表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/296

第七十七話(その2の1~2の途中まで)

その時、ざわつくガキどもを前に、牛野郎は、また


ドドン!


と、床を殴っておどしにかかった。


「いいかハシバミ!

お前がガキどもを殺さなければ、代わりにお前を殺してやる!

優秀でないものはいらんからな!

優れた部下は、俺様のような優れた上官に従うものだ!」


そのハシバミは、牛野郎の大声に身をすくませ、顔をうつむかせている。

迷っているのか…?


いや、そんな必要はないんだ。

だって、お前は悪くない。


それになにより、このままじゃお前、ホントに……

その先を考えると、オレはなんだかたまらなくなって……

そこへ、またハエの羽音が、あのブンブンいう音が、耳から離れなくて……


そして、その間にも牛野郎はどんどん怒りをつのらせていて…話す言葉もだんだん荒っぽく、強制的に、逆らったらどうなるかというおどしの色を強めていって……


「もう、やめて…くれ

全部…オレが悪いんだ

ゆるして…くれ」


そして気づけば、オレは牛野郎の前で土下座をしていた。

目が熱い、前がよく見えない…


オレは、あふれる涙もふけないまま、ただ謝り、こい願う。

だって、もうそれしかない…それしかないんだ……


「オレたち【猿人】が悪かったというのは、よく分かった

いくらでも謝る。

だから…だから、そいつには、そいつと他のみんなには、手を出さないでくれ」


「親分!」


「手を出すな!

オレが話をつける!」


声をあげかける仲間を、まだかろうじて動く右手を上げて押しとどめる。

だって、実際にはもう誰も『手を出す』なんて余力が残ってないことは明らかだったから。


そしてオレは、可能な限り丁重に、交渉を持ちかけ始めた。


「なあ、【剛腕のガド】

アンタも立派な武将なら、いくさの『落とし所』というのが分かるはずだ。

だから頼む!

今回のケジメは、オレの命だけで勘弁しちゃくれねえか…!」


言葉だけではなく、何度も頭を下げて地面にこすりつける。


「頼む。

このとおりだ…!」


今回の交渉には、使える交渉材料が何も無い。

駆け引き出来る余地すらあまり無い。

だから、出来るのは、こうして精一杯語りかけることだけ。

それだけだ……


「それにアンタも、このあたりの村々全部を敵に回したくはないはずだ!

ここにいる皆や、ハシバミを殺せば、確実にそうなる!

いくら『メクセトの戦車』でも、たった一台、それも乗り手がケガしてちゃ、ずっとは戦えない。

なあ、アンタは、そんな状態で『戦』を起こすつもりなのか?」


「…お前一人だけなら、そうはならないと言うのか」


や、やった…!

食いついてきた!


いや、焦るな。

今は、着実に交渉をまとめるんだ。


「ああ、オレの親父イワモリとその祖先。

そして海の神ハザーリャと海底地獄の女王ルウテトに誓う。

オレが殺されても、他の仲間が無事なら絶対に仕返しはさせない!

もし、この誓いが破られたら、オレもオレの仲間たちも、永遠に海の幸を食べることはなくなるだろう。

そして死後は皆、ルウテトに引き渡され、神をも殺すような、恐ろしくマズい毒物料理を食わされ続けるだろう…」


この文句は、この【北辺海】の村々に伝わる正式な誓いの作法だ。


まあ本当は、誓いに実効力をもたせるためには、村長や【長老衆】なんかの立ち会いが必要なんだが…そんなおえらいさんを、今すぐここに呼べるわけもないし、これだけで勘弁してもらうしかない。


肝心なのは、これで“相手を持ち上げている”ことがしっかり伝わっているかどうか、だ。

あの牛野郎…ガドの一番の弱点は、その高慢さ、つまりは自尊心プライドだからな。


殺戮計画も復讐も、元を突き詰めれば自分がチヤホヤされたいという欲望の挫折に過ぎない。

要するに、時代の変化で理解されなくなった“素晴らしい自分”を他の誰かに認めさせたいんだな。

だから、うまくそれを満たしてやれば、あるいはオレみたいなヤツとの交渉だって……


さて、これでどうだ…!


オレは意気込んだ。

だが…次に牛野郎が投げかけてきたのは、実に奇妙な問いかけだった。


「…お前はなぜ自らを犠牲にしようとする

昔からの仲間だけならまだしも、ハシバミは、お前にとってただのヨソモノのはずだ」


ああなんだ、そんなことか。

なぜそんな当たり前のことを問われるのか。

オレは、それを不思議に思いながらも答えを返した。


「オレがこのあたりのガキのアタマだからだ。

武将が、部下の面倒を見るのは当然だろう?

どれだけ能無しでも、出身がどこだろうと、そんなことは関係ない」

「…自分の命と引き換えでもか?」


ガドは、いぶかしげだ。


つくづく物わかりが悪い男だなぁ……

仕方がないので、オレは分かりやすいように、たとえを使って説明してやる。


「お前の兄貴は、そうじゃなかったのか?」

「…!」


ここに来て、ようやく牛のくもったような目に光が灯りだした。

果たしてその脳裏に何がよぎったのか…まあ、オレには関係ないことだな。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ