第六十七話(52~53の途中まで)
殴られた痛みは、まあ大したことはない。
問題なのは、こうしてオレを監禁したヤツらの目的が、全く見当がつかないということだ。
そりゃあ、村同士のケンカでも、たまには人質を取ったり取られたりすることはある。
けど、それはあくまで村の名誉をかけた正当な『戦争』の上でのこと。
最初に何かしらのいざこざがあって、悪口合戦になり、手が出て、次にそのダチや兄たち年上の若衆が引っ張り出される…というようなお決まりの流れと段取りがあって、初めて許されることだ。
『戦線布告』が無ければ、オレみたいなガキ大将をいきなり攻撃するなんて、普通は考えられない話なんだ。
なにより、そうやって暗黙の取り決めが守られていなけりゃ、いくら子供同士のケンカだって、村の大人たちや長老衆が放っておくわけがない。
さっきの話につながるが、古代帝国を滅ぼしたときの『反メクセト連盟』の名残りは、まだ完全に消えちゃいねえしな。
それを無視した横暴なんて、肝っ玉のちいせえ隣村の連中に出来るわけがねえんだが……
さて、しかしやけにケガ人が多いな…
縛られてヒマなオレは、あたりの連中を観察していたんだが、妙なことに気がついた。
襲われたときには気づかなかったが、コイツら、みんなケガしていやがる。
確かに、オレも手当たり次第に殴りはしたが、この人数は、明らかにそれより多い。
おかしい。
最近、こっちじゃ派手な“出入り”は無かったはずなんだが…?
そのとき、唐突に闇が動いた。
いや、闇だと思っていたものが。
やけに暗いと思っていたら、それはソイツが影を落としていたからだったらしい。
積み上げられた荷物?なぜか室内にある巨木?
いや、違う。
コイツは、ただデカいんだ。
村の若衆と比べても、頭二つは上回るであろう長身。
両手を広げても囲めそうにない、やたらとかさばる図体。
そこにいたのは、今までオレが見たことがないくらいの大男だった。
こいつは絶対に、この辺りのヤツらじゃない。
いくら全身をボロきれでおおっていても、それくらいは明白だ。
と、その時、ふいに起きた隙間風でボロきれがほぐれ…ソイツの頭が見えた。
太い眉、ギョロリとした大きな目、傷だらけの顔…そして最大の特徴。
そこには、折れた二本の角が生えていたのだ。
「【牛人】(うしびと)か…」
「そうだ、悪いか!」
「別に悪かないさ。大方、奴隷商人から逃げ出したってところだろう?」
「…逃げたのは、荷揚げ場からだ。
あそこは…ひどいところだった…」
お!どうやら、コイツは、自分の身の上話を語りたがっているらしい。
これはチャンスだ!
もっと話を引き伸ばさないと!
「【牛人】といえば、大陸中央部の覇権種族だろ?
強くてタフで、【獅子人】なんかよりずっと数が多い。
それがなんで、こんなところにいるんだ?」
「全ては、時代の変化、そして貴様ら【猿人】(さるびと)のせいだ!」
牛野郎は、そこでドン、と壁を殴りつけた。
壁はあっさりと砕け、衝撃で天井からばらばらとホコリが降ってくる。
よし、良い感じだ。
もう少し“誘って”みるか。
「ま、まあ、待て!
なんで怒ってるか、オレにはよく分からねえんだ!
どうか、ちょっと話してみちゃくれねえか?」
さて、これで乗ってくれるとありがたいんだが…
「フン、いいか良く聞け。
俺たち高貴な【牛人】は…」
成功した!
おっし、最近ツキが来てるな!
これで、時間稼ぎついでになかなか聞けない陸の話も聞けるって寸法よ!
どうだ、テツモリ様のこの頭の冴えは!
※
※
※
わずかも経たないうちに、オレは後悔していた。
ごめん、オレが悪かった……
まさか、まさかコイツの話が…借金まみれで呑んだくれのドロブカのおっちゃんよりつまらないとは思わなかったんだよー!
退屈で退屈でしかたがねぇー!!!
話を聞き出そうとしたオレが悪かったから、もう勘弁してくれ〜!




