第六十八話(53~54の頭まで)
この【牛人】、自称【剛腕のガド】とやらの身の上話は、やたらと長ったらしいわりに、中身は単純だった。
一言で言うと、自業自得である。
ヤツらの種族は、見ての通り力が強く、戦争も得意な乱暴者だった。
だから、力が全てを決める【力の時代】では、覇権種族として繁栄していたわけだ。
だけど、メクセトが【食卓界】全土を支配したことで、その覇権も終わった。
更に、次に来たのが【美食の時代】だ。
当然、【牛人】たちも、美味いメシに夢中になった。
そして、いつも美味いメシを食うために、料理人を食わずに大事にするようになり、次に食材を調達したり育てるヤツらを、その次に調理器具を作るヤツらを……
というように段々と方針を変えていくうちに、すっかり乱暴者じゃなくなっちまったってワケだ。
そして気づけば、【牛人】たちの得意な暴力は、すっかり役に立たなくなっていた。
美食を得るためには、暴力はあまり使い道がないからだ。
もちろん、例外はある。
海賊や山賊はいつもいるし、国や縄張り同士の小競り合いはしょっちゅうだ。
だけど、大きな戦争とか、大規模な掠奪とかは、もうすっかりなくなっちまったんだ。
まあ、掠奪をすれば、他の土地から警戒されて交易がやりづらくなるってこともあるけど、一番の理由は、みんなが“暴力があるヤツ”じゃなくて“美食をくれるヤツ”に従うようになったってことだろう。
力だけを振り回して、食事の邪魔ばかりしているようなヤツらには、もう誰もついていかない。
それどころか、ヘタすれば隙を見て毒殺とかされるだろうな。
戦争にしても同じだ。
メクセトの時代以来、みんなが畑を耕したり、家畜を育てるようになったせいで、わざわざ遠くの土地まで戦争しにいくヒマなんて、もう誰にもない。
それに、弁当なんかの問題もある。
保存食には、かなりの技術が必要だしけっこう高い。
しかも、今の人間は、美味い食いもんじゃないと満足しない。
軍隊全員にそんなメシを食わせ続けるくらいなら、どう考えたって、戦争しない方が安上がりだ。
大軍を率いて長々と歩き、延々と武器を振り回すような真似は、もうやりづらくなったってワケだな。
というわけで、【牛人】は没落した。
まあ、とはいえ、連中もバカばかりじゃない。
中には頭の良い連中もいて、そういうヤツらは仲間を誘って家畜を飼ったり、衛兵や護衛なんかを始めた。
どっちにしても食材を守る仕事なんだが、これがまあまあ上手くいったらしい。
【牛人】は、ガタイもデカいし、今でもまだ、他の種族から恐れられる威光ってやつも残ってたからそういう仕事に向いてたんだろうなぁ。
けどまあ、そんな境遇に納得しない例外もいた。
というか、目の前にいる。
コイツだ。
この自称“剛腕”くんは、いわゆる名家の出ってヤツらしい。
なので、その家が潰れるまでは、働かずに食ってこれた。
で、ここからが問題なんだが…コイツ、他人をアゴで使うことに慣れ過ぎちまったせいで、逆に他人に指示されたり人の役に立ったりすることが、大嫌いになっちまったんだ。
しかも、この“剛腕”くん、カビが生えたご先祖の栄光と血にまみれた戦いが大好きなうえに、その馬鹿力以外に自慢出来るものが何も無い、ときたもんだ。
つまり、仕事で使いものにならない。
それでもしばらくは、先に家を出た兄貴に養ってもらってたらしいが…その兄貴も、少し前に死んじまった。
それも、よりによって山賊に殺されて。
死因は、銃殺だったらしい。
銃はどこでも厳しく取り締られてるって話だが、同時に、狩りの道具として最高の道具だということも、世界中で知られている。
それでも、きちんと整備して銃を使えるのはどこかの領主の支援を受けたヤツだけだそうだから…たぶん、そういうことなんだろうな。
コイツはもちろん怒り狂い、山狩りまでして犯人を探したが、ついに見つけることは出来なかった。
ただ、兄貴は確かに殺されたが、【牛人】たちの集団自体には、わりと問題が無かったようだ。
むしろ、その事件の前より良い武器を持てるがようにまわりから配慮されたり、かえって扱いは良くなったみたいだな。
その死んだ兄貴ってのが、よほど良いヤツだったらしくて、生きていた頃にあちこちにダチやコネを作っていたおかげなんだとか。
ただ、そんな【牛人】の中でも、コイツだけは、上手く収まるところを見つけられなかった。
コイツは、ひたすら犯人探しに没頭しては、見つからないいら立ちや兄貴を失った悲しみを怒りにと暴力に変え、そこらじゅうで当たり散らしていたそうだ。
ちなみに、そのご当人は、兄貴が死んだその当日は何をしていたかというと…よりによって仕事をバックれて、ツケで呑んでいた。
本人の弁明によれば、雨と退屈な仕事が嫌だったとのことだが…そんなヤツが、自分を棚に上げて他人の悪口を言い回ったら、どうなるか。
コイツには、そんなことすら分からなかったんだろうなぁ……
結局コイツは、まわり全てのヒトビトから、完全に見放されちまったというわけだ。




