第七十九話(その2の3~4の途中まで)
ヤツが修理したばかりの、『メクセトの戦車』を引っ張るーー石で出来た馬。
それがどんな仕組みで作られているかは、戦車好きのオレでさえ分からない。
メクセトは、戦車なんかの兵器の細かい部分を、誰にも明かさなかったからだ。
特に、あの石の馬については詳しい話がどこにも伝わってない。
巷じゃ、実は“生きている”なんて話すらあるくらいだ。
修理が出来るヤツが現代まで生き残っていただけでも驚きだが…だからといって、ハシバミのヤツが石の馬のことをなんでも知っているかといえば、それはあり得ないだろう。
ほら、今めっちゃ驚いてるし。
そして、仰天したのは、ハシバミだけじゃなかった。
「な、なんだ?」
ガドのヤツも驚いている。
それがなぜかと言えば…例の石の馬が、今度はいななく以外の振る舞いを見せ始めたからだ。
ガガガガガガガガ……
なんと、ソイツは突然、身体をやたらと震わせ始めたんだ。
病気なのかなんなのか、そもそもどう見ても石なのに病気にかかることはあるのか。
疑問は尽きないが…それはやっぱり、オレには分からないことだった。
そして肝心なのは、
「おい、どうなってる!
お前、直したんじゃなかったのか!?」
「わ、分かりませーん!」
この場にいる誰にも、その真相が分からないということだ。
要するに、全員お手上げだった。
そうこうしているうちに、また、馬のいななきが響き渡る。
ヒヒーン
ヒヒーン
そして、馬の震えも、更に激しさを増していき…
ガガガガ!ガガガガ!
その音は、嵐の海もかくや、というほどに大きくなっていった。
マンガで読んだ異世界の『道路工事現場』というのは、こんな感じなのかもしれない。
いや、待てよ。
マンガといえば、機械がこんな感じの音を立てるときは、マンガでは大抵…!
重要な事実に気づいたオレは、思わず叫んだ。
「早く逃げろ!
ソイツ、爆発するかもしれないぞ!」
「ば、爆発!?」
「なんですか、それ?」
だが、上手く伝わりやがらねえ。
そこで、なら村の仲間たちはどうかと、背後の気配をうかがってはみたが……
「ほら、アレだ。マンガで下手な料理が破裂してみんな髪がモジャモジャになるヤツだよ」
「あ、あー!
でも、ナギサ姐さんの料理が破裂したところなんて、一度も見たことねえですよ。
黒こげや生焼け…あと、口から火を吹きそうなくらい辛くなったり、みんな吐いたりはしやしたが」
「なるほど、異世界程度の下手さじゃ、姐さんの足元にも及ばねえってことっすね!
納得っす!」
「あんたたちねえ…」
「ひ、ひぃぃー!」
「わぁあー!フレイルだけはご勘弁を!」
あ、そうか。
コイツら、料理マンガ以外のマンガを読んだこと無いのか。
そういえば人気なかったな、そういうジャンル。
知識の共有がないから、話が通じないんだ。
料理だって、写真やイラストで完成後のイメージや手順を知っているかどうかで、調理の手際の良さが変わってくるからなぁ……
やっぱり、勉強って大事なんだな……
って、そうじゃない。
そうじゃない!
「バカやってんじゃねえ、死にてえのか!
早く逃げろ!」
まあ、オレ自身はダメージが残っていて、どうにも動けそうにないんだけどな…
それはともかく、そうこうしているうちにも事態は構わず進行していた。
ヒヒーン
ヒヒーン
ヒヒヒヒーン!
鳴き声は、何度も繰り返され、高まっていく。
「こ、この!
とにかく俺様の戦車から離れろ!」
あ、ヤバい!
ガドが、緊張に耐えきれずにキレやがった!
しまった。
そういやあのヤロウ、追い詰められると、どんな状況でもとりあえず暴力を振るって解決するヤツだったな!
そんなだから、故郷から追放されるんだよ!
…って、今はそれどころじゃない!
オレは、身体に残された力の全てを降りしぼって、少しでもヤツらの近くに駆け寄ろうとした。
だが、遅かった。
オレの体力はあまりに残り少なく、ヤツらは今のオレにはあまりに遠すぎた。
間に合わなかった。
ガガガガガガガガ、ガガガガ、ガン!
そして事態は、誰も望まない方向へと進行し……
ドカバキドカン!
「う、うお!」
「たぁすけてぇぇぇえー!!」
そしてハシバミは、突如として暴走した馬車に乗ったまま、はるか遠くへと連れ去られてしまったのだ。
「は?」
いや、どうしてそうなる?
爆発は?
オレは大混乱だったし、小屋の連中はみんなそうだったろう。
改めてあたりを見渡して見るが…何も起きていない。
アレはもしかして、動かすのが久しぶり過ぎて変な動きになっただけなのか?
伝説の石の馬も、寝起きのくしゃみとか伸びとかはするもんなのか?
疑問は尽きない。
尽きないが、それを解消するすべも無い。
なにせ、石の馬はたった今、はるか遠くへと走り去ってしまったんだから。
そう、誰の手も届かないところへ、その背に乗せたハシバミと一緒に。
「ハハハハハハハハ!」
少し落ち着いて、それを理解した瞬間…オレは思わず笑い出していた。
「お、親分!」
「お気を確かに!」
「なんてこと…自信満々で言った予想が外れたショックで、ついに完全に頭がおかしくなったのね。
これはさすがに可哀想かも」
お前ら、後で覚えてろよ…!
まあ、今のオレは、そんな茶々もどうだってよかった。
なにせ、どうしようもなく、気分が晴れやかだったからだ。
顔に当たる新鮮な空気が、気持ち良い。
壁に空いた大きな穴から、新しい風が流れ込んでいた。




