第七十五話(58~59まで)
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「これでもう終わりだ!ぺっ、手こずらせやがって!」
そして目覚めは、最悪だった。
まさか、ナギサ以外にけられて起きることになるとはな…。
もう二度と経験したくはないが、どのみちこれが最後の経験になりそうだな。
それはそれで、嫌なもんだ。
そうだ。
オレたちは、また負けた。
完全敗北だ。
なぜか片方しか開かない目には、折れた小刀が見える。
その隣でうずくまっているのは…ジロのヤツか?
どうやら、オレのもくろみ自体は上手くいったようだ。
上手く投げ渡せたか自信はなかったんだが、ちゃんと縛られていた縄を切れたんだな。
それに、ジロウたちの様子をみれば、アイツらがけっこう善戦は出来たことが分かる。
しかも、あれは隣村の連中じゃねえか。
オレたちの村の仲間も、隣村のヤツらも、一緒に肩を貸しあって寄せ集まっている。
その中心にいるのは…ナギサか!
どうやら、まだ無事みたいだな。
そうか、この状態を作ったのはアイツなのか!
どうやら、オレが気絶する直前に聞いたのは、団結を呼びかけるアイツの声だったようだ。
それは見事に成功し、二つの村のガキどもは、結束して牛野郎に立ち向かうことが出来たってワケか。
結果的には、それでも負けちまったようだが…まあ、よくやったと言えるだろう。
少なくとも、パッと見た感じ死人は出ちゃいねえ。
小屋の隙間から差し込む日差しから察するに、あれからかなり時間がたっているにも関わらず、だ。
「いいか、お前らは負けたんだ!
これからお前らはオレの配下として、この地に正当な秩序の王国を、誰もが【牛人】に仕える正しい世界を…」
ヒヒーン!
「な、なんだ?」
牛野郎の妄言をさえぎったのは、馬のいななく声だった。
いや馬?
この小屋に馬なんて、ハシバミがいじくってる石の馬しかいないぞ?
そこで、なぜか牛野郎が勝ち誇った。
「どうだ!
これこそが我が秘宝、この世に正義を示す最強の兵器!
これを復活させたのは…」
「ハシバミ!
お前か!
お前、意外と出来るヤツだったんだな!
というか、伝説は本当だったのか!」
「おい!
ヒトの話を…」
聞く気には、まったくなれなかった。
そこには、かつてオレが夢見たものがあったからだ。
古びてはいたが、強大な力を感じさせる偉容。
二つの車輪、固そうな装甲、
そしてなにより、ヒヒーンといななく、石の馬!
これこそまさに、伝説に聞く『メクセトの戦車』!
ホンモノだ!
コイツを、あのハシバミが直したのか!
思わず、その感動が声に出る。
「ちょっ、お前スゲーな!」
オレに合わせ、周りのヤツらもスゲースゲーと歓声を上げ始めた。
これだけの一体感、年に一度の祭りの時でもないかもしれねえなぁ。
深く感慨にふけるオレだったが…
ドドン!
「うるさい!
静かにしろ、貴様ら!」
それも、また突然の騒音で邪魔されちまった。
チッ、またヤツか。
せっかく盛り上がってきたっていうのに…
しかも、あの人殺し野郎、まだあの鈍器を使えていやがる。
まあさすがに、右手じゃ無理みてえだ。
あの時の傷は、まだしっかり残っている。
だがチキショウめ。
あの野郎は、左腕一本だけであの重そうな代物を使いやがった。
多少、音がブレたところからみるに、たぶん左は利き腕じゃねえんだろうが……
それでも、オレらを皆殺しにするなら、アレでも十分だ!
チキショウ、オレたちがやったことは、全部無駄だったのか!?
「俺様は、この戦車を使って貴様らサルどもの村を全て支配してやる!
そのアカツキには、サルどもは皆殺しだ!」
な、なんだって!?
馬のいななきを伴奏に、牛野郎は、演説を続ける。
曰く、これまで自分たち『牛人』が、いかに“虐げられて”いたか、とか。
曰く、いかにオレたち『猿人』(さるびと)が、“不正”に富を奪い取り、邪悪を為してきたか、とか。
それは、盛大にお涙ちょうだいの泣き言でデコレーションしたヤツ自身の恨み、そして劣等感の正当化だった。
自分が傷ついたこと、自分が負けたこと、自分が責任をなすりつけたいこと。
自分、自分、自分。
それは、自分のことしか頭に無いヤツが語る、自分自身をなぐさめるためだけの繰り言だった。
ああ、そういや栗なんて、もうずいぶん食べてねえなぁ……
つい、そんなことを考えてしまうほど、それは無意味で退屈な話だった。
その仕舞いにヤツは大きく叫んだ
それは、これまでに増して、とんでもない宣告だった。
「よくやったハシバミよ!お前は、この戦車を見事に修理した!
さあ、次はコレで他のサルどもをブチ殺すのだ!
俺様への忠誠心を見せてみろ!」
な、なんだと!?
この野郎、オレのダチに何をさせる気だ!




