第七十話(54~55の途中まで)
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メクセトの戦車は、この【食卓界】の歴史を変えた兵器だ。
その特徴は、その速さ、それと破壊力にある。
各地の武将が、メクセトの軍を一番苦しめた戦術はゲリラ戦、つまり地形や罠を利用した奇襲の繰り返しだった。
メクセト軍は、優れた武装を誇っていたが、重たい盾や弓や槍は、かえって狭い道や険しい山河では使いにくかったワケだ。
だが、戦車はその状況を大きく変えた。
その速さは罠を蹴散らし、砲台から放たれる火炎や砲弾は、逃げる敵兵たちを焼き払ったんだ。
その恐ろしさは、今も昔話となって残っている。
そんな中には、指揮官用の石の馬に引かれた戦車まであって、コイツはメクセトの命令を聞いて永遠に敵を追い回したりしたって言うが……
流石にそれはどうなんだろうなぁ?
記念品の戦車像かなんかの話に、尾ひれがついだだけなんじゃねーか?
いや、ここにあるコイツはまさにそんな形をしちゃあいるが……
まあ、その活躍には、そんな戦車が走れるような道を作る工事やその道を守らせた寝返り兵たちの支援があったらしいし、むしろ世間一般では、戦車に守られていた『メクセトの移動台所車』(キッチンカー)の方が、有名だったりする。
実際、各地を征服していくうえでは、そっちの方が効果的だったんじゃねーかとは、オレも思う。
実は、戦車でこんがり焼かれたヤツらの大半は、『移動台所車』から盗み食いをしようとして見つかったマヌケだったらしいし。
けど、それはそれとして、戦車はかっこいいよな。
このあたりみたいな海沿いの土地には、戦車はあんまり来たことがないらしいのが残念だ。
なんでも、大陸中央部を貫通するデカい道路が出来たときだけは、メクセトの自慢のために(それとその支配を思い知らせるために)戦車部隊が来たらしいけど、それはどう考えても戦車らしい活躍じゃないしなぁ……
一度はその姿を見てみたい、と長年思っていたオレだったが、まさかこうしてーー
「黙れ!」
バン、と壁を叩く音によって、オレの話はそこでいきなり打ち切られた。
やれやれ、趣味八割、うさ晴らし九割、そして時間稼ぎ六割で話していたオレの戦車話も、コイツには通用しないってワケか。
…まあ、分かってたけどな。
計算が嫌いなオレだって、こんな目算が上手くいくとは、最初から思っちゃいなかったぜ。
料理なら、配分や割合を間違えても、無理矢理食っちまうことは、なんとか出来る。
あのナギサの手料理でさえ、魚のエサにしたりと、活用する手段は無いこともない。
だが、コイツはダメだな。
もう終わっている。
この人殺しの牛野郎だけは、煮ても焼いても食えそうにない。
今のコイツの頭にあるのは、暴力と復讐の二つだけ。
それをどうにかするなんて、メクセトが墓から蘇ったところで不可能だろうさ。
「お前がハシバミではないのなら、本物を呼び出してやる!
ヤツの居所を言え!」
さんざん『部下』に当たり散らしてから、オレの長話に付き合って、それでようやくそれを思いついたか。
遅いんだよ。
「残念だったな。
本物のハシバミは、もう遠くへ逃げた後だ。
お前なんかじゃ、絶対に見つけられないところへ行っちまったぜ」
「なんだと!
さっき逃げたガキどもの中にいたのか!
クソっ!」
そう言って、牛野郎はまた暴れ出した。
まわりにいる隣村の連中が、ひどくおびえていやがる。
…少し前までは、コイツらも、こんなんじゃなかったんだけどな。
オレらよりは臆病とはいえ、それでも殴られたら殴り返し、決して自分たちをナメさせないような、そんな気骨がある海のガキたちだったはずなんだ。
それが、これほど内気になるとは…きっと、よっぽどひどい暴力を振るわれたんだな。
もしかすると、あの世へ行っちまったのは、アイツ一人だけじゃないのかもしれねえ。
たかり続けるハエの塊をみながら、オレはそんなことを考えていた。
隣村に住んでいたとはいえ、オレはアイツのことは何一つ知らねえ。
この場を乗り切れたところで、たぶん興味ひとつもわかないだろう。
だが、それでもこれはないんじゃないか?
アイツは、地名も知らない遠くから自分勝手な理由でやってきた頭のおかしい牛野郎に、これまた頭がおかしい理由で出来るわけがない仕事を押し付けられ、あげくの果てに殺された。
そんな死に方が、この世にあって良いのか?
隣村の連中は、ほとんど縁もゆかりもない間柄とはいえ、同じ海の仲間ではある。
そんな仲間をよそ者に好き勝手されている姿をこうして見ていると…なんだか無性に腹が立ってきやがった。
元々、こんな理不尽な目にあわされて、腸が煮えくり返ってはいたが…
なんというか自分だけじゃなくて、コイツらとも怒りを分かち合っているような…不思議な感じだ。
今のオレは、柱に縛り付けられて、文字通り手も足も出ない状態ではあるが、なんとか牛野郎に一糸報いたくなってくる。
昔、メクセトに毒を出す工場を押し付けられて反逆したご先祖さまたちは、きっとこんな感じだったんだろうな。




