第六十六話(51~52の途中まで)
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「おとなしくしているんだな!」
「ケッ、ぎちぎちに縛り上げておいて、まだ安心出来ねえとは、とんだ臆病も…ぐっ!」
「フン、言うことを聞かないからだ」
そう、それは、またまた真夏の暑い日のことだった。
オレは、監禁されていた。
薄暗い小屋に閉じ込められ、まわりを荒くれどもに取り囲まれている。
隣村に“遠征”に行く途中、集団で襲われて誘拐されたのだ。
オレたちも勇敢に戦ったものの、相手の数が多すぎた。
仕方なく、オレがしんがりになって他のヤツらを逃したところまでは良かったんだが…
オレ自身は、代わりにこうして捕まっちまったというわけだ。
こんなことなら、ハシバミのヤツの道楽に付き合うんじゃなかったなぁ……
そう、今回の“遠征”の目的は、いつもと違ってケンカじゃない。
となり村でニワトリが安く手に入るんじゃないか、という噂があったので、それを確かめに行くところだったのだ。
このニワトリ入手に一番熱心だったのが、あのハシバミだった。
ニワトリに限らず、海では陸の食べ物を手に入れるのが難しい。
あの“人工呼吸事件”の後、そのことを初めて知ったアイツは、がぜんニワトリの入手に積極的になった。
“山なら手軽に手に入る食べ物が、すごく高価で手に入らないなんて、間違ってる!”
だ、そうだ。
いや、“間違ってる”も何も、そういうもんなんだから、仕方ねえじゃねえか。
その代わりに、陸では海の食べ物が高値で交換出来るんだからよ。
だが、アイツは全然ヒトの話を聞かなかった。
この頃になってようやく気づいたことなんだが、ハシバミは、一度決めたことは何があってもやり抜こうとするヤツだった。
普段はぼんやりしていて、何を決めるにしても優柔不断なくせに、一回決断したことは、決して曲げない。
そういうガンコ者だったんだな、アイツは。
なに?
オレとそっくりだって?
馬鹿野郎、そんなこたぁねえよ!
アイツは、オレなんかと違って……
いや、その話はまだ早い。
ひとまず、誘拐事件の続きに戻るぞ。
まあ、そういったわけで、ハシバミの熱意に押されたオレらがようやく見つけ出したのが、さっき話した噂だった。
一言で言えば密輸入。
脱税ルートの話だな。
あン?犯罪じゃないかって?
そんなもん、警邏や衛兵に見つからなきゃ、問題ねえよ。
そもそも、税金、関税なんて道や橋のあちこちに突っ立ってるだけのヤツらが、『通行料』というお題目を使ってつまみ食いしてるだけのことじゃねえか。
そんなの、海賊と変わらねえよ。
オレらのところの領主様みたいに、海賊を追っ払う手数料として、わずかばかりの税を取るんならともかく……
なに?それをみんなが繰り返すから、税がかさんで遠くの食べ物が高くなるんじゃないかって?
……それはまあ、そうなんだけどなー。
それにも限度ってものがあるはずだろ?
遠い山奥と海をつなぐ道は、当然やたらと長い。
その全てを支配する領主とかがいないから、やたらと関税を重ね取りされちまうんだ。
それは流石に納得出来ねーよ。
そう考えると、ロクデナシとはいえ、メクセト皇帝が【食卓界】全土を支配していた時代は、実は良かったのかもしれ…いや、そうでもないか。
なぜなら、こうして領主があちこちにいるのも、元をたどればメクセトのヤツのせいだからだ。
ヤツは、地方の武装勢力や王国を次々と支配下におさめて自分の部下にし、自分のために税を集めさせた。
そして、その税や自分の軍隊を運ぶために、【食卓界】各地に大きな道や橋を作り、利用料を徴収もした。
で、結局は反乱されて、その領土をまたバラバラに分割されちまったというわけだ。
なにしろ、メクセトは、【食卓界】を文字通り自分の食卓にしようとしたくらいだ。
ヤツは、あちこちに特産品の育成を命じたり、献上されたその特産品を序列づけて産地への扱いを変えたり、はたまた“価値が低い”とみなした土地に工場を建てて毒を……
まあ、とにかく反乱されて当然な支配者だったんだよ。
『全部メクセトが悪い』ってやつだ。
そういったわけで、この【食卓界】には、メクセトが殺されて以降、統一帝国は存在しないし、税をたくさん払わないで済む道もそうそうない。
唯一の例外が、今回の噂みたいな場合で、“遠縁のよしみ”
要するに、親戚の親戚というように、ツテをたどってこっそり送ってもらうというやり方だ。
税のかからないけもの道や、他の荷に紛れさせてこっそり運び込む密輸なんかを利用するわけだな。
当然、それでも衛兵なんかの目はあるわけだが……
衛兵だってしょせんは人間。
というかほとんどのヤツは、片手間に兵役についてる農夫や採取人でしかないんだなぁ、これが。
だから、情やワイロ、そのほか色々な手管が通じちまうわけだ。
他にもかわいい女子との間をとりもつとか、バクチの借りを帳消しにするってのもアリだな。
と、言うわけで、今回の話は失敗する可能性こそ高いものの、別に危険とかある話じゃなかった。
そのはずなんだが…どうにも、しくじっちまったらしい。
意気揚々と出かけたオレたちは、隣村がまだ見えるか見えないか、というところで突然謎の集団に取り囲まれ…そして、今に至るというわけだ。




