第七十四話(57~58の途中まで)
なぜ来た?
アンタの考えることなんて、お見通しよ!
ええい、とにかく行くぞ!
のんびりしてると置いてくわよ!
待ちやがれ、チクショウめ!
捕まえてごらんなさいよー!
牛野郎を、だろ?分かってるって!
それは、ほんの数瞬の間に交わされた言葉にならない言葉だった。
いや、いくら幼なじみだからって、目くばせやちょっとした身ぶりでそこまで心が通じ合えたとは、さすがのオレも思わない。
長く付き合ってきたということは、それだけ多く互いに失望したりすれ違ってきたということでもあるしな。
だが、今回に限っては、オレたち二人は完璧に連携を取ることが出来たと思う。
走りながら位置を交換してのフェイント!
そこからの、ゴミを投げつけての目くらまし!
出来ることは大して無かったが…それでも、この状況で出来る限りのことは出来たはずだ。
その最大の成果は、初手で牛野郎の鈍器を封じることが出来たことだ。
まあ、そのときオレが言ったセリフは、我ながら最悪だったような気はするけどな……
「ナギサ、“もう一つのフレイル”をお見舞いしてやれ!
女子なら隠し場所はあっただろ!」
「何言ってんのよ、バカ!」
そう文句を言いながらも、ナギサは、ちゃんと服の中から“何か”を取り出してくれていた。
牛野郎は、それに注目せざるを得ない。
それも仕方ない。
さっき、ナギサのフレイルに手痛い目を見せられたのは、忘れたくても忘れられない失点だろう。
もちろん、“もう一つ”なんて存在しない。
ナギサの武器は、取り上げられた一つだけ。
これは、オレのハッタリに過ぎない。
ナギサが取り出したのは、アイツが背伸びして身につけていた…まあ、本人の名誉のために、そのあたりは話さないことにしておこう。
この場合、そこは重要じゃないし。
「よしっ!これでどうだ!」
ともかく、そのおかげでオレは見事、愛用している小刀を取り戻すことに成功した。
だが、その後がマズかった。
オレはすぐさま、牛野郎の右手を斬りつけたんだが、アイツは……
「このっ、クソガキが!」
「ぐっ!」
即座に、オレを吹き飛ばしてきた!
一瞬だけ身体が宙に浮いた…かと思えば、
激しく固い何かーーたぶん小屋の柱か壁ーーにぶつかる。
…これは、けられたのか?
すごくいたい…ほねが、おれた、か?
きもちわるい…
はきけ、が…
そこでオレは、胃の中のものを全部ぶちまけちまった。
ヤツの利き腕(であってくれ、頼む)である右手を傷つけた以上、もう最大の脅威だった鈍器は使えないとは思うが…これじゃ、オレも全く動けねぇ。
せめてもの救いは、吹き飛ばされる直前、武器二つを投げておけたことだ。
上手く仲間の手に渡っていれば良いんだが……
もうろうとする意識の中、耳に流れ込んできたのは、争う物音と、
「ひぃぃぃい!」
ハシバミの叫び声だった。
まあ、コイツだけ作戦伝えられてねえんだから、驚くのも無理ねえ話ではあるんだが。
この声さえも、今となっては、なんだかもう懐かしい。
いかんなぁ、過去を振り返るなんて、こんな短い間にジイさんになっちまったみてえじゃねぇか。
まだ“決戦”の最中なのに……
なんだか眠い。
意識が遠くなる。
ハシバミ、オマエは早く逃げろ……
オマエだって用が済んだら“前任”みたいに殺されちまうんだから……
オマエは、もう十分すぎるほどがんばった。
今は確かに、村の仲間が戦う“総力戦”だが、なにもそれに付き合うこたぁねえ。
だってお前は、本来無関係なんだから。
あの人殺し野郎がここに来たのも、お前のせいなんかじゃない。
ただの偶然だ。
だから、責任感じなくても良いんだぜ。
お前がこんなピンチに追い込まれたのは、不幸に巻き込まれたのは…みんなみんな、オレのせいなんだから。
ぜんぶ…オレが…悪いんだ…
だから…だから…
早く…逃げろ…
オレは叫ぼうとしたが、声が出なかった。
意識があっという間に遠のいていく。
何か大声が聞こえた気もしたが、それでもまぶたが言うことを聞きやしねえ。
オレは、気づかないうちに、眠りに落ちていった……




