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第七十二話(56~57の途中まで)

「ひ、ひぇぇ…」

「あ、あの野郎……!」


急に、巨大な影がむくりと立ち上がった。

岩陰ではなく、確かに生きているとはっきり分かるのは、そこに煌々(こうこう)と輝く二つの眼が、それを主張しているからだった。


全てを恨むような、その視線。


怪物が、そこにいた。

オレは見誤っていた。

敵の凶悪さを、歴史に語られるほどのその強さをそして何よりもその闘争心を。


ヒトデのように群がっていたガキたちが、弾き飛ばされ、薙ぎ払われる。

奇襲の失敗。

それは、疑いようもなく、オレたちの敗北を意味していた……





「修理出来なかったら、分かっているだろうな?」

「は、はいぃ!」


「そうそう、もし出来なくても、そこの八つ当たり牛がイライラし過ぎて死ぬだけだからな

ハシバミ、いくらでも修理に失敗して良いぞー!」

「お前は黙ってろ!

そこの女どもがどうなっても構わないのか?」


「ぐっ」

「やれるもんなら、やってみなさいよ!

アンタなんか全然怖く無いんだからね!」


「ひ、ひぃ!

修理はボクがやりますから、ナギサさんたちにひどいことしないでください!

すぐ終わらせますから!」


「フン、いいな、すぐだぞ」

「ひ、ひゃい!」


やれやれ、ハシバミ以外、全員縛られちまった。


まあ、ナギサたちを責める気にはなれない。

オレも、牛野郎がここまで強いとは、予想もしてなかった。


大人と子供で、身体の大きさなんかが違うことは良く分かってはいたつもりだったが…

奇襲が成功したうえでこれだけの数で襲いかかっても、まだ負けてしまうというのは…さすがに予想外だったぜ。


とりあえず、状況を再確認してみよう。

戦いに勝つのはいつだって、情報をより把握した方だからな!


と、いうわけで、隣で縛られている、手負いのサメみたいな女子に話しかけてみることにする。

もちろん、牛野郎への警戒を続けるのと、声をひそめるのは忘れない。


「おい、ナギサ」

「あぁによ?」


イカン、これはかなり不機嫌な状態だな。

分かってたけど。

牛野郎をブチのめす以前に、まずコイツから話を聞き出さなきゃいけないことで気が重い…


ま、まあ、やるしかないか、当たって砕けろだ!


「援軍は来そうか?」

「…期待出来ないわね。

一応使いは送ったけど、子どもの話を信じてもらうのにまず時間がかかるし…たとえ助けが来たとしても、私たちがこうして人質になっているもの。

それに、」


ここでナギサは、アゴで小屋の惨状を示してみせた。


ボコボコにされ、縛られたオレら、新しく壁に空いたたくさんの穴。


そして…その穴を空けた原因である巨大な鈍器。

ソレは今こそ床に放ってあるが、当然、牛野郎がいつでも手に取れる位置にある。


たとえ助けが来たとしても、その直撃を受ければ…ああなるのは、明白だろう。


オレは、少しだけハエの集会に目をやってから、すぐに視線を戻した。

ああなりたくはないし、これ以上、誰もあんな目に合わせるつもりも無い。


だが…だが、手段が無い。

完全な手詰まりだ。


「しかも、それだけじゃないでしょ?」

「ああ、そうだな…

アイツは、この期に及んでも、まだオレたちの名前を聞いてこねえ。

村に人を送った気配すら、ありやがらねえときたもんだ」


「それはつまり、身代金の要求をするつもりがない、私たちを人質に使う気が全くないってことよね。

村一番の財産持ちの娘とそのオマケを捕まえておきながら、この扱いとは…あたしもやきが回ってものね」


「おい、さりげなく順位を逆転させるんじゃねえ。

財産の量なら、オレんちが一番だろうが」


「今はそんなことでモメてる場合じゃないでしょ!」


「おい、何をこそこそとしゃべっている」

「ちっ」

「今度こそ息の根を止められたいか?」


にらみつけてくる人殺し牛野郎。


こうなると、思い出さざるを得ない。

ヤツが兄の仇を手当たり次第に探していたことを。


そして、その仇が高い地位についていることが多い、オレたち【猿人】(さるびと)だと、ハナっから決めつけていたことを。


いまや、ヤツはそんな憎んでる種族の子供をたくさん捕まえたわけだ。


張り詰める空気。


だが、そこでその空気を読まないヤツがいた。

その名前は、わざわざあげるまでもないだろう。


「あ、しゅ、修理の調子がすごく良いなー

すぐにでも直っちゃいそうだなー!」

「本当か?」


「い、いやーすぐかと思ったら、もうちょっとかかりそうだデスネー!

残念デスネー

すごくすごく残念デスー!」


そこで、牛野郎が鈍器で床を殴った。


ドカン!


「ひいっ!」

「お前も黙れ。

口じゃなく、手を動かせ」

「は、はいぃー!」


…なんとかしのいだか。

まさか、ハシバミの空気の読めなさに、いや、その気づかいに救われるとはな。



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