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第六十二話(48~49の途中まで)


が、近づいてみると、どうも思ったのとは様子が違う。

特に気にしていなかったが、ぼろきれの近くには、どこにでもいそうな変なオッサンがいやがるし、おまけにどうも、このボロきれは、怪物でも珍獣でも無いようだ。


「……!……!」


だからといって、物珍しさには変わりはないが、少しばかり興ががれてしまったのも、また確かだ。


「……?……!……!……!!」


とりあえず、食っても美味そうじゃないことは分かったが、さて、どうやったらコイツから一番多く面白さを引き出すことが出来るだろうか…?


「……!……?………」


オレは、珍しく思い悩んでいた。

なので、ちょっと反応が遅れていたのだ。


「ねぇちょっと。アンタ、呼ばれてるわよ」

「あん?」


見れば、なにやらオッサンがしゃべっている。

いや、実はさっきからずっとしゃべっているのはオレの耳にも入ってはいたのだ。

全く興味がなかったので、聞き流していただけで。


仕方がないので、ちょっと耳を傾けてみる。


「ぼっちゃん、いいですか、コレは私の商品なので、そうお気軽に」


やはりどうでもいい内容だったので、傾けるのを止めた。

代わりに、こちらからしゃべりかける。


「なぁ、オッサン。ソイツいくらだ?」

「え?えぇ?」


頭悪アタマわりぃなぁ。オレがソイツを買い取るって言ってるんだよ!」

「は、はぁ〜!?」


それから、ナギサまでわいわい騒ぎ出したせいで、話が面倒になった。


まあ、整理すれば状況は簡単だ。


このボロきれは人間で、どこかから売られてきた奴隷のようだ。

これはまあ、明らかによそから来た商人なオッサンの格好を見ても分かる。


だが、この村では買い手はつかない。

必要ないからだ。


だから、このオレ様が買い手になってやろうと、そういった単純な話だな。

後はオッサンが首をタテに振りさえすれば良い。

それだけだ。


だが、こんな簡単な理屈だってのにオッサンもナギサも、なんのかんのと騒ぎやがる。


仕方ないので、


「ほら、代金はこれで良いな。じゃ、連れてくぜ」


オッサンに手持ちの『乾貨』を全部押しつけて、むりやり話を片づけることにした。


…そういえば、なんで『代金』とか言うんだろうなぁ?


金なんて、量がとれないわりに価値が低い金属なのに。

それに、干した貝を『乾貨』って呼ぶのも、考えてみればやっぱり謎だ。


オヤジが言うには、濡れてる生魚の方がよっぽど高いからだそうだが…生の海産物が支払いに使えるのは、ここいらみたいな海辺だけみたいだしなぁ……


ええっと、確か家庭教師が、なんかくっちゃべっていたはずだ。


【古代メクセト帝国】が、食べ物や食券予約券じゃない『貨幣』を配ったけど、【帝国】が滅びて、その価値がボーラクした…んだっけ?

それで、みんな『貨幣』を子供のおもちゃにしたり燃やして騒ぎまわったとかだったような…?


うーむ、たまたま雑談で面白かったから聞いていた話だけど、よく思い出せないなぁ。

やっぱり勉強は苦手だ。


「ちょ、ちょっと待ってください!

こんな、子供のこづかい程度で奴隷が買えるとでも…」

「なんだ?それでまだ文句あんのかぁ?」


「ひ、ひぃ…ってあ!こ、これは!」


ちょっとすごんでみたら、ようやく目の前が見えるようになったらしい。

オッサンは、オレが押しつけた乾貨を見て、目を白黒させていた。


「あ、アンタねぇ〜それ、遭難したときとかの非常用におばさんが持たせてくれたやつでしょ!

それを今ぜんぶ使っちゃってどうすんのよ!」


オレのものをオレが使って何が悪い。

これでオレは無一文だが、財というモノは使うべきときに使うもんだ。


「さ、行こうぜ!」


「あ、待ちなさいよ!まだ話は…」

「こ、これは間違いなく最上の乾貨!こんなやせガキにこれだけの額を!?」


後ろではまだわいわいやっていたが、支払いが終わればもう知ったこっちゃない。


オレは、ぼーっとしてるオッサンから鍵を取り上げて手錠を外し、ボロきれ改め、小汚い感じの元奴隷の手を引いて、勢いよく走り出した。


「え?あ、わ、わぁー!」


叫び出すのを聞いて、初めてソイツがオレと同じくらいの年のガキであることが分かったが、正直、今はそれさえもどうでも良かった。

とりあえず、男子なら全力で引っ張っていってもついてこれるだろう。


つまりは、何もかも問題はない。


そう、ついに新しい刺激がオレのもとにやって来たのだ!

さぁて、外から来たコイツは、一体どんな話をしてくれるんだろうなぁ?


あまりにも気分が良いので、一緒に叫ぶ。


「わぁーー!」

「わーわ、わぁ?」


青い、夏の空の下、オレたちは、どこまでも駆け抜けていった。


これが、オレとアイツの出会いだった。

後になって、オレは何度もこのときのことを思い返すことになる。


それは、ある良く晴れた夏の日のこと。

冬や夜が永遠に遠いように思えた、そんな時代の話だった。


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