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第六十五話(51の途中まで)

なに?

ナギサをごまかしたときと何も変わらないじゃないかって?


いや、今度はちゃんと、みんなの気をそらせそうなモノを選んだし…というか、いくら【北海】の漁師でも出来ることに限度くらいあるし…他に何も思いつかなかったし…


ともかく、後はひたすらハッタリを続けるしかない。

要はバクチと同じだ。

自信があるように振る舞えば、イカサマだってなんとか誤魔化せるに違いない!


「ほ、ほら、見てみろ!焼き立ての美味しそうなにおいが、こっちまでただよって来てるじゃねえか!」


…どうだ?


「そ、そういえば、なんとなくそんなにおいがして来たような気がするでヤンス!」

「ニワトリ…祭りのときにしか見たこと無いけど、アレって最初から焼けているモノだったのか!」

「ばっかおめえ、親分が言うんだから、間違いねえって!

親分は、料理の勉強をなさっているんだぞ!

おめえらだって、いつも親分におかの珍しい料理や食材の話をせがんでばかりじゃねえか」

「そういうジロ兄が、親分の話聞くの一番熱心じゃねえですか」

「うるせえ!俺は勉強熱心なんだよ!」

「こないだも焼き魚をこがしたくせに…」


よーし、よし!

上手くいったな!

バカばっかでホント助かったぜ。


まあ実際、オレだって、生のニワトリはなかなか見られねーんだけどな。


料理マンガだって、あんまり食材の生きている姿は出て来ないし、そもそも村のマンガはほとんどオレんちの所有物だしな。


昔話に出てくる『てれび』なんかじゃあるまいし、身近にいない生き物の姿や生態?なんて、意外と知る方法とか無かったりするもんなんだ。


マンガにも確か、魚は最初から骨を抜いてあるもんだと思いこんでいるガキが出てくる話があったっけ。


そんなところへ、知っていそうなヤツがそれっぽいことを口にすれば、みんな信じちまう。


まあ、もしかすると中には疑い深いヤツや、真実を知っているヤツもいるかもしれねえが…一番知識と人気があるニンゲンが言っていることに一人だけ反対するには、よっぽどの確信と度胸がいる。


それに、みんなが信じたがっているこの空気をわざわざぶち壊すのは、デメリットが大きいしな。


これまたバクチで覚えたことだが、人間、正しいことより、自分が信じたいことの方に耳を傾けるもんなんだよ。


そしてたとえ大損するとしても、自分が信じていることを否定されたら怒るもんだ。

火中の栗は拾うべからず。


直接自分の損にならないのなら、そんな危険なことはしないで、空気に流されてる。

結局のところ、それが一番いいんだ。


さーて、後は皆の注意がそれているスキに、ハシバミを落ち着かせて、上手く飛び降りさせ…


と、その時だった。


『晴天に黒雲』、『大漁に北辺海の主』と言うべきだろうか。

それは、突然の衝撃の訪れだったんだ。

なんと、良い感じになっていたその場の雰囲気を、無残に打ちこわすヤツが出てきたのだ!


「いや、ニワトリは最初から焼けてたりしませんし、そもそも空だって飛びませんよ。

みなさん、何やってんですか?」


……言うまでもなく今回の問題の中心、ハシバミのヤツだ。


何やってんのかは、こっちのセリフだよ!!

せっかくここまでお膳立てしてやったのに、これで全部水の泡じゃねえか!


もう何もかもイヤになったオレは、勢いよく両手を前に突き出した。

ちょうどそこには、さっきまで泣きわめいていたアホが、今は空気読めない感じで突っ立っている。


だが、アホはアホである。

やっぱり、まるで状況を把握出来ていない。


なので当然ながら、起きるべきことが起きた。


「えっ?うわあああああぁぁぁぁ!」


つまり落ちた。


ハシバミは、これで見事、村の儀式に成功したわけだ。

良かった良かった。

万事解決だな!


「お、親分…」


「『獅子は千尋の谷へ我が子を突き落とす』という。

ハシバミ、これも試練だ」


「親分、親分!」


「そう、海の神ハザ…ハザラ…ハザル?もたぶんお前のその試練への挑戦を歓迎している。

真の海の男たるもの、そうした困難を・・・」


「おやぶーん!」


「なんだやかましい!

今、いいところなんだよ!」


「い、いやだって…」

「あン?」


「浮かんできませんぜ、新入り」


「え?」


「ほら」

「あ、あーーーー!

ヤバい!」


すぐさまオレは、海へと身を投げ込むことになった。


そしてその後も、初めて同年代相手に人工呼吸を試みることになったりと、踏んだり蹴ったりだった。

まあ、アイツの村への受け入れというのは、こんな感じだった。


だが、アイツの、ハシバミの本当の良さについては、あのときのオレらはまだなんにも分かっちゃいなかったんだ。


オレたちがそれに気づき始めるのは、もう少し後のことになる。


それは、夏の真っ盛り。

この北海で一番太陽が輝いている頃のことだった……

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