも大して変わらねえからだ。
コイツは強いし、十分苦しんでいる。
何の罪もないヒトを殺したことと、ガキどもを傷つけておどし、利用しようとしたこと、手当たり次第に八つ当たりをしようとしていることなんかは、いまだに許せないが……
その元々のこころざし自体は十分に正義だと言えるし、共感も納得も出来るものだと、オレは思うんだ。
まあ、一言で言えば、ケンカしているうちに情が移ったと言っていい。
だから、なるべく全員がそれぞれ利益を得られる方向性で、『うぃんうぃん』で話をまとめたいところなんだが……
まあ、やれるだけやってみるか。
というわけで、オレは交渉を続ける。
「だから、アンタはオレたち人質を解放して、その代わりに戦車を戦利品として手に入れれば良い。
戦車だけでもアンタの故郷に持ち帰れば、ある程度はどうにかなんだろ。
誇りとか名声とかはさ。
アンタは戦車を手土産に【剛腕のガド】の名を地元で高めて、元の地位を取り戻す。
復讐については、これまでとは違う方法でやれば良い。
たとえばーー戦車を使って荷物を安全に運んで稼ぎ、手に入れた美食で犯人の調査をやり直す、とかな」
「そ、そんなふうに上手くいくものか!」
「いいや、出来るさ。
なんなら、【メクセトのキッチンカー】も一緒に復活させれば良い。
ここいらのような反メクセトの地域でも、【キッチンカー】の伝説は有名だ。
アンタが復活させた戦車は、間違いなく本物なんだから、それに護衛させて【キッチンカー】を売り出せば、絶対確実に大もうけが出来るさ。
ここいらの海の幸に加えて、アンタのツテで山の幸もメニューに載せれば、通行税でつまみ食いされまくっても、十分に採算が取れるだろうよ」
まあ、それを実現させるためには、山ほど手続きや交渉が必要だろうが…決して不可能な話じゃない。
伝説を再現させる名誉やその味をエサにすれば、事業に一枚噛もうとするヤカラは多いはずだ。
この時点で宣伝とシホン?のメドがつくんだから、上手くいく確率はそれなりに高いだろう。
後は、オレの親父とナギサの家族、ガドの知り合いを通じて各地の領主のお墨付きさえもらえれば、成功したも同然だな!
さて、これで話がまとまれば棒々鶏もとい、万々歳なんだが……




