第七十三話(57の途中まで)
どうやら、アイツが修理の達人の息子だっていうのは本当みたいだ。
言葉こそ弱々しいが、その手の動きはしっかりしていて、しかも速い。
手だれの職人や、オヤジたち漁師を思わせる動きだ。
だからこそ、牛野郎も“本物”であることを疑いもしないんだろうな。
さっきあれだけ怒らせたのに、今はひたすら修理のなりゆきを見守っているくらいだし。
…いや、さっきのはオレが悪かった。
そこは本当に反省している。
しかし、どうやら今のオレらは、村やウチに対してじゃなく、ハシバミを働かせるために人質になっているようだ。
そこは推理が外れたか。
だが、どちらにせよこのままじゃ、オレらを待ち受けている運命はただ一つ、死だ。
それを逃れるためには、たとえ無理矢理にでも、こちらから行動を起こすしかない。
今縛られている仲間と力を合わせ、一斉に襲いかかる。
それしかない。
勝ち目はありそうもないが、負けるつもりで戦って勝てるわけもない。
可能なかぎりこちらの戦力を増やし、相手の隙をうかがって…文字通り、身体ごとぶち当たって万が一の勝機をつかむ!
まあ、オレもこれまで、何も考えずに挑発してきたわけじゃない。
策ならある。
…最悪に近い、破れかぶれではあるんだが。
実のところ、オレだけなら、今すぐにでも脱出は出来るんだ。
少し前に何度も牛野郎に殴られたとき、暴れるふりをして肩の関節を外しておいたんだ。
痛みのあまり、ちょっとばかり怒りっぽくなっちまったのは計算外だったが…
ともかく、ただ縄から抜けただけじゃ、さっきの二の舞だ。
まず狙うべきなのは、牛野郎本人じゃなく、その手元だ。
とにかく、武器を取り戻さなけりゃならない。
あそこには、取り上げられたナギサのフレイルがある。
そして、オレの小刀もある。
万が一のときの護身用というより、ニワトリと交換するために持ってきたんだが、まさかこんなことに役に立つとはな……
さっきの襲撃に、小刀を持ったヤツはいなかった。
それに、オレの小刀の質は、ここいらじゃ一番のはずだ。
アレは、牛野郎にも“効く”可能性がある。
まあ、小刀を取り戻したところで、さすがに牛野郎を一撃で殺したりするのは無理だろうが……
それでもあると無いとでは大違いだ。
まさか、金持ちのボンボンに生まれたのが、こんなときに役立つとはな。
…ああ、ホントは分かってたさ。
オレの憧れが、単なる金持ちのぜい肉、暇つぶしに過ぎなかったってことぐらいはな。
本当に遠くへ行きたいなら、もっと料理の勉強を真面目にやるべきだった。
それがダメでも、文字通り世界一周する【周航船】にでも潜り込むべきだったんだ。
たとえ奴隷になっても良い。
ハシバミも牛野郎も、こうして遠くから来てるんだ。
それが本当にやりたいことだと思うのなら、オレだってそうするべきだったんだよ。
自分はなんにもしないまま、欲しいものがこっちへ来るのを待つなんて、まさにガキでしかない。
オレも、ただの甘やかされたガキだったってワケだ。
こんなときになって、ようやくそれに気づくとはな…
オレも本当にバカだ。
だが、それと今やらなきゃいけないことは全く別の話だ。
たとえ命と引き換えにしても、村の仲間は…そしてナギサは守ってみせる!
結局、旅に出るどころか漁師にすらなれずに死ぬかもしれねえが…なあに、構いやしない。
オヤジやオフクロだって、きっとこの方が良いって認めてくれるはずだ!
チャンスが来たら、一気に攻める!
失敗したときのことは考えない!
こいつが、このテツモリさまの初の漁ってヤツさ!
「か、かかった!」」
そして、“そのとき”は唐突に訪れた。
ハシバミが、いきなりあげた声。
それが、本当に『石の馬』の修理に成功した歓声なのか、それともオレらのための合図だったのか……
それは分からなかったし、実のところ、そんなことはどうでも良かった。
オレとナギサはその瞬間を狙い、同時に牛野郎に襲いかかっていた!
…あれ?
なんでナギサまで来ていやがるんだ!?
ええい!
とにかく行くぞ!




